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マネージャー  作者: 夕顔
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最後のイベント

 ムカデ競争も難しい。


 三人のタイミングが合わなければ重い足の板が動かない。

 そういう時は前後のどちらかに負担がかかるようで、知美が言うにはその兼ね合いもあって足が異様に重く感じたのだとか。

 私の隣で座って肩で息をしながら後続のチームを眺めている。

 太ももが辛いようでもみほぐすような仕草をして心底辛そうな様子が伺える。


 もしかするとタイミングが合わないとメンバーの体重もそこに乗る事になるのか。


 唯はやけに楽しそうに笑っている。

 「右!左!右!左!」


 彼女のチームは小柄な女子二人だ。

 



 折り返しのコーナーに差し掛かった時、後ろの二人が少し悲鳴を上げてバランスを崩した。

 方向転換は中々難しいようだ。

 他のクラスもここで一度スピードが落ちる。

 

 ここは折り返しの直線の前に唯のチームも立て直さなければならない。




 しかしエンジンがかかってしまった不思議女子は急に視野が狭くなる。




 後ろの二人が尻もちをついてしまったにもかかわらずそのまま唯は進む。




 二人は「キャー!」と悲鳴をあげながら足元が唯によって動かされるために立ち上がる事ができない。


 それに気付かない先頭の唯は一人声を上げながら笑顔で前へ進む。


 「右!左!右!左!」


 決して速くはないが、着実に前に進む。




 「唯すごいな。」


 私も知美も口が開いてしまった。



 真ん中の女子がついにひっくり返ってしまった。

 一番後ろの子が真ん中の彼女を土の上を引きずられないように必死で支えながら自身もバランスをとるのに苦労している。

 



 皆それを見て笑っている。


 しかし唯は後ろの二人を気にも留めず、素敵な笑顔でゴールを目指す。


 「右!左!右!左!」 




 皆に指をさされて大笑いされていても唯はゴールまで気付かなかった。




 ゴールして後ろを振り向くと土埃にまみれて二人が転がったままのびていて、そこで唯は初めて気付いた。

 慌てふためきながら何度も謝っていたが二人は土を払いながら


 「唯だからなー。」

 「仕方ないね。」


 と笑って許してくれた。






 体育祭の打ち上げは焼き肉屋だった。


 そこでも唯は開幕から怪しいオーラを放っている。




 かなり大きな焼き網のついたテーブルだった。

 同じテーブルのクラスメイトの女子が


 「適当に乗せちゃっていいよね」


 と言ったところで唯は


 「そうだね!」


 というと、テーブルにある肉と野菜をいっきに全て焼き網に投入した。




 大皿4つが空になった。


 いくら大きな焼き網と言えどさすがに多すぎる。

 野菜も肉も文字通りの山盛りになり、私達のテーブルの網の上に本来見る事がないはずの山ができた。




 茫然とする皆。


 すると唯は素敵な笑顔でその焼き網の上で山盛りの野菜と肉を箸で炒めはじめた。


 彼女は野菜炒めを作り始めたのだ。




 どうやら彼女は焼き肉屋に来た事が無いらしい。


 茫然としている皆を尻目に、正規の焼き肉を楽しんでいる他のテーブルを指さし


 「ああやって焼いて食べるんだよ。」


 と教えると、かなり青くなってテーブルの皆に慌てて頭を下げた。


 まあそれで食べられなくなるわけではないため、皆は気を取りなおして野菜炒めをつまむ方向で笑っていた。




 唯の不思議っぷりも豪快っぷりももうクラスの皆は慣れている。

 彼女は良い人だという事もちゃんと伝わっているので


 「唯だからな。」


 といつも笑って許してくれる。




 彼女はそんな場所が大切だった。


 だからここから卒業までの間、人の関係を破壊する事に生きがいを感じているかのような不思議女子の美喜とついに度々衝突するようになる。  


 恐らく美喜は唯にとってこの学校でただ一人の天敵だったはずだ。



 



 この体育祭が私達の高校生活最後のイベントとなる。

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