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想い想われ、振り振られ。

作者: 吹雪 麗

久々に文章を書いたので、読みにくいところがあるかもしれません。


恋に悩む高校生の青春、そして勘違いからのすれ違いを描きたくて、こうなりました。お付き合いいただけると幸いです!

とても寒い日だった。

高校生活も残りは数える程度のある日。

「か、河西さん!」

私は、自分の名前を呼ばれて振り返った。

「…ええっと。もしかして……呼んだの、柳くん…?」

 数歩離れた距離ではあったけれども、私の方を向いているのは柳くんだけだったが、念のため確認をしたのだ。

 なんせその柳くんというのは、私の片思いの相手だったから。まさかその相手に呼び止められると思っていなかったから。

「なにか、よう?」

 呼び止められたはいいものの、柳くんはしきりに口をぱくぱく動かすけれど言葉を発しなかったため、不思議に思って問いかけてみた。好きな人相手に緊張しているのか私の口から出た声は普段より上ずっていて、恥ずかしくなって、それ以上はしゃべれなくなってしまった。

 俯いていると、上から、かさいさん、と柳くんの声がした。

 顔を上げてみると、え、ち、近っ!

 どうやら自己嫌悪に入っている最中に、柳くんは私の目の前まで来ていたようだ。だが柳くんの身長はそこまで高くないので、女の子の必殺武器上目遣いは使えない。

しかし遠くからでもわかるさらさらの少しくせのある柔らかそうな髪に、長い睫とくりっとした瞳、薄くてセクシーな口元を間近でみて、私は思わずにやりと舌なめずりをしそうになった。そこは理性で何とか抑えましたとも。


「河西さん、俺…」

「うん」

「河西さんのことが好きなんだ。俺と付き合ってくれないかな?」


 ん?

 今なんと?

 柳くんが、ワタシヲスキ? スキって、好き??

 え、ちょっと待って。

 あり得ないんですけど!

 だって、だって!


「柳くん、昨日私のこと、振った、よ、ね…?」


「…………えっ?」

 柳くんが固まったのが手に取るようにわかった。何を言っているかわからないという顔つきをして…。

 それ以上柳くんの様子を観察している余裕はなかった。

 私自身戸惑っていたからだ。

 でも。


 忘れもしない、今日と同じぐらい寒い昨日。

 今日で塾をやめる私は、塾でしか接点がなかった柳くんに勇気をもって告白したのだった。自分の気持ちを伝えたかっただけで、もちろんうまくいくとは思っていなかった。そして案の定振られた。瞬殺でした。だから今日だけは失恋に浸って、明日からは新しい恋を探そうと思っていた。思っていたのに…。

 

 これ、どういうことですか?



***



 柳くんに出逢ったのは、高2の塾の夏期講習だった。

 私が通う高校はそれなりに名の知れた進学校で、高2の夏休みから本格的に受験勉強に取り組む子が多かった。私も例にもれず、大多数に右ならえだ。もっとも塾に通い始めたのは高1の冬ではあったけれど。

 体も頭も蒸されそうな暑く、セミもうるさいぐらい鳴いていたが、設備の整った塾内はむしろクーラーが効きすぎて寒いぐらいだった。

 女の子はその寒さに耐えきれず、対策としてカーディガンを持ってくるのが常だった。だから勉強をしているその腕を見たら、背格好を見ずとも性別が分かる仕組みだ。

 だから、適度に小麦色にはなっていたもののほっそりした腕が見えたときは、珍しいなと感じた。ちょうどその真後ろの席しか空いていなかったので、そこに腰かけてふと前を見てみると、なんと男の子だった。ほっそりした腕なのに! なんて羨ましい!

