表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マネージャー  作者: 夕顔
13/34

新体制

 やはり新体制のバスケ部は最初の頃は不穏な空気を見せていた。

 上で抑え込む三年生がいなくなる事で小さな衝突が度々起こった。


 しかし想像していたよりは早く皆は纏まっていく。


 もちろん実力者の主将副主将が自己主張をせずにチームのために動く姿を見せたからというのも大きい。

 それより唯のあの一言だろう。


 「勝ちたくないのか?」

 

 今年は結果を残せるメンバーが揃っているのを皆感じている。

 バスケは個人競技ではない。

 一つでも勝ちたいという思いがチームを意識させていった。


 私はこの頃から父のカメラを借りて、定期的にプレーを撮影するようになる。

 私の実力ではプレーについて物申すのは彼女達に角が立つ可能性が高い。

 だがこれを見る事で自分自身で気付く事ができるのではないだろうかと考えたのだ。


 マネージャーと言えど、私だって一つでも多く勝ちたいと思っている。






 夏の大会が終わって間もなくのある日、希望参加で野球部の試合の応援へ不思議女子と共に行った。


 野球部の夏の大会は総体とは違うため時期がずれ込む。

 そこである程度まで勝ち進むと帰宅部と他競技の大会が終了した部活動員も含めて応援団が結成される。

 これは野球部のみの特権だ。




 球場についてみると対戦相手は横山の高校だ。


 横山がまだ野球をやっていたならもしかするとここで見られたかもしれない。

 そう思うと寂しくなった。




 野球部の応援団はかなりの人数だ。

 うちの高校は対戦相手の高校のようにブラスバンドは無いが、学生服を着た男子が団長をつとめて大太鼓を複数打ち鳴らしながら皆で応援歌のようなものを歌う。

 かなりの人数で歌うそれは、なかなかの迫力だ。


 地元のテレビ局が取材に来ていて、ベンチ入りできなかった部員と何か話している。


 二年生も数人試合に出ているようで、外崎がサードを守っているのが確認できる。

 澤村君はベンチにいるらしい。

 しかし二年生でもベンチ入りしていない人がいるところを見ると、澤村君は良い選手なのだろう。


 お祭り大好き不思議女子達は大騒ぎだった。

 特に唯は打っても投げても転んでも大騒ぎだ。

 横山の姿を目で追いかけるようになってから私も野球を見るのが好きになったのだが、隣の彼女を見ているのも相当面白かった。



 

 どうやらうちの高校の方が実力は上のようだ。

 しかし高校野球も一発勝負なので最後まで分からない。


 一応リードはしているものの七回で守備のリズムが少し乱れ、相手チームのランナーが二塁三塁に進んだ。

 まだアウトは一つ。


 内野の選手が皆マウンドにかけよった。


 その時うちの高校のベンチから伝令がマウンドに走った。


 澤村君だ。




 彼が帰ってくる時に唯は大きな声で叫んだ。


 「うーたーん!うーたーん!」




 マジか唯。

 私は驚いて若干引いてしまった。


 それを見た反対隣の知美が一緒に


 「うーたん!うーたん!」


 と大きな声で手を振る。





 マジか。

 両サイドなのか。




 するとうーたんはこちらを一瞥して手を挙げてからベンチに入って行った。

 うーたんは唯の事をちゃんと受けとめてくれているのか。




 唯は泣き出してしまった。


 「いいもの見れた!いい伝令だった!」


 と言っていた。




 周囲の人達は私の方を見ている。


 いや。叫んでいたのは両サイドであって、私は叫んでいないのだが。




 しかし本当に好きなんだろうなあ。

 かなり驚きもしたが羨ましくも思った。




 この伝令に効果があったのか、我が校の野球部は無事にピンチを乗り切った。






 九回に入ってからふと外野席を見ると横山の姿が見えて私の目は釘づけになった。


 同じ学校の人達数人と高校の応援席から外れたところにいる。

 周りの人達は寝転がったりじゃれ合ったりしていたが、横山だけは微動だにせず試合を見つめている。




 「やっぱ野球やりたいんじゃん。」


 胸が締め付けられて唇を噛んだ。

 

 


 どうしたら横山の背中を押す事が出来るだろう。

 彼の野球に対する思いをせき止めているのは何なのだろう。


 でも私が出しゃばるのはただのお節介になる。

 どうにかできないものか。




 「気持と行動だけなのに。」



 

 そんな事を考えながら彼の姿をずっと見ていた。




 サイレンが鳴った。




 うちの高校が勝利し、野球部は試合後の挨拶をしてから笑顔で応援スタンドの前に走って来て並んでお辞儀をした。

 唯は嬉しそうに澤村君に手を振っている。


 この年の野球部はベスト4の成績だった。







 夏休みのある日唯が突然家に来た。


 今の時代には考えられないかもしれないが、携帯電話が無く、キャッチホンが標準装備という訳では無い時代では、その辺りの兼ね合いから「突然」というのは珍しい事でもない。

 家の固定電話は姉が占領している事が多く、この日も昼から長電話をしていた。


 唯が珍しく相当怒っているので理由を聞いてみると、どうやら澤村君が彼女にキスをしようとしたらしい。

 彼女の家でゲームをしていると彼が肩を抱いてきたのだとか。


 けしからん程に羨ましい話じゃないか。


 「何を怒っているの?」


 と聞いたところ唯はそれに対しても怒り出した。


 「逆に聞くけど、なんでちゅーしないといけないの!」




 マジか。




 私が見る限り唯の澤村君への気持は間違いなく恋愛感情で本物だと思われる。

 澤村君もそれを受け入れ、疑う事もなかっただろう。


 「私はちゅーが一番よくわからない。

  まだHの方が納得できる!」




 マジか。




 私からするとむしろ逆のイメージだった。

 キスは少しずつスキンシップレベルを上げる際の一つの山場で、Hとはゴールではないのか。


 唯はキスに何か別のものを感じるのか。

 まさかキスで子どもが出来るとか考えていないだろうな。

 考えていそうだこの娘なら。


 しかしこのままでは好き同士なのに澤村君とこじれてしまうだろう。


 とりあえず何か違う気もしながら


 「ちゅーしたい人の方が多いよきっと。

  そんなんじゃ外人と友達になれないよ。

  あとちゅーで子どもは出来ないからね。」


 と言った。

 勿論唯は納得していない。




 どうしたものかと思い、プンプンの彼女が帰ってから姉に聞いてみると姉は大笑いした。


 姉が言うにはキスとはスキンシップであると共に性交渉の一つでもあって、唯がそれを嫌がるのは性癖の一つなのではないかという話だった。

 恐らく澤村君を求める気持ちがあるから「Hの方が納得できる」と言ったのではないだろうかと。




 いやあ。

 まさかここで唯の性癖を知るとか、マネージャーとは言えなんだかげんなりしてしまった。




 しかし哀れ澤村君。

 実はゴール前はフリーなのに煙幕をたかれているような状態だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