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終わりと始まり

フィアレインはぐったりとして力を失いシェイドに抱きかかえられていた。

あの後二人は力を駆使してありとあらゆる攻撃をフレイへと浴びせた。だがそんな二人をあざ笑うかのように世界の力を使い傷を癒していく。

フィアレインは何故自分の破壊の力が効かないのかと不思議に思った。

だが思い直す。効かないのではない。フレイの創造の力、それを助けているのは神の力そのものと言える世界の力である。その再生能力が破壊の力を上回っているだけだ。

魔界で療養している時に見舞いに来たベルゼブブと少し雑談した。

その時に彼が言っていたのだ。幼体の時は破壊の力は封じられていて成体になるまで使えないらしいと。

彼ら堕天使は堕天した時点で成体であったけれど、彼らの子どもにあたる第二世代では皆幼体は破壊の力を使えないのが確認されている。フィアレインの破壊の力が目覚めたのは夢に侵入してきたフレイを排除するためで特別なのだと言っていた。


「フィア、しっかりしろ」


シェイドがフィアレインの身体を揺する。

頷き返したいが身体がもう動かない。あれだけ魔法を使うなと言われたのに、使ってしまったのだ。

シェイドが死にそうだったから。

治癒魔法を使った途端、脱力感に襲われ立っていることもままならなくなった。

頭がぐらぐらし吐き気がする。

フレイは言葉通り、世界が終わるその時までの時間つぶしだったらしい。向かってこない二人の様子をながめて楽しんでいるだけだ。


「神は勝手なものだ。死んだ神もそこの娘も」


フレイの言葉に否定できない。

確かに自分は神の力を持っていると聞いても、天界へ移り住み世界の者たちの為に神様として生きようと思わなかった。

シェイドたちと、みんなと一緒に生きていたかった。

無責任と言われれば、好き好んで神の力を持っているわけではないと言い返すだろう。

だが死んでその力を渡せとか、この間のように身体を乗っ取られるのも御免なのだ。

そしてこの期に及んで、力を使うなと言われたのにシェイドが死ぬところを見たくないから力を使った。自分自身が死ねば、世界を滅びから救うことも出来ないのに。

つまりそれは最終的にシェイドも死ぬことを意味している。

単に自分が彼の死ぬところを見たくないためにそんな選択をしてしまった。

きっと彼は苦しむだろう。世界が終わるほんの僅かな時ではあるけれど。

勝手と言われても言い返す余地もない。


「フィア!」


シェイドが治癒魔法をかけてくれるが意味はない。

肉体の形成にまわしていた魔力まで使ってしまったのだ。それに世界の力をフレイに吸い取られているのも影響しているのかもしれない。

このまま身体は崩壊するだろう。


「神は勝手とか言える立場か。お前が一番身勝手だろうに!」


シェイドがフレイに言い返している。

フレイがシェイドに何か言い返したが、もう自分には聞こえなかった。

ゆっくり目を閉じる。


暗闇の中、自分のなかの何かが囁いた。

あいつを喰えばいい、と。


目を開く。己の中の囁きが正しいのかどうかも分からない。だが迷う暇はなかった。

このままでは確実に自分は死に、世界も消えるのだ。

フィアレインは力を振り絞りシェイドの腕を引っぱる。

喋ろうと口を開いたらシェイドが耳を寄せてきた。


「シェイド、フィアのこと投げて。あいつに向かって」

「フィア?」

「投げて、シェイドお願い」


もう時間がない。

何か言おうとしたそれをやめてシェイドが頷いた。


「あいつに向かってならどこでもいいんだな?」


シェイドの確認にフィアレインは頷いた。

彼はフィアレインを抱えて立ち上がる。そしてフレイへ向かって思い切りフィアレインを投げた。


あいつを喰えばいい。

でもどうやって?