 講習を聞きながらも、前のホワイトボードを見るたびに否応なく視界に入るので、この機会を逃すまいと観察した。

 細い腕つきと比例して、全体的に華奢なようだった。背は座っているので正確なところはわからないが、そんなに高くはないだろうと推測する。癖が残る髪は少し日に焼けている。さらりとしたシャツを羽織っていて、そこからのぞく首元や腕に日焼けの跡が見えたのでおそらく夏期講習と並行して学校の部活をしているのだろう。正面から確認したいところだが、ちらちらみえる横顔から好青年なイメージを受けた。

 うん、いい男。

 そこまで考えて、はっと口元を押さえた。いけないいけない。あまりのドストライクによだれが出そうだった。

 ただ、一目ぼれだったかといわれるとそうではない。このときはまだ、この人かっこいいなタイプだな、という感情で終わっていたし、前に座っている男の子がどこの誰だか知る由もなかった。

 どんな人かも知らないのに想いを寄せられるほど、私は恋に恋をしたいわけでなかったし、舞い上がってもなかった。



 夏休みが明けると塾も通常体制に戻る。学校帰りに塾に通う生徒も多く、私服姿と制服姿の生徒が入り混じっていた。

 夏期講習で遭遇した私のストライクゾーンの彼はどうやら同じ授業を受けていることが判明した。といっても相手は私のことを知っているはずもないし、私も彼の名前すら知らなかった。

 ただ、同じ空間にいれば、それだけ相手を知ることになるわけで。

 彼はたいてい制服姿で現れた。だから私は彼がどこの高校に通っているかを知ることができた。なんと彼は超進学校の生徒だった。私が通う学校なんて目じゃないぐらいの学区内でも指折りトップクラスのだ。恐れ入りました。

 そして運がいいことに彼の名前を知ることができた。彼と同じ制服を着た男の子が、彼の名前を呼んでいるのを、しっかりと聞き耳を立てて聞いたから。


「おっす、柳」

「おう」

「聞いたぜ、今日の話ぃ」

「……何のことだ」

「かー、またまた。んとに、お前ばっかずりぃよな、何人目だよ、え? 学年一可愛いみおちゃんに呼び出されたんだって? すげー噂になってたぞ」

「そんなんじゃねぇよ、ばか」

「羨ましい限りだぜ」

 

 それなりの音量で話していたら、嫌でも耳に入るものだろう。わざと聞いてたわけではありません。ええ、断じて。

 こういった情報を集めていくと、彼こと柳くんは結構おモテになるらしい。彼女がいるかいないかはちょっと不明。そこまで突っ込んだ会話を柳くんのお友達はここでは披露してくれなかった。うーん、残念。

 ともあれ私は最低限の彼の情報を手に入れた。柳くんのお友達、グッジョブ。感謝します。

 そしてやはり柳くんは秀才でした。神は二物を与えないというのは、絶対に嘘だと思う。そう確信できるぐらい、彼は賢かった。

 私が通っている塾では定期的にクラス編成を兼ねた公開試験が行われる。そして上位者の名前が張り出されるのだけれど、今回のテストの結果をほかの人と同じように眺めていたら、なんと柳くんの名前が3番目に書かれている!

 正直うちの塾のテストのレベルは高い。全国模試よりももしかすると高いかもしれない。そのテストで3番目の成績!

 そういえば、私が記憶している限り毎回のテストで彼の名前は少なくとも5位までには入っていたような気が…。

 ああ次元が違う。

 その日に見かけた柳くんの姿が光って見えたのは、たぶん気のせいではないと思う。

 だんだん“ストライクゾーンの男の子”から“気になる彼”に変化していっていることを自覚し始めていた。



 塾へは平日に2日、土曜日に1日通っていた。塾に通うのはもちろん勉強することが一番の目的ではあるけれども、高校関係以外での交友関係ができ必然友達が増えるというメリットもあった。

 学校終わりの塾は夕方以降に始まるので、そこでの友達と遊ぶというのは門限もあったりしてなかなか難しいが、土曜日は午前中に終了するので、予定を決めて塾終わりに遊びに行くことも多かった。

 幸いなことに柳くんと同じ学校の女の子とたまたま気が合い、仲良くなることができた。

 偏差値が高い学校には、容姿が整った方たちが集まりやすいのだろうか…と本気で思うほどに、その彼女も大変可愛らしい女の子だ。思わず呆けてしまって、口が開きっぱなしになってしまうところだった。危ない危ない。

 その子の話によると、やはり柳くんは女子生徒から「かわいい」と評判でモテるそうだ。ただそれは観賞用なるものが多いらしく、告白されること自体は思いのほか少ないそうだ。実際彼自身、彼女を作るつもりはないようで受けた告白を片っ端から断っているという。

