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マネージャー  作者: 夕顔
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決勝のコート

 唯は手首と指二本を骨折していた。

 

 ひびが入っている状態で済んでいるが、とても決勝のコートに立たせる訳にはいかない。


 しかしスターティングメンバーを発表した瞬間唯は土下座をして泣き叫びながら監督に出場させて欲しいと懇願した。

 あまりの悲痛な叫びに監督も私達も言葉を失った。




 言葉は見つからないままだが少し落ち着いた頃に唯の横にしゃがんで肩に手をかけた。


 彼女は私の足元を確認してから、がっくりと肩の力が抜けた。


 「みんなごめん。一番大事な時なのに。」


 俯いたままの唯の顔の下には涙と鼻水と涎が混じった池ができていた。


 誰も唯を責めるわけがない。

 あの時の彼女が自分達を奮い立たせた事、そして彼女がいなければ決勝のコートを見る事ができなかったはずだと、皆分かっている。



 すると副主将も唯の隣にしゃがんでタオルを差し出しながら静かに


 「唯は十分すぎる程頑張ってくれたから少し休めば良い。

  凄く良いアシストをもらったから後は私達が決めないと。」


 そして立ち上がると皆の方を見ながら


 「決めるよ!」


 と大きな声を出した。

 皆も泣きながら大きな声で返事をした。






 皆の気力は充実していたが、決勝戦は唯がいても結果は変わらなかったかもしれない。




 私達はインターハイに出場する事が出来なかった。


 春の県大会を制したその高校は準決勝で当たった高校より明らかに強かったのだ。

 皆は最後まで死力を尽くして頑張ったが力及ばず、試合が終了した時は限界を越え疲労困憊の表情だった。


 唯はベンチで泣きながら声を出していたが試合が終わると一人一人を抱きしめ声をかけてまわった。




 彼女は私と抱き合う時


 「ありがとう。」


 と呟いた。

 

 




 数日後高校総体県大会の閉会式が終わり学校へ戻ると他の部活動の選手達も集まっていた。


 バレー部の育実や幸もボロボロの身体で頑張ったがインターハイ出場はならなかったようだ。

 皆で健闘を称え合っているうちに笑いながらうっかり涙が出てしまった。




 結局インターハイ本戦出場を決める事ができたのはテニス部だけだった。





 さらに数日後新たな主将を任命して後輩達にバトンを渡した。


 そして私もこれまでの日記と応急処置やテーピングの巻き方と心がけや注意点を記したノート、そして愛用のストップウォッチをマネージャー志願した選手に手渡した。


 バスケ女子部はこの時から「まずはプレーヤーとして入部する事」を条件にマネージャーを受け入れるようになる。




 私達の高校の部活動はこうして幕を閉じた。


 




 唯は高校総体の事を話すと今でも苦い顔をする。

 彼女にとってこの時の出来事は根深く

 

 「皆に申し訳ない。」


 と今でも言う。


 私にとっても皆にとっても彼女がいなければ体験できなかった素晴らしい思い出なのだが、精一杯やったからこそ悔いも残るのだと彼女は話す。






 しかし不思議少女唯との学校生活はまだ続く。


 


 そして野球部の部活動もまだ続いている。


 今年も希望者で応援団を作る事になり、私と唯は野球部の応援に参加した。

 

 


 澤村君がライトを守っている。


 唯は期待通り大興奮だ。

 展開が熱くなったりファインプレーがでると涙も鼻水も大変な事になってしまう。


 鼻水も垂れ流すようになるとは。

 怪我をした時に流した事で躊躇しなくなってしまったのだろうか。

 焦ってハンカチとティッシュを渡した。

 しかしそれを手にする事すらせずに正面を見て泣いている。


 敏腕マネージャーは仕方が無いので彼女の顔をふいてあげる事にした。




 この頃から私はボックスティッシュを常備するようになる。 


 野球部はこの日無事に勝利し、次の試合に駒を進めた。

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