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新しい旅立ち

フィアレインとシェイドは買い物に来ていた。

装備を整える為に、まず武器と防具を扱う店を訪れた。

シェイドは剣が折れたし、フィアレインに至っては武器も無ければ防具もない。

店主にシェイドが話しかけた。


「剣はあるか?」

「今あるので一番良いのは鋼鉄の剣ですね」

「じゃあそれを二降りくれ」


魔物と戦うのに鋼鉄の剣では心許ないが仕方ないと、シェイドは呟く。

念のため二降り購入したのは今回の様に折れた時に備えてだろう。

シェイドは不思議そうな顔をするフィアレインに説明してくれた。

資金に余裕があればもっと買っておきたいが、買わねばならぬ物もまだあるし、今後の路銀もいる。

一般の店ではせいぜい鋼鉄の剣くらいしか買えない。

稀にギルドに集う冒険者や傭兵が手に入れて売却した特殊な武器が売られる事もある。

とは言え、そんな物になかなかお目にかかれないのが現実だ。

誰しも良い武器や防具は自分で使いたい。

それが滅多に手に入らないなら尚更。


以前ヴェルンドに教わったことをフィアレインは思い出した。

この世界で最も強い武器や防具はエルフの手によるものだ。

エルフの知恵と魔力を用いた錬金術によって作られた最高の金属オレイカルコス。

オレイカルコスを原材料に強力な魔法を付加された武具は、特殊な効果を持つ事も多い。

人間の作る武具など足元にも及ばない。

エルフから見れば、例えプセウダルギュロスを用いた物でも玩具の様な物だと。


プセウダルギュロスとは一般に聖銀と呼ばれている。


「聖銀を使ったのはないの?」


不思議そうなフィアレインの言葉に店主は苦笑する。


「嬢ちゃん。

聖銀の製造は教団が管理しててな。

一般には作り方も知られてないし、出回りもしない。

神様から人間に与えられた有難い知恵だからな。

材料は銀を使うってのは知られてるが、その後どんな錬金術を使うかってのは門外不出になってる。

聖銀を教団の奴が横流しするのも大罪だからな」


だがシェイドは勇者ではないか。

神からの加護を受け働く者である。

少なくとも闇の神の教団からは聖銀を用いた武具を提供されても良いのではないか。

国一つ滅ぼした伝説の龍と相討ちになり、英雄として名を馳せた何代か前の勇者は聖銀製の武具で身を固めていたと聞く。


「闇の神の教団はくれなかったの?」

「言ったろ……あそこは弱小で何の援助も期待出来ないって……」

「そっか……ごめんね」

「いや……。

それより店主。

この子は魔法使いなんだ。

何か装備出来そうな武器はあるか?」

「うーん……魔法使いと言えば杖だな。

コレなんかどうだ?

鋼鉄と魔法石を使った代物だ。

ちょっと嬢ちゃんには長いか?

……よし!勇者様ご一行に特別サービスだ。

ちょいと時間をくれたら、無料で短く仕立て直してやるよ」

「夜までに済みそうか?

明日の朝には出立するんだが」

「問題ない。宿に届けてやるよ」


シェイドは店主に宿の名を伝える。

フィアレインは店主の持つ杖を眺めていた。

何故魔法使いと言えば杖なのだろうか?

何やら防具の相談を始めた二人につい聞いてしまう。


「その杖ってどうやって使うの?」

「え?魔法使いの杖ってのはだな……」

「杖の使い方は……」


店主とシェイドは思わず口ごもる。

その後の言葉が出てこない。

二人も知らないのだろうか。

それはそうかも知れない。

店主は売買が仕事である。

そしてシェイドは魔法使いではない。


「俺の魔法の師匠だった魔法使いのご老体も持ってたけどなぁ。

どうやって使うのか、か。

考えたこともなかった」


唸るシェイドに店主が助け舟を出す。


「魔法の発動に皆さん使われるじゃないですかねぇ。

ほら魔法使いと言えば杖って言うだけあって……」

「でもフィア、杖なくても魔法使えるもん」

「俺もだ。

他の魔法剣士もそうだしな」

「ごめんな。嬢ちゃん。

売ってるくせに使い方も説明出来ねぇなんて……」


落ち込んで肩を落す店主を見ると申し訳ない気分になる。


「ううん。後で使い方考える」

「そうだな。帰って考えるか。

武器は何か持ってた方がいいしな。

ところで防具はどうする?