 そして最後に、これは本当かどうかはわからないけど、と彼女は付け加えた。

「カレ、好きな人がいるみたい…?」



「結局は好きなんでしょ、その“柳くん”のこと」

 半分溶けてしまっているアイスを口に頬張りながら、私の親友ともいえる秋穂が言い放った。

 秋穂という純日本風な名前に似つかわしく真っ黒に輝くストレートの髪、パッチリ二重に黒目がちな大きな瞳、うっすらピンクに染まった頬に薄く色づいた赤い唇。これこそ、美少女を具現化したものだと間違えなく言える。

 そんな美少女が常に隣にいるんだもん、私がかすんで見えるのも無理はないよね。そりゃ愛の告白をするなら誰だって秋穂の方に決まってる。私が男だったとしてもそうする。隣にいる秋穂の完璧な外見を前に目も当てられない女に誰が目をくれるというのだ。うん、仕方がない。

 でもそんな外見に惑わされてはいけない。こいつ、顔に似合わずものすごく毒を吐くのだ。

「どうなのよ」

「好きって言われれば、そうだと思うけど…」

「いーい、ぼうっとしてたら他の女にもってかれるわよ。いいじゃない、付き合ってみて合わないんだったら別れちゃえば」

「もってかれるって…」

「女は当たって砕けろ、よ。将来の相手を決めろって言ってるんじゃないんだから。一発かまされてもそれも経験のうちよ」

「……ちょっと」

 背中を押してくれようとしてるのはわかるんだけど、なんせもう少しオブラートに包んでほしいというかなんて言うか。

 恋愛至上主義の彼女から告げられた言葉は妙に説得力を持っていた。だてに学年全員の男を惚れさせ、叩きのめしたと言われるだけはある。

 そんな秋穂も本命の人物を落とすのはなかなか容易でなかった。その相手は手強かった。しかし一度や二度で振り向いてくれないからと諦める彼女ではない。恋愛においても、その他のことであっても、押せ押せどんどんという考えしかない秋穂にとって、押してダメなら引いてみろという言葉は通じなかった。ふと気が付いたら、見事意中の彼を落としていたのである。鮮やか!

 しかしそれは秋穂だから通用したのでは? 彼女ほどの美貌を持っていたら、そりゃあ迫られたほうも悪い気はしないでしょう。ぐいぐい行くんだもん。惚れちゃうよね、ほだされちゃうよね。わかるよわかる。

 だからってその技をかすんで見えちゃう私がやっていいものなの?

 改めて親友の押しの強い性格に少々慄きながらも、それでも少しもやもやが消えたような気がしてお礼を言った。そうしたら案の定、「お礼」を要求してきたので、達者でかわいらしいお口をもちろん完膚なきまで叩きのめしましたとも。



「隣いい?」

 声をかけられたので、どうぞと言って少し体を動かそうとしたら、

 その人物は

 や な ぎ く ん ?!

「あれ、誰か来る?」

 いいえ大丈夫です! とぶんぶん首を横に振ったら、慌てふためいた私の様子を見て柳くんはふっと笑った。

 あ、すごく優しい笑顔…。

「河西さんて面白いね。見てて飽きない」

「それってどういう意味かなぁ?!」

 くすくすと柳くんが笑うので、つい私も微笑んでしまう。

 柳くんが気さくに声をかけてくれるので、それに答えていたら話が盛り上がってしまった。先生が来たのも気づかず、注意されて二人で顔を見合わせまた笑ってしまった。

 あれ? 私、柳くんとふつうにしゃべってる…。

 というか柳くん、私の名前知ってたの…?

