キャプテン
二年生になりクラス替えをした。
私と唯は理系のクラスだ。
一年時のお祭りクラスを離れたくないと思っていたのだが、このクラスの女子もなかなか濃い面子だ。
唯も同じクラスで、その唯と同じくらい不思議オーラを纏う子がいるし、唯に負けない程の美人もいるし、真田の彼女や番町の風格を漂わせる子や、皆独特の雰囲気を持っていた。
だからか直ぐに仲良くなった。
結局そのような独特の雰囲気を持っている女子は気質が似ている事が多い。
しかし皆「普通の女子」の間では過ごし辛い思いをしたのではないだろうか。
このメンバーでの行事はさぞ楽しいだろうと思っていたのだが、残念ながらこの年のほとんどの運動部員は行事参加ができない年になる。
恐らく年間行事を組み立てた先生がミスをしたのだろう。
澤村君は文系へ行き、大谷と宮本と同じクラスになったらしい。
唯はまるで保護者のように安心していた。
物静かな彼に友人がちゃんと出来るか心配していたらしい。
彼女はよく澤村君のクラスに行った。
「うーたん!辞書かして!」
主に忘れ物を借りにいくのがメインだが。
大谷と宮本にはそろそろバレてきているようで
「やっぱり唯すげえな。」
と言っているのを聞いた事がある。
うーたんの由来を聞いてしまったのだろうか。
まあしかし、澤村君と唯がうまくいっているのなら最早問題ではないだろう。
しかし不思議女子が身近に複数いると毎日が騒動だ。
一人の不思議女子は知美という子なのだが、彼女は社交ダンススクールに通っている。
大会には出た事が無いらしいがよっぽど好きなようで、突然クラスメイトの手をとって踊り出すために驚いてしまう。
私は足がまだ駄目なので無理に踊らされる事はなかったが、他のクラスメイトや唯はよく巻き込まれていた。
いや。
唯は巻き込まれにいっていた。
ある日彼女に
「いつも澤村君と会うと何してるの?」
と聞いたところ
「この間は知美に教えてもらった踊りを一緒に踊ったよ。」
と素敵な笑顔で答えた。
澤村君の苦労が偲ばれる。
もう一人の不思議女子の美喜は同じ電車通学だったので顔と名前は知っていた。
ただクラスも違うしそれぞれ別の友人達と話していたため、クラスメイトになって初めて会話をした。
この女子もまたかなりの不思議系オーラをまとっている美人なのだが、私のアンテナが危険を知らせるため、昼食時は同じグループだがそれ程会話をする事はない。
夏の大会が近くなったある日、私はまた足を痛めてしまった。
捻挫をしないようにサポーターで足首をガチガチに守ってきたのだが、もうそろそろ無い状態でも生活してみようということで外した矢先だった。
思った以上にサポーターに頼っていたのだろうか、普通に歩いているだけで足を踏み外したような形で捻挫をしてしまい、足がまた腫れ上がってしまったのだ。
捻挫癖というものでもあるようだ。
バスケを思い切り楽しむという目処が全くたたない。
溜め息が出た。
しかしショックやイラつきは覚えたものの、不思議と取り乱したりはしなかった。
恐らく唯の件も含めて、思った以上に私はマネージャーという仕事を楽しんでいるようだ。
だからマネージャー業に差支える点でなら非常に悔やまれる。
結局私は夏の大会が過ぎるあたりまでまた松葉杖のお世話になる。
情けない事に大会も松葉杖の隣に座り、ギャラリーから観戦して三年生の最後の勇士を見送った。
その後唯が主将に、もう一人の元県選抜選手の子が副主将に任命されたのだが、二年生の間から少し苦情が漏れた。
分からなくもない。
唯は素晴らしいプレーヤーだが、主将が適任かとなると賛否両論だ。
友人思いでチーム思いではあるが、唯が不思議女子な事を知っているバスケ部員は主将としての器に不安を感じたのだろう。
そして副主将の子も素晴らしいプレーヤーだが非常に大人しくあまり声を発しない。
しかし三年生がそれを発表した時に
「ごちゃごちゃ考える人にはあんた達を引っ張っていけない。
いつも真っ直ぐ前を向いているこの二人が適任のはずだ。
あんた達が考える以上に唯の器はでかいよ。」
と言った。
二年生は皆実力があり我も強い。
だからよく愚痴や文句や暴言が耳に入り、自己主張が強い個人技によってリズムが崩れる事など日常茶飯事だ。
のんびりしている監督に代わり、三年生はそれを「先輩」という権力で押し込んできたのだ。
しかし自分達はもう引退してしまう。
そんな二年生を誰が纏められるか、主将任命にあたって恐らくかなり悩んだ事だろう。
皆が皆実力者で思いを強く持っていて、普通のチームなら主将を任せられてもおかしくない程バスケに熱意を抱いている。
しかしそれ故に誰を選んでもあっちにすればこっちがたたずという具合になる。
そこで内部の争い事に無関心で尚且つ実力的に申し分の無い唯達に、白羽の矢が飛んだという事なのだろう。
流石の唯も彼女も少し悩んだが最終的に引き受けた。
「誰かがやらないといけないし、引退する先輩達が決めた事だ。」
キャプテンとは孤独な事を私は知っている。
私は彼女を今まで以上に全力でサポートする事を心に誓った。