表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マネージャー  作者: 夕顔
31/34

体育祭

 こうして告白ができないヘタレ女子は受験勉強に本腰を入れる事になる。


 私は薬学系を志望していて、横山の行く仙台近郊にはそれを満たす大学がいくつかある。

 そして我が家の経済状況を考えると国立を狙いたいところで、そうなると私の実力では頑張らなければ難しい。


 ヘタレだろうが情けなかろうがこうなると「告白」より「横山と一緒に仙台へ行く」事の方が重要なのではないだろうか。

 また泣く事になるかもしれないと言われそうだが、達成する事ができたら勝負はその時でも良いのではないだろうか。


 ちなみに心の底で本当は言い訳でしかないのを理解している。




 すると唯はいよいよ我慢しきれなくなったようで私の事を時々「ヘタレ菜々子」と呼ぶようになる。

 彼女の感覚からすると私の行動は考えにくい程に焦れたものであるのだろう。

 しかしただでは転ばない私はそう言われる事で彼女を「痴女」と呼ぶ。


 ちょっとした口喧嘩風味になる事もあるが、仲は非常に良い。


 そして私が「痴女」と口にする事で知美がとばっちりをくらって顔が青くなるのはとても面白かった。




 この強気が横山に対しても出せたなら良いのに。

 「友達」と言いきられてしまってから、バルーンのように膨らんでいたはずの告白する勇気や思いは、みるみる萎んで米粒程になってしまった。






 例年なら春に行われていた体育祭が今年は秋に開催された。

 これも前年の反省からくるものだろう。


 種目は女子の障害がムカデ競争に変更されたくらいで後は変わらない。


 男子の棒倒しは我がクラスの男子にとっては苦手種目なのか、一年生の時のような快進撃や盛り上がりは残念ながら見られなかった。

 最も強かったのは宮本や大谷がいるC組だった。

 

 C組には澤村君がいるので、唯は彼等の勇士に大興奮だった。




 それでもリレーは中々白熱した。

 お祭りグループからは育実が出場したのだがC組とのデットヒートは熱く、お互いの応援団も白熱した。


 「育実ころべー!」

 大谷のそんな声が耳に入ったところで唯と知美はカチンときて


 「痴漢のいう事なんか気にすんな!」


 と走者の育実に声援を送った。

 すると当然大谷からは


 「お前等だって痴女だろう。」


 といわれる訳で。


 二人は青くなって私の方を見た。

 取引した事をこの二人はうっかり忘れていたようだが、間違いなくこの二人は痴女である。

 前科という言葉があるように、一度罪を犯すとそれから逃げる事はできず、背負って向き合っていくしかないのだ。

 犯した本人達は忘れても相手は忘れられずに過ごす。それら全てを含めて罪なのだ。

 

 自分のした事を忘れて被害者面をするなど非常に情けない話である。

 

 大谷はそれ以上何も言わなかったが、不思議女子達は内心気が気ではなかっただろう。




 私は短距離走に参加した。

 ガチガチのコルセットをつけている足はひきずるような形になってしまうので決して速く走る事はできなかったのだが、お祭り女子達が大きな声で応援してくれていたので、最下位の私は笑顔でゴールする事ができた。




 唯はムカデ競争に参加した。


 三人一組のチームを作って二枚の板の上に足を紐で固定して走り、奥のポールを折り返して次のチームにバトンを渡すリレー形式だ。


 私は参加しなかったがお祭り女子が多く参加している。 

 最初のチームには知美がいる。




  バーン!


 スタートの合図とともに八組が一斉に走りだした。


 足元の木の板は思ったより重いもののようで、皆一歩一歩踏み出すのに苦労をしている。

 どのクラスも「1!2!」「右!左!」と声をかけながら前の人の肩に手をおいてリズムをとりながら進む。




 皆がそうやって声をかけあって進んでいるのに、我がクラスのムカデからは知美の悲鳴のような馬鹿でかい奇声が聞こえる。

 後ろの二人は声を掛け合っているのだが、先頭の知美は必至の形相で一人甲高い声で奇声をあげている。

 彼女にとって足元の板を先頭で持ち上げるのは辛い事のようだ。


 

 

 しかしゴールするまでその形相で奇声をあげ続ける彼女は皆に指をさされて笑いのまとだ。

 ひきつり笑いが出た。




 ついにゴールをしてムカデ板から足を離した彼女はその場に倒れこんでしまった。

 



 そしてバトンを受けたのは唯のチーム。

 唯が先頭となったチームのムカデが板に足をくくりつけて走りだした。




 知美の頑張りにすっかり感化された唯は怪しいオーラを放っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