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マネージャー  作者: 夕顔
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スカートと愛称

 唯は私が松葉杖ではなくなってからも毎日玄関で待っていた。


 流石に鞄を持たせるのはどうかと思い自分で持つようにしたが、朝から彼女の笑顔を見ると私も気分が明るくなるので嬉しかった。

 足の方は思うように治ってくれないが、それでも私の毎日は楽しい。

 もちろんバスケを思い切りやりたいが、唯がいつも側にいてくれて、皆のために自分がどうあるべきか考える事は忙しく充実するものだった。

 マネージャーは思った以上に性に合うのかもしれない。






 ある日唯がスカートを弄った。

 原型はそのままだが、腰の部分で何度か織り込み、見た目を短く見えるようにするというものだ。


 しかし彼女はやはり不器用だった。

 うちの高校のスカートはプリーツなので、織り込むにはベルトなどを使ってひだが崩れないように工夫をしなければならない。

 だから私はスカートを短く切って加工をしている。

 服装検査では危うい事もあるが、それが一番楽なのだ。


 それを彼女は豪快に捲ったのだ。

 出来上がりなど意識せずに一心不乱に織り込んだのだろう。




 朝玄関に立っていた彼女のスカートはプリーツはぐちゃぐちゃで長さも形もアシンメトリーだった。

 折り目の太さを均等にするという概念が彼女にあれば、もう少し制服らしくなったように思うのだが。

 私の頭に最初に浮かんだ言葉は「ターザン」だった。




 「少し短い方が可愛いかなと思って。」

 

 彼女は照れながら話してくれた。


 これはいけないと思った私はトイレで彼女のスカートを直す事にした。

 細心の注意を払ったが、プリーツ相手にやはり思うようにはいかない。

 少し乱れてしまった。


 だが唯は喜んで


 「菜々子器用だね!ありがとう!」


 と素晴らしい笑顔を見せながらトイレでくるくる回っていた。


 彼女はそれから毎朝ぐちゃぐちゃのスカートで玄関に立ち続けた。

 一番困ったのは本人はそれでも気にならない事だった。

 

 「菜々子みたいに器用にはできないから仕方ない。

  それに短くなってるから問題でもないんじゃない。」

 

 という感覚だ。

 余計なお世話かもしれないが、澤村君に好かれたくて変わろうと頑張っている唯を応援している私にとって、その姿は心配そのものだ。

  



 結局その数日後、彼女が私の家に遊びにきたときに裾を切って織り込む回数が少なくなるように加工をする事で、ようやく朝の唯のスカートは制服に戻った。







 「澤村君に告白しようかな。」


 ある日休み時間に教室で唯が呟いた。

 澤村君が誰かと付き合ってしまう事を考えると苦しくなってしまうと言っていた。


 その気持ちは分からないでもない。

 私も横山とは相変わらずだが、その不安はいつも持ち合わせている。

 しかしもしフラれたらと思うと恐ろしく、だからニキビが消えた今でも踏み出せないでいる。




 ただ唯は澤村君と殆ど会話をした事がない。

 いきなり告白するよりは、まずは少し親しくなってみるのが良いのではないかと思い提案する事にした。


 「まずは話しかけてみなよ。」


 「何て話しかけたら良いの。」


 少し悩んでから、姉から聞いた知識を元に


 「男子っていつもと違う呼ばれ方するとときめく人いるらしいよ。」


 すると唯の目が光った。

 少し嫌な感じはあったが、まず間違う事はないだろうと思い話を続けた。


 「澤村君は皆から澤村君って呼ばれてるから、呼び捨てにしたり名前で呼んだりとか良いんじゃない。

  愛称も良いらしいんだけど、澤ちゃんとかは違う気がするしなあ。」


 「愛称かー。」


 あ。そこに食いついちゃうのか。

 でも、愛称もそこまでおかしくなる事は無いはずだ。


 「早速いってみなよ!何かネタ探してさ!」


 唯は頷くと素敵な笑顔で澤村君のところへ行った。

 すぐさま動いたが果たしてネタは見つかったのだろうか。それが一番心配だった。

 私が興味無いからだろうか、私には澤村君と会話をするネタが浮かばない。

 

 でも唯は彼を好きで見てきた人だから何かあるのかな。

 

 そんな事を思いながら彼女を見ていた。




 澤村君が席に座って本を読んでいる横に唯が行った。

 

 澤村君が気付いて顔を上げ唯を見上げた。


 そして唯はあの素敵な笑顔で口を開いた。




 「ねえゴリラ。野球部はなんで坊主なの?」






 マジか。

 マジか唯。


 私は思わず頭を抱えた。


 なんでなんだ。




 澤村君はかなり驚いた顔で唯を見ていた。

 暫くして静かな口調で


 「いや。決まりだから。」


 と言った。


 唯は


 「そっか!じゃね!」


 と言って凄く嬉しそうにしながらこちらに帰ってきた。

 澤村君はこちらを見ている。


 いやあの澤村君。私「行け」とは言ったけど「ゴリラって言え」なんて言ってないよ。




 私は溜息をつきながらうきうきの唯を廊下へ連れていった。   

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