きっとあいつの身体に触れればわかるはず。


シェイドに投げられたフィアレインの身体はまっすぐにフレイへと向かっていった。

あまりにも予想外の行動だったのだろう。フレイの反応が遅れた。

フィアレインの身体はフレイの首元へと当たった。

本能に従って食らいつく。

フレイは短く叫び声をあげた。身をよじりフィアレインから逃れようとする。

自分が何をしているのかも分からない。だが奴に食らいついた口から溢れそうな程の魔力が自分へと流れ込んでくるのは分かった。


「離れろ!くそっ!」


フレイの腕が自分へと迫るのが見えた。だがそれが斬り飛ばされる。

シェイドの剣と風の魔法で切断されたフレイの腕が飛んでいくのが目に入った。

さっきまで幾度となく再生した腕は再生しない。

フレイは悪態をつき、残された腕のほうをフィアレインへと動かす。

だがそれがぴたりと止まった。


「なに?」


フレイの腕は干からびて枯れ木のようになっていた。腕だけじゃない。

彼のセフィロトの樹からのびる上半身は下から徐々に干からびている。

残すはフィアレインが食らいついている首から上だけ。

フィアレインは視線をあげた。驚愕に目を見開くフレイと目があう。

どんどん干からびていく。首、顎、鼻。そして目。

驚愕に見開かれた彼の目はやがて激しい憎しみを浮かべる。その憎しみはフィアレインへのものか、神そのものへの憎しみか分からない。

フィアレインは最後までフレイの目を見つめていた。

そして気の遠くなる程長く生きたにも関わらず、神になるという以外何も見出せなかった男の生涯を哀れに思った。



フィアレインはフレイの最期を見届け、そして床に飛び降りた。

干からびたフレイは砂となり崩壊している。背後を見るとセフィロトの樹も崩壊を始めていた。


「フィア!」

「シェイド!」


シェイドに駆け寄って飛びつく。


「大丈夫か?」

「うん!」

「脱出するぞ。ここも崩壊するだろうしな」


シェイドの言葉に頷き返したその時。


「脱出はまだだな。やることがある」


聞き覚えのある声にフィアレインは硬直した。

シェイドが自分の後ろを凝視している。フィアレインも恐る恐る振り返った。

そこにはルシファーが立っていた。


「にゃっ、なんでここに!世界は滅んだりしないんだから!」


まさかミカエルはこいつにやられたのだろうか。

湧き上がる不安を押さえ込みルシファーへと叫んだ。

ルシファーは呆れた顔でフィアレインを見下ろす。見る限り理性を失っているようには見えない。


「勘違いするな。滅びの危機がとりあえず去ったから魔界から来た。ミカエルも知っている」


そうなのか、と頷いたもののまた別の疑問が浮かび上がる。

では何故ここにルシファーが来たのか。


「あのアホエルフによる滅びの危機は去ったが……このままにしておけば世界は間もなく滅ぶ。分かるな?」

「だからフィアが神の力を使って世界を修復するんだろ?」


シェイドの言葉にルシファーが少し笑う。


「修復か。このままでは無理だな」


シェイドが凍りつく。

フィアレインも怯んだが、ミカエルの言葉を思い出してルシファーに反論した。


「ミカエルはフィアがいる限り世界は滅びないって言ったもん!」


ルシファーは少し考え、そして頷いた。


「そうだな。それは正しい」

「じゃあ……なんで……」


フィアレインの言葉をルシファーは片手をあげて遮る。


「今、お前はあのエルフを喰らったとはいえその魔力は全快には程遠い。これだけボロボロになった世界を修復する程の力は残されていない。世界を修復する真っ最中に、また肉体の維持が精一杯の状態へと逆戻りだ」

「でも……ミカエルが言ってたもん!フィアがいる限り世界は滅んだりしないって!」

「そうだな……でもあいつはその方法をお前には伝えてないようだな。今、世界を修復する方法はただ一つ。世界は神の分身のようなもの。

お前を魔力とエーテル体と精神体の塊に戻し、それを世界へと入れる。そして力そのものとなったお前が世界中をめぐり、世界に力を与え修復し、そしてお前も世界から力を補給していく」

「それは……」


シェイドが何か言いかけてやめた。

フィアレインはこてんと首を傾げる。その様子を見てルシファーは苦笑をもらした。


「言ってる意味が分かるか?お前は肉体を失う。そして力の塊となって世界をめぐる。それが終われば……肉体が復活するのを待つ。それがいつになるかわからないが」


ルシファーの説明に頷いた。そして彼へと歩み寄りぐいぐい彼の服を引っ張った。


「じゃあ、早くして!フィア、世界に入る!」


肉体を失う方法は分からないが、ルシファーがここに来たということはそれを手伝ってくれるつもりだろう。

ルシファーはフィアレインを見下ろし静かに言った。


「本当に意味が分かっているか?私はお前を力の塊へと変えられる。だが力の塊のお前の肉体を復活させることは出来ない。つまり肉体が復活するのには時がたつのを待つしかない。

