四話 初陣
裏側包囲部隊に割り振られたベオウルフ達は、山岳地帯の裏側の山を進んでいた。山岳地帯と言っても裏側は森より生い茂っていない林の様になっていて、見通し良く順調に歩んでいた。
盗賊団討伐作戦は二手に別れルメノ兵士長が指揮する表側部隊が主に盗賊団のアジトの討伐をし、裏側部隊が背後を囲うのが作戦である。
「ヤツらこっちに来るとおもうか?」
「4~5人は来るんじゃないかな」
ロイとガルがそんな話しをしていると裏側部隊を率いるベテラン兵士が自分の経験上の忠告をする。
「盗賊とってのはなぁ、自分達の身が危険になったら我先にと逃げるもんさ。
だから身を引き締めとけよ」
暗にこちら側も危険なんだぞと言いたげに新兵や初陣、見習い組に言う。
―――
「良し、此より作戦を遂行する!」
ミノー村近くの山岳地帯の丘の上に盗賊のアジトと見られる物置小屋を確認し、ルメノ兵士長が号令する。
丘を登り、物置小屋に到達すると数名が出て来た。予想していた小規模の盗賊らしからぬ身なりの人物達が各々武器を持って。
―――
裏側の林に囲っていたベオウルフ達別動隊は囲いつつ盗賊団のアジトに進んでいた、予定ならもう作戦を遂行している頃合いで警戒しながら進んでいると、目の前に矢が飛んできた。
「敵だ警戒しろ!」
ベオウルフ達裏側部隊は直ぐさま戦闘体勢に入り、周辺を捜すと前方に逃げる二人を見た。
「クソッ、逃げやがって」
「待てロイ」
ロイが逃げる敵を追おうとしてベオウルフに止められる。
「アジトの方に逃げるなら問題ない、そこで一網打尽だ」
いつでも戦闘できる体勢で囲いながら進むと物置小屋が見えて来た。
「なんだこれ」
物置小屋にベオウルフ達が到着すると、ルメノ兵士長率いる表側部隊が地面に倒れていた。
血を流し皆死んでいた。
「こんにちは」
そう話し掛けながらベオウルフ達裏側部隊のベテラン兵士達を斬り殺すリンターク帝国のエンブレムの入った剣を持つ男。
「ぐわッ」
「オッサン!!」
ベテラン兵士を3人殺されて、囲まれたベオウルフ達は戦う事も出来ずに降伏を促された。
「降伏してくれたら助けますよ。ベオウルフ・アル・バルトさん」
こちらの事は知っているかの様に、50人近くの兵の中で唯一エンブレム付きの剣を持った男が話し掛けてきた。ベオウルフ達9人の中で誰がベオウルフかは解っていない様子でロイが答えた。
「これ以上手を出すな」
「ええ、降伏して頂けたなら安全を保証しましょう」
そう言って兵士達の向けている剣や槍を下げさせた。
それを見てベオウルフ達は武器を捨ててロイ以外が後ろ手に縛られた。
「あなたが来るなんて予想外でしたよ。結果的に良かったんですけどね」
「なんでリンターク兵がこんな所にいんだよ?」
ロイの事をベオウルフだと勘違いしている男にベオウルフ達が疑問に思っていた事をロイが聞く。
「いやいや、リンド砦がなかなかに手堅くてね、攻めあぐねていたんですよ。だから攻め方を代えてね、バルト領内で情報収集ですよ。」
リンド砦はバルト領内の北側に位置する対リンターク帝国の要である。リンド砦は山岳地帯を利用した砦で周辺は木や草の生えない山にあり砦からの見晴らしもよく、守りやすく攻めずらい堅固な砦だ。
「情報収集ねぇ」
「ええ、ラッキーでしたよこんな所で領主の息子を捕まえれて。」
「捕まえてどーすんだ?」
「さて、どうしましょうかね?」
「クッ」
馬鹿にしたように困ったと言う男にロイが一瞬不機嫌な顔をするが、此処でこの男の機嫌を損ねれば本物のベオウルフやガル達が危険だと思い我慢する。
ベオウルフはリンターク帝国ともガンノ王国とも膠着状態が続き平穏なバルト領に盗賊が流れ着いた事が、サザン出発当初から気になっていたが、盗賊とはどの領内にも必ずいる事から深く考えいなかった。
自分の未熟さに憤慨していたがまだ気になる事があって聞いてみた。
「なんでこんな所に50人近くの兵士を?」
「情報収集ってさっきも言いましたよ?」
「こんな田舎村近くに50人の部隊はおかしいんじゃない『ガッ』」
「五月蝿い奴ですね、君には関係ないよ」
図星をつかれたからか、ベオウルフを蹴りながら凄む。
「おい、辞めろ!」
ベオウルフが蹴られて慌てて止めようとするロイ。
「ええ、あなたが大人しくして頂けるなら。」
止めようと男に近いていたロイに顔と顔を近付けて言う。暗に余計な事はするなと殺しはしないが逆らう奴は痛めつけると。
こうしてベオウルフ達はリンターク兵に捕まった。