月の下、ふたり。
暗い森の中に僕らはいる。森の中心はまるで夜空を見上げるためかのように一つも邪魔するモノはない。見えるのは輝く石ころとウサギの住む星、月。
「ウサギに見えるのは私たち日本人とかだけよ」
「それでももしいたら、なんだか嬉しくない?」
「男のくせに可愛らしい思考ね。貴方は。もしいたらとんでもないサイズのウサギね」
少し上からの態度をとる彼女。気品ある姿の彼女は光に照らされ、僕とは違う存在のようだ。こんな人が幼馴染みとは運がいいのか悪いのか。
「なら、君には何が見える?」
「そうね。特に面白いモノは見えないわ」
「ロマンがないなぁ〜」
彼女は昔から現実的だ。冗談も通じない。さらに言えば、少し短気。
そのくせ、佇まいは一級品。さながら僕らは姫と平民。なんて、格差だろう。
「ロマンよりも今見える現実が私には大切なの。ほら、みなさい。月も星も輝いてる。この美しさはなにも越えられないわ」
「君は本当に良いことを言う。確かに今見えるモノ、全てが綺麗だ」
正直に感想を述べた。にも関わらず、彼女は僕を見て固まっている。
そして、光に照らされ映る彼女の顔は少し赤くなっている。
……なるほど、“見えるモノ”って言葉に反応したのか。まぁ、間違いではないから僕は気付かないフリでもしよう。
「貴方は本当、卑怯者ね」
「上手く生きるとどうしたって卑怯にもなるさ」
「卑怯なだけでなく、最低な男」
「嫌われましたね」
少し悪戯めいた言葉を言うと、彼女は僕の横に座った。
「月が綺麗ね」
「……ええ。本当に」
コレはワザとだろうか。本気だろうか。こちらを見て“月が綺麗”だなんて。
「貴方、知ってるわね」
「ええ、月が綺麗なのは本当ですから」
「はぁ。貴方は本当に意地悪な子どもね」
そうしていないと、君は僕を見なくなってしまいそうだ。好きな子に悪戯なんて、今の小学生でもしないだろうに。
こんな綺麗な絶景を二人きり。僕を誘ったのは君だ。
このままでは終われないだろう。
「ねぇ。聞いてくれる?」
「仕方がないから聞いてあげるわ」
「“僕は死んでも構わない”」
「……ほら、わかってるじゃない」
彼女は僕の手を握り、頭を肩に乗せてきた。
僕も手を握り返し、寄り添う。
「貴方は私とこうなる運命なのよ」
「現実的ではないよ?この先を考えたら」
「やはりロマンばかりの貴方はダメダメね。こうなることはまるで夢でしかないなんて」
こうなることは彼女に取って、あり得ない事ではないのだろう。
「貴方の夢は今、私の現実になるのよ。喜びなさい」
彼女がそう言うと、そうなる予感しかしない。
「そうか。君は僕の現実だったね」
「そうよ。分かったら、私とこの綺麗な世界を静かに眺めましょう」
そして僕らは朝が明けるまで、満天を手を握り見続けた。