 とくん。胸に熱いものが広がる。私のこと、知ってくれてたんだ。

 体温が上昇した。顔が熱い。

「どうしたの? 顔赤いよ」

 小さな声で柳くんが聞いてくる。

 え、やばい! なんでもないと返して、冷静さを取り戻すべく手を頬につけた。

 ところで柳くんと一度も話した記憶がないのだが、なぜ私の名前を知っていたんだろう。疑問に思ったが、私が柳くんの名前を知っているんだから、柳くんが何らかのきっかけで私の名前を知っていてもおかしくはないだろう。うん。

 納得して、授業に集中すべくホワイトボードに目をやった。


 でもこれで確信した。

 私はきっと柳くんのことが、好きなんだ。

 よくやく自覚したのは高3のもう夏の足音が聞こえてきている時期だった。



 そして高校生活最後の冬が巡ってくる。

 あれから私は何か行動に移すこともなく、ただただ時間だけが過ぎていった。

 あえて変化があったといえば、柳くんと顔を合わせたら会話するような仲になったというだけ。

 冬期講習も終わり、私は無事第一志望の大学への入学が決まり、あとは卒業を待つだけとなった。

 第一志望へ合格したので、もう塾に通う必要もない。退会の手続きを行い月末までの契約となった。来月はもう、塾に来ない。

 つまり、柳くんと会う機会もなくなる。

 その事実が私の胸に刺さった。

 

 このままでいいのだろうか。

 いいえ。

 心の中の私が否定した。

 何もなければ、もう会うこともないだろう。それほどまでに柳くんとのつながりは希薄だ。彼にとって私はただの塾での知り合い。よくて友達だ。

 一方でそれに満足している自分もいた。

 彼には好きな人がいる。ならば今のままで終わったほうが相手の重荷にならなくて済む。何も思っていない相手からの好意は迷惑以外ほかない。断るのだって気が滅入るもの。

 どちらにせよ、柳くんとはこれきりになるだろう。

 じわりと心が痛む。

 彼が好きだった。くせのある髪も、羨ましいぐらい長い睫も。背が低いことを気にしているところも。部活の話をするときに見せる笑顔、難しい問題を解く眉間のしわ、意外と低い声、小さく笑う横顔が、すべて。

 好きだった。どうしようもなく。

 彼のことが好きだった。


 どちらにせよ、柳くんとは3日後の塾で会うのが最後になるだろう。その前に、報われなくてもいいから想いを告げようと決意した。柳くんに、この気持ちだけでも知っていてもらいたいと思ったからだ。

 そうしたら私もすっぱり忘れようと思った。

 自分で言うのもなんだけど、私は恋愛にすごくすごく奥手だったけれど、これを乗り越えたら新しい恋に進めるような気がした。そうして新しい自分になれるような気がした。

 高校生の思い出として、ここはひとつ、勇気を振り絞ろう。

 よし、塾をやめる前日に言おう!

 自分に固く誓って目を閉じた。

 なぜ前日にしようと思ったかというと、たとえ振られたとしても柳くんの笑っているところ――私じゃない誰かに対してでもいいので――を目に焼き付けておこうと思ったから。いいよね、それぐらい。自由よね?


***


 茫然と突っ立っている柳くんよりも早く混乱から立ち直った私は、彼をまじまじと眺めた。これは一体どういう状況なのだろうか。

 普通に考えると、振られた女が振った男に呼び止められているだけ。ただし、今は振った男が振られた女に告白しているという情報が追加される。つまりは、昨日振ったことを撤回するってことなのか?

「……だったの…?」

 うんうん唸って考えていると柳くんが聞き取れないぐらいの小さな声でつぶやいた。

「…昨日、告白してきてくれたの、河西さん、だったの…?」

 あれ?

 もしかして私のこと、認知されてない?!

「ああ、うん。ごめん、記憶から抹殺されてしまうぐらい不愉快だったなんて、気付かなくって。ごめんね、柳くん、もう会うこともないから。忘れてくれる?」

 言っていて悲しくなったのと同時に、一秒でも早くこの空間から抜け出したくて、泣きたくなって、噛まなかったのが不思議なぐらい早口で告げると、きびを返す準備をした。のであるが。柳くんがその前に口を開いたので叶わなかった。

「いつもと髪のくくり方、違うかったよね…」

 え、髪のくくり方? そりゃだって、いつもより気合入れてたもん! 半分マフラーで隠れてましたけど。

「つけてたシュシュ、徳丸さんも持ってるよね…」

 柳くん、シュシュっていう言葉知ってるの? 感心しちゃうよ。二人とも一目ぼれしちゃったので確かに秋穂とお揃いで買ったものだ。でもなんで秋穂もそのシュシュ持ってるって知ってるんだろう。あ、でも秋穂の方がよくつけてたかもな。

「趣味も似てるしね…」

 うーん、確かに秋穂とはいろいろ好みが合う。

「声も何となく似てる…」

 こえ? 声は言われたことないけど、もしかしたら似てるかも?

