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マネージャー  作者: 夕顔
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二人三脚

 二人三脚は難しいようだ。


 男女の歩幅とタイミングが合わなければ、転んだり止まったり、皆四苦八苦していた。

 そして止まったりする度にはにかむペアが多く、何となく羨ましい気持ちになった。

 

 「なんだなんだ。楽しそうじゃん。」


 うちのクラスの人達はよく放課後に二人三脚を練習していた。

 試してみたら難しかったのだろう。こうして競技をしているのを見るとよく分かる。

 

 しかし応援しながら眺めていると、段々二人三脚という競技はカップルを作るためのもののように見えてきた。 

 そう思ったのは恐らく私だけではないはずだ。




 順次スタートしていくはにかみカップルを暫く眺めていると、スタートから凄いスピードで駆け抜けていくペアがあった。

 バレー部の幸と野球部の外崎のペアだった。


 クラスからは歓声が上がり、私も手を叩いて応援した。

 何より凄かったのは途中でリズムを崩してからだ。

 二人ははにかむ事なく示し合わせたように内側の足を空中に上げ、外側の足だけで飛びながら前に進んだのだ。

 内側の足の回転を捨てた方がバランスが良いと判断したのだろう。

 そのスピードは落ちる事なくむしろリズムが崩れる前よりも上がっていった。


 クラスの皆は喜んだ。


 「マジか!」

 「こんなのありかよ!」

 「はええええ!」


 しかしこれは、バレー部の幸だから外崎についていけているのではないかと思われる。

 

 このペアのゴールはぶっちぎりだった。


 唯も目を輝かせて喜びながらその様子を見ていた。




 その直ぐ後に唯のペアの出番がきた。


 「唯がんばれー!」


 私は大きな声で声援を送った。

 幸と外崎のペアの影響は大きく、嫌な予感は忘れて気持は昂っていた。


 唯のペアは身長差がほとんど無いため、途中で同じ手段に切り替えた時負荷が少なくすむのではないか。

 むしろ小柄で運動が得意でなさそうなペアの彼が彼女にどこまでついていけるかが勝利の鍵だ。


 そんな風に思っているとスタートの空砲が鳴った。


 

   バーン!


 一斉に走り出した。

 

 最初の一歩目から躓くペアもある中、ゆっくりではあるが唯のペアは順調に前へ進んでいった。

 二人で下を見ながら声を掛け合ってリズムをとりつつ進んでいる。


 途中で止まらずこのまま進めば三位はいける。


 すると一組が止まってはにかみタイムに入った。


 唯のペアが二位に上がった。


 しかしもう一組は安定していてはにかみタイムに入りそうにない。

 まあそれでも八組中二位は健闘ではないだろうか。


 私は夢中で応援した。

 最後まで転んだりしませんように。


 すると、残り10数メートルのところでついに唯に入ったスイッチが起動した。




 彼女はその場に止まるとすぐにペアの男子の外側の足の膝と背中を抱え、そのまま走り出したのだ。


 内側の足は繋がっているものの、男子をお姫様抱っこのように抱えて唯は走った。

 ペアの男子は明らかにうろたえている。


 彼女は腕力も握力も脚力も凄い。

 バスケ部に入部する瞬間からそれは知っている。




 男子をお姫様抱っこをして走る唯は速かった。




 いやしかし。




 そしてついにゴール直前で一位のペアを抜き去り、唯のペアは一位でゴールした。




 クラスは大爆笑だったが、私は口が開いたままふさがらなかった。


 ペアの男子は顔が真っ赤になっていて少し気の毒だった。

 女子に抱えられるなどきっと恥ずかしかっただろう。

 そして小柄とはいえ、男子をお姫様抱っこをして走った唯は肩で息をして動けずにいた。


 唯とその男子のところに皆が駆け寄り、笑いながら話しかけている。


 彼女は肩で息をしたままとても嬉しそうに素敵な笑顔を見せている。


 少し遅れて私も笑いがこみあげてきて大笑いしてしまった。

 ペアの男子が最初は気の毒に思ったが、お祭り好きのクラスは彼を称え、満更でも無い表情に変わって安心した。




 暫くして私のところへ来た彼女は笑顔で


 「澤村君見ててくれたかな。」


 と言った。


 彼に良い所を見せようと一位をがむしゃらに狙った結果が、あのお姫様抱っこだったようだ。

 

 「見てたかもしれないけど、びびってそうだよね。」


 と言うと唯はショックを受けて落ち込んだ。




 そして彼女はクラスの女子のヒーローになった。

 個人的には幸と外崎のペアや棒倒しの方がかっこよかったのだが。




 お祭り好きの我がクラスは、総合優勝はとれなかったが、一年生の中では一番得点が高かった。

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