それに肉体を失った状態で精神体が消滅せずにいられるかも分からない。最悪、肉体が復活する前に精神体が消滅してお前は死ぬことになる」

「フィア絶対に死んだりしないもん」


自分は仲間たちの元に帰るのだ。またシェイドやルクス、グレンと一緒に美味しいものを食べたり、旅をする。

それにアダムやミカエルだって待っている。

ルシファーはフィアレインを見つめ、若干言いづらそうに続けた。


「それに……今までこういうケースがないから私にもどれ位の時が肉体の復活に必要なのかわからん。

何年か、何百年か……へたしたら何万年もかかるかもしれないんだぞ」


フィアレインは俯いた。

復活までどれ位かかるか分からない。


「もし……お前が望まないならば、仕方ない。決める権利はお前にある」


ルシファーの言葉にフィアレインは考えた。

もし自分がそれを否定すれば、世界は滅ぶ。全てが無駄になってしまう。

そんなことは望まない。

フィアレインは顔をあげた。ルシファーと目が合う。


「覚えてるか?お前が勇者を救う助力を願った時のことを……私の交換条件を」

「いつかルシファーの願いを叶えて欲しいって言ったこと?」


そうだ、とルシファーは頷く。

彼は断っても構わないと言っていた願い。それは何なのだろうか。

あの時はまだ言えないといっていた。


「その願いを今言っていいか?」


ルシファーの問いかけにフィアレインは頷いた。

その願いが何か薄々わかるけれど、聞かねばならない。


「私は世界を滅ぼしたくない。自分の日常を、私を支えてくれる者達を……全てを滅ぼし、最後に自分一人残って全て見届けてから自らを滅ぼすなどしたくない。

どうか神よ。私の願いを叶えて欲しい」


フィアレインは何も言えなかった。すでに心は決まっているのに、言葉が出てこない。

少し考え、シェイドのほうを振り返る。

フィアレインは彼に歩み寄った。シェイドの服の裾を握り締める。

そしてずっと上にある彼の顔を仰ぎ見た。

フィアレインが口を開こうとしたその時、それよりも先にシェイドが口をひらいた。


「お前は寝起きが悪くていつも寝過ごしそうになるからな、気をつけろ。頑張って早く起きろ」

「シェイド……」

「絶対に死んだりしないんだろ?だから……待ってる。俺もルクスもグレンも。待ってるよ。もしかしたら爺さんになってるかもしれないけど、それでも待ってる。だから頑張って早く起きろ!」

「うん……」

「焼きそば作って待ってるからな。麺がのびる前にしろよ」


ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。

焼きそば。そうだ、世界を救ったらご馳走を食べる約束をしてたのだ。


「うん、フィア焼きそば食べる」


フィアレインは笑顔で頷いた。本当は泣いてしまいそうだったけれど。

もう一度、寝過ごすなよと言ったシェイドに頷き返してルシファーに駆け寄った。


「ルシファー!早く!早くして!」


シェイドは待ってると言ってくれた。

ならば早く用事を済ませなければならない。

ルシファーは笑った。それは彼には珍しく皮肉っぽくもない普通の笑顔だ。


「わかった……神よ、心から感謝します」


ルシファーがフィアレインの頭に手をおく。その手を通じて力が流れ込むのを感じた。


「ああ、そうだ。お前の破壊の力を預かっておこう。破壊の力を持って入って悪影響があったら困るしな」


頭の上にのせた手とは逆の手をフィアレインに差し出す。

フィアレインは漆黒の剣を呼び出してそれをルシファーへと手渡した。

彼へと手渡した途端、フィアレインの手が消えた。

徐々に身体の感覚がなくなる。フィアレインは目を閉じた。その瞳を閉じるという感覚すら失われていく。


「これでお前の肉体は完全に力の塊となった。そうだ、今回の件、私からおまけをつけている……」


どんどんルシファーの声が遠くなっていく。

気づくと自分はセフィロトの樹を外から見下ろしていた。

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