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マネージャー  作者: 夕顔
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午後の車内

 仙台からの東北道下りは緑が多く、長閑な景色が続く。

 お盆や正月のシーズンでなければ渋滞も起きない。

 

 高校を卒業してから私は宮城で過ごしてきた。


 進学した大学が宮城県だったのだが、その後の就職でも地元には戻らなかった。

 地元は就職の窓口が非常に狭く、宮城県の特に仙台市内の賃金とはかなりの格差があったのだ。 

 実家は姉に任せて私は宮城で生きていく事を決めた。






 私は今、先日やむを得ず買ったテンションの高い音楽を聴きながら、地元へ向けて自家用車で東北道を走っている。


 上り方面への運転は正直避けたいところだが、下り方面へはあまり運転技術の無い私でも安心して走行させる事が出来る。

 そこで連休があると度々地元へ帰っていたため、地元を出たとは言え遠くに感じているわけではない。


 高校生の時や高校卒業したての頃はかなり遠くに感じたものだが。




 「なあ曲変えてもいい?

  この曲あんま好きじゃねんだよ。」




 助手席で助手の役割を果たさないこの男は地元の友人である。

 

 地元出身で宮城在住の人間は結構いるので、帰省の際には声をかけあい、共に一台の自家用車で帰る事がある。

 そうする事でガソリン代も高速道路代も折半して金銭的にも楽になるのだ。

 ただ最近は仕事が忙しくなったり、結婚したり子どもができたりする事で乗合メンバーは少なくなってきた。

 仕方の無い事なのだが。


 今回は助手にならない助手席の男がこの帰省に乗った。




 「え。だめだめ。

  披露宴の余興でみんなで歌う事になって今覚えてるんだから。」




 三年間同じクラスで過ごし部活動まで一緒だった親友からの頼みで、この度私は彼女の披露宴で友人代表の挨拶を仰せつかったのだ。


 職場の同僚の結婚式などでは友人代表の挨拶をあまり見かけなくなっていたので、まさか自分にこのような大役が来るとは思ってもいなかった。

 しかし彼女から頼られる事は昔から嫌いではなかったため、喜んで引き受けさせてもらった。


 挨拶の文面を考えたが、語りたいエピソードが山のようにあり、収拾がつかないまま明日には披露宴である。

 そして歌も覚えなければならないとなると、この移動時間にもやれる事はやらないといけないのだ。


 本来であれば同じ宮城から彼女の結婚式に招待された人間が他にもいたのだが、仕事や家庭の事情で残念ながら叶わないのがほとんどだった。

 皆からはご祝儀を預かってきており、その点でも「友人代表」である。




 「え。これは若い娘達が歌うから可愛いのであって、お前達みたいなのが歌ったらヤバいって。」


 「仕方無いじゃん。私が決めたんじゃないんだから。」




 皆で披露宴の余興をするとなると、実際そういう歌を選ばざるを得なくなる。

 自分達が歌ったところで見てくれが良くないのを本当は分かっているので、できればそこはハッキリ言わないで頂きたいところだ。



 

 最近の披露宴や二次会場は「出会いの場」として捉えられる事もあるが、それはおかしいのではないかと私は考えている。


 こうして親友が嫁ぐ場となるとその思いは顕著だった。

 友人代表の挨拶を考えるにあたって高校時代に思いを馳せると、そこに散りばめられた思い出の数々は悩んだり苦しんだりした事すらもとても愛しく思った。

 彼女のその道程を真剣に思いながら祝おうとすると、見てくれで不況を買うなど小さい事だ。


 結婚式や披露宴に参列するという事は本来そういうものではないのだろうか。




 だから私は独身なのだと言われても耳は受け付けないようだ。




 午後も遅くなってからの出発だったため、地元に着く頃は日が沈んでいそうだ。

 少し考えてから聞いてみた。


 「地元着いたら外で夕食済ませちゃうけどどうする?一緒する?」


 彼は少し間をあけてから


 「その時の気分かな。」


 と答え、そのまま腕を組み窓の方を見ながら動かなくなった。




 ああ。寝ちゃったよ。




 私は音楽のボリュームを少し下げてから高校時代を思い出した。

 

 思えば彼女のおかげで私の青春は楽しいものだった。

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