「俺さ、普段コンタクトなんだよね…」

 そうなの? 初めて知ったよー。視力悪かったんだ。

 独り言のように呟き、いちいち自分で打ちのめされているような柳くんの言葉を聞きながら、いったい彼は何を考えているのだろうと思っていた。

 いつもより気合を入れていた髪も、お気に入りのシュシュも、前日から迷いに迷った服装も、緊張しすぎて上ずっていただろう声も、すべては彼に少しでも好かれたいと思ったから。ただそれだけだったのに。

 何も、二日間続けて打ちのめさなくても。

 私の心が傷ついていることも。

 わかってる。彼は、柳くんは悪くない。わかってるよ。

 私が、私一人だけが、一方的に好きなだけ。

 だから柳くんは、その一言一言に私が一喜一憂してるなんて知らないだろう。

 目頭が熱くなってきて、こらえていた涙が落ちそうになった。だめだ。もう、これ以上は彼と一緒に入られない。

 柳くんを困らせたくなくて、ごめんと謝って走り去ろうとした。最後の最後に嫌な思いをさせたくなかった。

 まさに背中を見せた瞬間、柳くんに腕をつかまれた。

「俺のこと、嫌っててもいいから、最後に一つだけ言わせて!」

 柳くんのこと、嫌いになるはずがない。

 でも彼の顔を見ると涙がこぼれそうで、顔を上げることができなかった。

「…昨日告白してくれたの、徳丸さんだと思ったんだ」

 え?

「昨日目が痛くなって途中でコンタクト外した。俺視力すごい悪いからコンタクト外すと色の識別ぐらいしかわからないから。だから、徳丸さんが普段やってる髪型だし、シュシュもついてるし、完全に徳丸さんだと思って…」

 柳くんの瞳が不安そうに揺れている。


「好きな子の声も聴き分けられないなんてすごい最低だと思うんだけど、やっぱり俺河西さんが好きなんだ」


 え? え? それってどういうこと…?

 柳くんも私のこと、す、好きってこと?

「だから昨日の子に勇気もらって、絶対伝えようと思ってたんだ。でもそれが河西さんだったっていうから、てんぱっちゃって…」

 照れくさそうに頭をかいている。じわりと視界がかすむ。

 諦めようと思った。これは恋じゃないと思いたかった。想いが気持ちが伝わないと思っていたから。でも無理だった。私は完全に柳くんに恋をしていた。

 だから、だから、せめて想いだけでも伝えようと思ったけど。

 諦めなくてもいいの?

 ずっと彼を想っててもいいの?

 瞳からぽろぽろと流れる水を私はどうにかして止めようと思ったけれど、もう自分の意志では止められなかった。それを見ていた柳くんはすごくおろおろして、自分のハンカチを取り出そうとしてバックを探していたけどなくて、ポケットに入っていたハンカチを取り出したら、しわくちゃだった。

 その様子に、思わず笑みがこぼれた。ついでに自分のハンカチを目に当てた。


「私も、柳くんのことが……好きです」


 これからのことはわからないけど、明日もあなたのことを見ててもいいですか?


***


「そういえば、俺河西さんのこと一応一回振ったことになってるじゃん」

「うん、一応じゃなくて完璧に振ったよね」

「……」

「たとえ勘違いでも、傷ついたんだから。傷ついたんだからね?」

「それは申し訳ない。心から反省しております」

「うそうそ、気にしてないよ。結果オーライです!」

「それはどうも。でも、知ってた?」

「…何を?」

「河西さんも俺のこと、実は振ってるんだよ」

「………………え?!」

「俺一回告ったの。河西さんに」

「え? え?! うそうそ、柳くんが?! いつ?!」


ここまでお読みいただきありがとうございました!

機会があれば「柳くん視点」でもこの話を書きたいと思います。

もし感想・ご意見等あれば、よろしくお願いしますm(_ _)m


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