表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間と亡者の十二宮  作者: 漣 時雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/42

十話目 二度目の襲撃

今晩の作戦はこうだ。


教室の扉前、両脇で神部と安佛が待機する。この二人が選ばれた理由は変身しても人型のままで小回りがきき、動きが一番速いから。

マレフィキが入ってきた途端、安佛が腕を、神部が足を挟み込み動きを封じる。

万が一突破された場合は正面で待機している上向が全身を使い、のしかかりの要領で組み伏せにかかる。上向が外しても奥には第三、第四の包囲網が待機している。心元はないが、これだけ居れば誰か一人くらい止められるだろう。

もし、マレフィキが何らかの方法で外に逃走した場合は、安佛の後ろで待機していた阿戸鳴が安佛を乗せ追走する。マレフィキの動きは速いが、昼間中走り回ることで訓練を重ねた阿戸鳴なら追いつける可能性がある。安佛の身体能力なら阿戸鳴に乗って走っても大丈夫だということは確認済みだ。


昨晩のマレフィキを思い返すと、変身したと思われる雁瀬先生が触れただけで衰弱していた。まずはお触りから狙う。


そうして日が暮れてからずっと各々持ち場で待機している。

いつ来るか分からない存在を全力で待つというのは、意外と神経を使う。

ずっと緊張状態にあるのだ。一秒が千秒にも値する。初めこそ緊張感に引き締まった直立不動の体勢を取っていても、三十分が経つ頃にはそわそわと動き出す。

「あーつまらん」

扉脇に立っていた第一包囲網・神部が近くまで椅子を引いてきて、体を投げ出すように座り込んだ。

それが合図と言わんばかりに、我も我もと着席し始める。

「はじめっから気を張りすぎた」

体重がかかり、椅子の背もたれは寝台のように後ろにしなる。

「さすがにさ、神部はさ、もっと頑張るべき」

おろおろと安佛は何とかして相方を奮い立たせようとする。先陣なので責任も感じている。

「そんなこと言われてもな」

くるくると椅子が回転する。

教室中は完全にやる気を失っていた。


それからまた数時間。今度は安佛すら着席していた頃、扉の向こうで声が聞こえる。

「こんばんは」

だらけきっていた教室内に緊張が走った。その声には聞き覚えがある。

「開けていただけませんか」

わざわざ断りを入れるとは向こうも律儀なことだ。

おかげで、目が覚めた順に持ち場に戻る時間があった。

教室を見渡し、準備が出来たことを確認した安佛は、覚悟を決めた。

がらりと扉を開ける。それと同時に、脇に構えていた二人は立ちはだかった。

「うそだろ」

「なんでさ」

しかし門番は眼前の光景に動きを止めてしまう。いや、動きが止まったのは人影を確保した後だ。

確かに一人、安佛たちが取り押さえた。

けれど、マレフィキは外にいた。入り込んできた人影の足を押さえるためにかがんだ神部を光を避けるような黒い笑みで見下していた。

「がっ」

悲鳴を上げたのは神部。マレフィキがそのワンピースに隠された足で蹴り上げていた。その衝撃で神部はのけぞり、手を放してしまう。

「こんのアマあ」

頭に血が上った神部がマレフィキに殴りかかる。しかし、彼女は軽い身のこなしで拳をかわす。二人とも教室を出て、どんどん廊下を進んでいってしまった。呆然と見送っていた阿戸鳴がはっと我に返ると慌てて追いかける。


失敗した場合、まず援護に回るはずだった上向は、第一包囲網に捕まっている人物を見て固まっていた。

スーツ姿の女性。細い線はエリート思考を漂わせ、苦痛を隠すように眉を寄せた柔和な表情は人を寄せ付けないプライドの高さが感じられる。大きな襟のブラウスを引っ張る、大きな胸は安佛に抱きつかれたせいで形を崩していた。