重いのは無理だろうが、何か希望あるか?」

「今着てるケープあるから要らない」


二人がフィアレインの着ているケープに注目する。

地味な茶色の何て事のない普通のケープに見えるだろう。

だがこれはヴェルンドからもらったエルフの都アルフヘイム土産である。

アルフヘイムにはセフィロトの木と言う特別な巨木がある。

その木に住みついている蜘蛛アラクネーの糸で作られた織物。

その強靭さの右に出る布地はない。

そしてこれはセフィロトの木の樹皮で染められている。

加えてエルフによる守護魔法が付加されている一品だ。

まだ子供であるフィアレインの身を考え、更に特別な魔法をかけてある。

着る者の身体に合わせてその大きさを変えるように、ヴェルンドが作らせたそうだ。

人間の魔法使いなら喉から手が出る程欲しがるであろう一品で、売ればとんでもない金額になると聞いた。

エルフにとってはさほど珍しい品ではないが。

それを聞いた二人は目を見張る。


「へぇー長いこと商売やってるが初めて見たよ。

なかなかそういったモンは出回らないからな」

「手に入れれば誰しも自分で使うだろうしな。

そもそも中々手に入れられないだろ」

「でも、アルフヘイムのある大陸だと人間と取引して作った物を売るエルフもいるって聞いた」

「へぇ。

んじゃ、その大陸だともっと強い武具買える可能性があるって事だな」


シェイドが目を輝かせた。

金で良い武具を手に入れられるなら、それに越した事はない。

あるかどうかも分からぬのに遺されたエルフの品を求め、遺跡に潜るよりは確実だ。

金策は必要となるが、労力を比べれば、どちらを選ぶべきかは明らかである。


その後、シェイドの壊れた防具をいくつか買い換え、店を出た。

そして必要な道具を買う為、雑貨屋に寄り、最後は食品を買って宿へ戻る。


「それにしても保存魔法か。

エルフは日常生活においても常に魔法使うってのは本当なんだな」

「人間は戦闘でしか使わないんだね」

「ああ。

お前が食事の時に、水属性の魔法で出した水飲んでるのも驚いたけど」

「お風呂もそれで入るんだよ」

「凄いな。確かに便利だよな。

水汲みも要らないし」

「でも人間は魔法使って生活しないからこその発明もあるって聞いたよ」

「保存食とかその典型だな」


日常生活にまで魔法を使えるほどの魔力を持つ人間は少ない。

それを補うのは人の知恵だ。




***

宿に戻ると夕食の支度が出来ていた。

ハルピュイア討伐への感謝が込められた、かなり豪勢な食事である。

焼きたてのパンは香ばしい香りだ。

色々な野菜が煮込まれた赤いスープは、リコペルの酸味と甘さに他の野菜の甘味が溶け合っている。

こんがりと焼かれた鳥肉は皮はパリっとしているが、その肉を噛み締めれば中から肉汁が溢れてくる。

何よりフィアレインが一番気に入ったのは卵にチーズをいれて焼いたオムレツだ。

キツネ色に焼き上がったオムレツはチーズが程よく溶けている。

その口当たりはしっとりとして、卵とチーズのまろやかな味わいが絶妙であった。


しっかりと食事をとり、二人とも満腹になって部屋へと戻る。

その頃には購入した杖が程よい長さに調整されて届けられていた。

試しに持って振ってみる。

重さもちょうどよい。

これならば近づいた魔物に直接攻撃が可能だ。

シェイドが杖を使った打撃や突きの技を教えてくれる。

教えられた通りの動きを何度も繰り返し覚えた。

何やら一端の戦士にでもなった気分である。

ただこれが正しい魔法使いとしての杖の使い方なのだろうか。

腕力に関しては非力である事が多い魔法使いが、杖を振り回し敵をたこ殴りにする姿はとても想像がつかない。

しかし二人で考えに考えたが、魔法使いの正しい杖の使用法は思い浮かばなかったのだ。

仕方あるまい。


一通り訓練を終え、風呂に入り寝支度を済ませた後。

シェイドは次の目的地を告げた。

光の神の教団の本拠地、ウァティカヌスである。

光の神の教団になど自分が行っても大丈夫だろうか。

それを告げるとシェイドは笑顔でフィアレインの肩を叩く。


「俺が責任もつから心配するな。

お前は勇者の仲間なんだからな」


そのシェイドの様子に安心し、眠りについた。

新しい旅立ちに胸を躍らせながら。

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