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マネージャー  作者: 夕顔
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迷惑

 唯と澤村君はキス事件の後喧嘩にはならなかった。


 姉の話も踏まえて話し合った結果、せめて彼を好きな事だけはちゃんと伝えるべきではないかという結論にいたり、唯は澤村君にそれを伝える事にした。

 

 「うーたんの事は大好きだけど、キスだけはちょっと待って。」


 「キスだけは」というところに実は壮大な意味があるのだが、普通は気付かないだろう。

 むしろ気付いてゴリゴリ攻めるような男子が彼氏となると親友からするとちょっと心配になる。






 バスケ部は新体制になってから何度か練習試合が行われたのだが敵は無かった。

 強豪校とは組めなかったからかもしれないが、皆は手ごたえを感じているようで、気付いたら唯を中心に纏まりは深くなっていった。

 

 負け試合から学ぶ物は多いと良く言うが、勝って得られる物もまた大きいのではないかと思う。

 しかしここで天狗になっていてはいけないため、練習試合後は皆でビデオを見ながら反省会をするようにしている。






 こうして練習にも熱が入り雪が降り始めたある日、サッカー部が勝負を挑んできた。

 「もしサッカー部がバスケで勝負をして勝った場合、バスケ女子部の練習場を週の半分提供する事。」

 という名目をぶら下げている。

 

 サッカー部の監督も一緒に体育館に来たところを見ると、先生方は了承している件なのだろう。

 雪が積もってグラウンドが使えないために練習スペースが欲しいのか。




 練習試合を連勝してきたバスケ女子部だったが意外と圧勝ではなかった。

 サッカー部の男子は身長が高く、思った以上にボールを触る。

 

 ここまで身長差がある相手とはゲームをした事がない。

 180センチ前後で運動神経のかたまりの彼達は、素人とはいえ楽ではなかった。

 一番身長が低くて176センチ強くらいの真田だろうか。この間までちびっこだったのに。


 「真田縮めー!」


 思わず声が出てしまった。


 一度ボールを持つとうちの女子部員がジャンプをしても届かない位置でパスを回される。

 ただ素人だからシュートの成功率はあまり高くない。

 もちろんうちのディフェンスが楽に打たせていないのもある。


 そんな中唯は笑っていた。




 結果としては勝ったのだが、私は最近忘れていた事を思い出した。

 強豪校もサッカー部程ではないにしても皆身長が高い。

 上を目指すのなら今一度考える必要がある。


 実力が拮抗以上で高さが上のチームに正面から挑んでも勝ち目はないのではないか。





 

 その後サッカー部は卓球女子部とバレー女子部のところへも勝負を挑んだようだが、こてんぱんにやられたらしい。


 「うちにまた来るといいね。」


 と唯は素敵な笑顔で言っていたのだが、個人的にはそんな危ない賭けを持って勝負など迷惑だ。

 何しろ私達も三年夏のインターハイ出場に向けて必死なのだ。

 

 ただこちらが迷惑だと思うという事はあっちにとってはチャンスを感じるようで、その後も3回程奇襲される。 

 しかし結果的にこの奇襲は我が部にとって考えるきっかけの一つとなり、練習に対する意識の改革をする手助けをしてくれるものとなった。






 この年の冬は私にとって試練だった。


 昼食を食べている時だった。

 不思議女子の知美が気になる人が社交ダンスのスタジオにいるということを話し始めた。


 どうやらかなり年上の人のようで、踊りが上手くイケメンという。

 彼女は嬉しそうに頬を染めながらうきうきと話してくれた。

 ふと周りを見渡してみると、この8人グループの中で彼氏のいない人間は3人しかいない事が分かった。


 少し溜め息をつくと知美に聞かれた。


 「菜々子は気になる人とかいないの?」


 私は少し悩んだ。

 こういう事は唯としか話していない。

 同じ電車でよくお喋りする幸と外崎は気付いていそうな雰囲気もあるが。


 すると恋の話しに大興奮の唯が目をキラキラさせながらうっかりを発動した。


 「菜々子は電車の彼に決まってるじゃん。」


 私は驚き彼女を見た。

 それを見て彼女はようやく察したようで、はっとしてから非常に困った情けない顔をした。


 しかしグループは盛り上がってしまう。

 こうなると根掘り葉掘り聞かれるのだ。


 とりあえず噂で告白というのだけは避けたいので、私は高校名だけ教えて後は秘密にした。

 地元は狭いのだ。


 「うわ!」

 「ケチ!」

 「早くいえよ!」


 散々言われたが知った事か。


 「名前は一文字五千円な。」


 ブーイングを笑い飛ばした。




 ニキビは治ったし彼の事を好きではあるが、今の彼にはどうしても告白したくないのだ。




 ここからの展開は私にとって中々に苛酷なものとなる。

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