出会い
彼女と初めて会話した場所は高校の体育館だった。
私は中学の頃にバスケットボールに出会い、決して活躍した選手ではないがバスケが好きになった。
そして高校に進学してからもバスケを続けようと考えていた。
しかしいざ入学数日後にバスケ部の練習を覗いてみると、上手いプレイヤーが多く怖気づいてしまった。
果たしてこの中に一年生が本当にいるのだろうかとさえ思った。
少し進学校をなめていたようだ。
バスケは好きだが皆についていけるのか。
試合に出られなくても練習で汗を流す情熱が、果たして自分にどれ程残っているのか。
そんな事を考えながら体育館の入り口でバスケ部の練習を眺めていた。
暫くすると同じクラスの女子部員が私に気付き
「あれ。バスケ部入るの?」
と嬉しそうに話しかけてきた。
「そういう訳では無いんだけどちょっと見てみたくて。」
そう答えると
「ふーん。入っちゃいなよ。」
と素敵な笑顔で答えたと同時に手を掴み
「先輩!新入部員!うちのクラスの子!」
私を体育館の中に引きずり込んだ。
驚いて手を振り払おうとしたが、彼女の握力は強く私を離してくれない。
強引すぎる。
バスケ部の先輩達は
「唯でかした!」
と言って喜んでいて、唯は皆にピースサインをしながら私を主将と思われる女子の先輩の下に連れていった。
その先輩は笑いながらボールカゴの横にぶら下げてある袋から入部届けを私に差し出した。
笑うほど察しているのならそれを出すのはやめて欲しい。
すると唯は私の手を離しその入部届を受け取り
「名前の漢字ってこれで良いんだよね。」
と言ってしゃがんで記入し始めた。
勢いにのまれ、あっけにとられている間に入部届は完成し、気付いたら私は皆から
「よろしくねー。」
「頑張ろうねー。」
と声をかけられていた。
マジか。
元々入部しようとしていたが土壇場で悩んでいたために、今度は逆に断れなくなってしまった。
そんな私の思いなどこの体育館の人達は全く考えてもいないだろう。
唯は素敵な笑顔で私に握手を求めてきた。
「よろしくね!」
私は彼女の笑顔と勢いに押されて手を差し出してしまった。
「よろしく。」
するとバスケ女子部員達から歓声がわき、体育館の入り口で悩んでいたはずの私は、こうして瞬く間にバスケットボール女子部員になった。
唯は私より少し身長が高い160センチ強で色白の美人でクラスメイトだ。
そして実のところ、私は唯を中学の頃から知っている。
彼女の出身中学はバスケ強豪校だったため、大会ではいつも目立っていた。
その中でも一際上手い色白の美人が笑顔でコートを駆ける姿は印象的で、私は気付いたら大会の度に姿を探すようになっていた。
試合中ずっと笑顔でプレーをする彼女を、異様に思った人達もいただろう。
しかし私にはその姿が眩しく映り、彼女は何を思いながらプレーしているのだろうかと気になったものだった。
さらに彼女は選抜選手でもあったため、地元の中学女子バスケ界ではそこそこ有名人であったはずだ。
だから高校に入学して同じクラスになった時はとても嬉しかった。
勿論バスケ弱小中学の私の事など彼女は覚えていないだろう。
入部をどうしようか悩んだ理由には、そんな彼女が練習しているコートに物怖じしてしまった部分も少なからずある気がする。
それにしても見た目にそぐわないあの強引さには度胆を抜かれた。
色白の美人というだけでイメージを創り上げてしまっていたのかもしれないが。
少しネガティブになっていたが、よく考えてみると中学の頃から気になっている彼女と同じチームで練習できるのは、とても素敵な事だと気付いた。
せっかくだからこの縁を楽しもう。
とりあえず今日の所は練習着もジャージもシューズも無いので、明日から練習に参加する事にして、皆に挨拶をして体育館を出た。
唯は素敵な笑顔で
「また明日ね!」
と手を振っていた。
私も手を振り返した。
少し前までは憂鬱だったり戸惑っていたりしたが、入部が決まるとワクワクする気持ちの方が大きくなった。
やはり私はバスケが好きなのだ。
こうして後に友人代表を依頼してくる唯との高校生活はスタートした。