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マネージャー  作者: 夕顔
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不思議女子

 翌日朝の電車で不思議女子の美喜が話しかけてきた。


 「菜々子の好きな人って誰よー。」

 

 しまった。そういえばそうだった。

 昼食が同じグループの中にいる美喜は電車通学だった。


 なんとか誤魔化し離れてくれたのだが、今度は横山が話しかけてきた。


 「今の子かわいいよな。友達?」


 よりによって。


 「クラスメイトだよ。

  横山いつも周りに女子いっぱいいて不自由してなさそうじゃん。

  ほらあそこの女子もこっち見てるけど。」

 

 「あれ。まじで。じゃな。」

 

 情けなくて悲しくなった。

 他の女子のところへ向けるなど。

 しかし何よりクラスメイトとの仲を取り持つなど勘弁して欲しかった。




 「菜々子あの男子と知り合いなの?あの人誰?」


 いつの間にか背後に美喜が戻ってきていた。

 かなり驚いた。不思議女子の行動パターンは分かりにくいというのに油断していたようだ。




 しかしとりあえず二人を紹介させる作業を回避できたようだ。


 ただ美喜がちょっとしつこい。


 「菜々子の好きな人どこにいるの?」

 「あの人誰?」




 少し考えて、思い切って賭けてみる事にした。


 この賭けに負けると私の思いは噂となり彼の耳に届く事になるかもしれない。

 しかし勝つ事ができたなら今までと変わらない日々を送る事ができるはずだ。




 「美喜。あの人だよ私の好きな人。

  でも内緒にしてね。」


 美喜は笑顔で


 「そうなんだー!応援するよー!」


 と言っていた。



 

 慣れない事はしたくない。

 こんなのは正直気持が悪い。


 これまで私は自分の中で大切にしている事は不思議女子に言わないようにしてきた。

 「うっかり」が多いため、自分と彼女達が笑って過ごす事ができる環境を守る手段でもある。

 大抵の事には自分の発言に責任を持てるが、中には持ちたくても持てない場合もある。


 だから横山の事は唯にしか話さなかった。

 その唯も「うっかり」をしたわけだが。 




 本当はさっさと告白をすれば良いという話なのだ。

 そうしたら「うっかり」に怯える事もなく、「紹介」の作業だって依頼されないのではないか。


 それが出来ずにあれこれ考えて情けない事をしている。






 数日も経たずに賭けの結果がでた。


 私が賭けたものの倍率がどうだったかは分からないが、大当たりは大穴万馬券ではないだろうか。




 美喜と横山が付き合いだしたのだ。


 美喜が彼に交際を申し出た。


 いつ好きになったのか、本当に好きなのか。彼女が何を考えているのかは分からない。

 そして彼女は笑顔で私とお昼ご飯を食べている。


 分かっていた事だ。

 唯もそうだが、不思議女子の全てを把握するなど不可能なのだ。


 そして私は彼に告白などしていないのだから土俵に上がる事すらできない。

 「野球をする彼」に拘りすぎて、自分の思いを後回しにしていた。

 「今は告白をしたくない」など、そんな余裕は無いと本当は気付いていたのに。


 自業自得だ。






 しかし流石に涙が出た。

 こんなに泣いたのは初めて松葉杖で登校した日以来だ。


 毎日部屋で泣いては目をタオルで冷やすというのが数日続いた。




 笑顔で彼の話をする美喜の側にいるのが嫌で、理由を作っては昼食時に席を外すようになった。

 バスケ部員の教室へ行ったり隣の教室へ行ったり。

 

 しかし不思議女子の美喜は私の後をよくついてこようとする。

 それを避ける事が日課になりつつあるのもまた情けない。

 だがいくら不思議とはいえ心底勘弁して欲しかった。


 美喜に対して何か言うのも非常に情けない事に思え、色んな事にイライラしながら抱えきれない理不尽な思いを持て余して苦しい。






 これを知った時の唯は本当に大変だった。


 自分がした「うっかり」がこの結果を招いたのだと大泣きしたのだ。

 あげくの果てには責任をとって自分も澤村君と別れるとまで言い出し、宥めるのは大変だった。

 彼女は混乱し、美喜を呼び出して聞こうとしたが、それも止めた。

 それで結果が覆るものでもないし、私が惨めになるだけなのだ。 


 唯は責任を凄く感じているから、何かせずにはいられなかったのだろうが、何もしないで何も言わないでくれと懇願した。




 「なんでなんだろう。」


 唯も不思議女子だが彼女の不思議を理解できずに相当落ち込みながら唯は頭を抱えた。 

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