「蓮村……さん?」

今朝発掘された女実習生の姿がそこにあった。


慌てて上向は振り返る。

多くの視線が奥に控えていた白い牛を見据えていた。

「私が、二人いるって言うの?」

間違いなく、この牛は蓮村のはず。それは間違いない。なのに、どうして目前にもう一人、蓮村がいるのか。

「騙されないで、あいつは偽物よ」

苦しそうに人型の蓮村は安佛の腕の中で訴える。

「影に飲みこまれた後、一部の影が私そっくりに化けたの。見たのよ。アレは私じゃないわ、牛の亡者よ」

「違う、違う。何言ってるの。アナタのほうが偽物でしょ?」

牛が荒々しく吠える。普段の蓮村では考えられない。

「私が、蓮村。本物の蓮村妙よ」

「何言ってるの意味わかんない」

教室の端と端で言い争う。牛が後手に回りがちだ。

「上向くん、信じて」

安佛に阻まれながらも強気な目が上向を見据える。

「バカ言わないで」

冷静さを保てず、牛も叫んだ。

「嘘じゃないわ。安佛くんに押さえられても私平気でしょ?」

影や亡者じゃない証拠だと言い張る。

「上向くん。冷静に考えて。私は今朝雁瀬先生の変な呪文で解放されたの。亡者のはず無いでしょ。変身だってしたじゃない。私が牛になったのは誰のせいか忘れた訳じゃないでしょうね」

アナタが画面前で押さえつけてくれたおかげよとイヤミたっぷりに返す程度には、落ち着いた様子。蓮村のことだから落ち着いたふりも得意なのだろう。

二人に問われ、上向は誰もうらやましがらない修羅場に巻き込まれた。


怪しさで言えば、スーツ姿の蓮村の方が怪しい。なぜ日が暮れた後に来たのか。それもマレフィキを連れて。

言い争いの内容においても、やけにこちらの情報に詳しすぎやしないか。

敵である気がするのだが、姿形は申し分なくうり二つ、言動もそんなに異なっていない。むしろ牛になった蓮村より好感が持てる。

二人とも本物という線だってある。訳あって分裂したとか。


一人根拠もない妄想を膨らませている上向に一つ助け船が出された。

「上向先生に問わず、こういうのはわっしに問うべきでないかね?」

雁瀬先生は教室の隅で自ら空気になっていたが、やっと本から顔を上げ存在感を放出した。

ロックンな要素なのか、特徴的な歩き方をしながら待機中の女子生徒達に近づく。

「見つけたての紋様を一発判断に使ってやろう」

また、新たな武器を持っていたらしい。

場木に言いつけ油性マジックを出させると、太い方のキャップを抜いた。

「まずは新しく来た君の方から試そうかね」

元々ガラの悪いおじさんといった外見だが、もっと怪しくなる笑顔を浮かべた。本人は楽しそうだ。

右手で女のあごを持ち、引き上げる。

その動作だけで、絶望的な叫びを上げ始めた。

耳元で大音量をくらった安佛がふらふらしている。それでも拘束をゆるめない姿はたくましい。

雁瀬先生の触れた皮膚から、色が抜け落ちていく。

「こりゃあ確かめるまでもないけど、後学のためね」

耳をふさいでも心臓を鷲づかみにしてくるような悲痛な叫び声が響く中、雁瀬先生は左手に持ったマジックペンを人型蓮村の右頬に添えた。

円と直線を繰り返し書く。女が暴れて模様がずれたりしないように右手には力が入っている。

顔に落書きをするだけとはとても思えないほど目を背けたくなるような光景だった。出来れば声の届かない場所まで行きたい。

「が、ァ……」

紋様が完成する頃にはまったく人間の形をとどめていなかった。一度装飾過多な牛の姿になったが、今はそれすらも留めていない。人間でも牛でもない足下から流線型の影となり消えようとしている。

「バカ、みたい。こんな奴らに……負けちゃうなんて」

紋様が書かれた右半分だけ、蓮村の顔が残っている。痛みは無いのか、断末魔のように思われた叫び声は途絶え、切れ切れに言葉を残す。

「私ってば、亡者なのに……山羊の、せいだ」

諦めたように目を閉じ、そのまま黒い影と成った。

光に照らされ消滅する。

「一応、そっちの牛にもやってみるかね」

先ほどの惨劇をもろともしない雁瀬先生がマジックを片手に蓮村へ寄る。素晴らしく晴れ晴れとした笑顔だ。

「止めてください。せめて油性は勘弁してください」

割と冷静な蓮村は、こんな時でも冷静に指摘をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