五話 初陣
ベオウルフ達はリンターク兵に捕まり物置小屋の地下に幽閉されていた。
「この物置小屋に地下なんかあったんだね」
「村長達の話しにはなかったな、奴等が造ったんだろ」
「確かに新しいね、地下まで造って何をしようと?」
「大規模な作戦でもあるんじゃないか?」
仲間を殺された動揺を隠すかの様に現状の把握に努めるガルとベオウルフ、明確な答えを出せずに不安だけが募っていった。
ロイ以外のベオウルフ達7人は地下の部屋で2日過ぎた頃、地上の音が聞こえなくなった事に気付いた。
「すいませ~ん!お腹が空いたので食べ物くれませんか~?」
「お願いしま~す!」
ベテラン兵士二人の気の抜けた言葉にも何の返事もなく、地上へとつながる鍵の掛かったドアに注目していた皆は行動を起こす。
「どーする坊主?」
「破ろう」
何度目かの蹴りでドアを蹴破ったベオウルフ達は地上に出た。
そこには大半のリンターク兵が撤収した跡があった。
警戒しながら辺りを散策すると物置小屋の裏手に荷駄隊6名が撤収作業をしていて、ベオウルフ達に気付くと武器を持って近付いてきた。
「チッ、もう出て来やがったか」
「さっさと片付けて本隊に合流するぞ」
「あいよ」
武器を持っていないベオウルフ達に油断したように近付いて来る剣を持ったリンターク兵士に一歩で肉薄し斬りかかってきた兵士の右肩に交わしながら拳で殴り付け、怯んだ所を下から掌底で突き上げ顎を砕く。
「グゲっ」
顎を砕かれ悶絶して放した剣を奪い取り、ベオウルフは残りの兵士達に斬りかかった。
「うわっ」
「クソッ」
一瞬で形勢逆転した状況にリンタークの荷駄隊はベオウルフに斬られ武器を落としガル達に止めを刺された。
一人生き残っている顎を砕かれた男に本隊が何処に行ったか聞き出し直ぐ様後を追う。
リンターク本隊を追いながらベオウルフは初めての実戦と初めて人を斬った感触に恐怖を自覚しつつ、物置小屋で隙をつかれて仲間を殺された時に動けなかったのか悔やんだ。
自分の甘さと覚悟の無さに悔やむ、そして二度とこんなミスを犯さないと心に強く決意する。
リンターク兵士を追いながら物置小屋付近に野営の跡を見つけたベオウルフは敵の作戦の内容を予想する。普段はほとんどのリンターク兵が野営して待っていたと、先に捕まえた男に聞いていた事から、何か作戦を遂行する期を伺っていた事になる。
「盗賊紛いな事までして食糧を調達して何を待っていたんだ?」
「坊主を捕まえる為じゃないのか?」
「いや、俺が盗賊討伐隊に入ったのは事件が発生し討伐隊を組まれた後だ」
「この時期にミノー村近くで何かありましたっけ?」
ベオウルフとベテラン兵士の会話にガルが皆に聞くように問うと。
「え~と確かもうすぐ王都から方面軍が来る時期だったかなぁ」
「方面軍…ですか」
「ああ、方面軍つっても正規のやつじゃなくて演習みたいなもんで、暫く平穏が続いてる今は幹部達と新人の移動訓練みたいになってんだ」
ガルの問いにベテラン兵士はなんとか思い出して答える。
「規模はどの位だ?」
「100人位じゃないか?年に三回の訓練だから新人はその位だろ、それに幹部十数名位だ」
「それが狙いか」
リンタークの狙いがわかったベオウルフ達はエンフィール王国の方面軍の進路であるミノー村と隣町をつなぐ街道に急ぐ。
街道に着くと川沿いに方面軍が進軍していて、その進路上近くの小高い丘の窪地にリンターク兵達が潜んでいるのを発見した。
方面軍からは見えない位置に陣取り奇襲するつもりの様だ。
窪地の後方に森があり、そこに馬車や荷駄車などが置いてあり十数名が守っていた。
ロイもそこに居ると確信し直ぐに行動に移る。
覚悟して冷静に甘さを捨てて。
「ガルーザス」
「はっ!」
「方面軍に使者として行き、状況を伝え直ちに戦闘体勢を敷かせろ」
「はっ!了解しました。」
ガルーザスはベオウルフの決意の籠った目を見て敬礼し直ぐ様命令を遂行する為方面軍に走って行った。
「俺達は森を周りロイドを救出する、続け」
「「「おう!」」」
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