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あるハーフエルフの生涯  作者: 魔法使い
絶望する者、抗う者、否定する者
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ハーフエルフの村

エルヴァンの転移魔法によってフィアレイン達はグレンの故郷であるハーフエルフの村へとおり立った。

キョロキョロと辺りを見渡す。辺りを行き交う者は全員エルフ特有の尖った耳の持ち主だ。

多くの者が武装している。

村の外ではエルフの出来損ないとの戦闘が行われているようだ。魔法による爆音や戦う者達の怒声が僅かに聞こえてきた。


「ここはアルフヘイムに近いからね。ひっきりなしに出来損ない達が襲撃してきて、夜も交代で見張りが立ってるらしい」


エルヴァンの声を聞きながら、何気なく上空を見上げた。

ヒビの入った空を腕が翼状になった出来損ないエルフが飛んでいた。村を襲うべく、その出来損ないは急降下を開始する。

だが出来損ないエルフを突然魔法が襲った。爆音が響き渡り、その身体が爆ぜる。


「たっまやーー!」


嬉しそうなその声の主は民家の屋根の上に座っていた。どうやらこのエルフが魔法を放った主のようだ。

フィアレインは気づく。

これは純血のエルフだと。


「ゼムリヤ!」


エルヴァンの呼び声にそのエルフが屋根の上から下を覗き込んだ。


「エルヴァン?どうした?」

「勇者君たち紹介するからさ。おりてきてよ」


このエルフが芋御殿の主ことゼムリヤのようだ。ゼムリヤは身軽に屋根から飛び下りた。

その手にはやはり鍬だ。


「お、はじめまして。俺がゼムリヤ」


エルヴァンが自分たちを紹介してくれる。

シェイドは丁寧に挨拶しつつも、その視線は鍬に注がれていた。


「グレン君は実家?」


エルヴァンの言葉にゼムリヤは頷いた。


「ああ、ねーちゃんに引きずられて行ったよ。よっぽど家にいたくないんだろうな。見張りの番じゃないときも、外をちょろちょろしててさ」

「うーん、彼の家系は圧倒的に女性が強い家系らしいからねぇ」


エルヴァンがうんうん頷く。

グレンには姉がいるらしい。初耳だ。


「じゃあ、とりあえず私は勇者君たちをグレン君の実家に連れていくよ」

「ああ、勇者が来たらアルフヘイム侵攻の打ち合わせを本格的にやる予定って話だからな」


じゃあな、とゼムリヤはまた屋根の上へ戻り飛来する出来損ないエルフの撃退を再開した。

エルヴァンはグレンの家の場所も知っているらしい。迷いのない足取りで進む。


「グレン君の実家は宿屋なんだよね」


それも初めて聞いた。そう言えば彼は宿の料金と質にけっこううるさい方だった。家業の影響なのかもしれない。


「あ、ここ」


とある建物の前で立ち止まりエルヴァンは指差す。

ふいにその建物の扉が開いた。

中から長い赤い髪に紫色の瞳をした女性が出てくる。グレンと同じ色だとフィアレインは気づいた。

彼女は驚いたようにエルヴァンを見て声をあげる。


「エルヴァンさん!」

「やあ、ビオラ君。グレン君はいるかな?」

「いますよ。ふてくされて店番してます。やだー、何この子!可愛い!」

「にゃっ!」


フィアレインは突然グレンの姉、ビオラというらしい彼女に抱き上げられた。


「何歳なの?」

「ろ、ろくたい」


ぎゅうぎゅう抱きしめられながら歳を聞かれる。力が強すぎだ。

そんなフィアレインに救世主が訪れた。


「姉さん!フィアを殺す気か!馬鹿力なんだから、気をつけろよ!」


見ればグレンが建物の入り口に立っていた。

あ、いけないと呟き、ビオラがフィアレインを解放する。


「グレン!」


フィアレインはグレンへと駆け寄った。自分がフレイに解放されてから彼に会うのは初めてだ。


「フィア、無事でよかった」


グレンの言葉はフレイからの解放のことかビオラの件なのかよく分からない。だがとりあえず頷いておく。


「ここグレンのお家?」

「そう、しがない宿屋だけどね」

「しがないって……。グレン、あんたねぇ」

「姉さん、買い出しいくんだろ?早く行けよ。シェイド達は僕が案内しとくから」


グレンに何か言いかけたビオラは用事を思い出したらしい。また後でと挨拶をして、去っていく。

その背中をため息をついて見送り、グレンはフィアレインたちを建物の中へと案内した。

入ってすぐは受付台があり、その奥が食堂だ。食事時でもないのにエルフ達で溢れている。


「人多いな」


シェイドの呟きにグレンが答えた。


「エルヴァンが呼び寄せたエルフが泊まってるからね。ウチだけじゃ到底部屋足りないから、よその家にも分散してるけど」

「俺たちが到着したら打ち合わせって聞いたんだが」

「そうだね。とりあえず部屋に案内するよ。エルフたち集めるのも時間がいるし」


エルヴァンは食堂にたむろしていたエルフに呼び止められ話し込んでいる。彼はこの村の知りあいのエルフの家に泊まると言っていた。

階段をのぼり二階へと向かう。

階段をのぼっている最中にエルヴァンが声をかけてきた。


「みんな集まったら呼びにいくから部屋でくつろいでて!」

「わかりました!」


シェイドが答えたのを確認するとエルヴァンはまた知人との会話に戻っていった。


「出来損ないどもの被害は?」


二階の廊下を歩きながらシェイドがグレンにたずねる。

グレンは一番奥の一室の扉の鍵を開けながら答えた。


「数が多いし、出来損ないって言ってもエルフだからね。純血連中からすれば大したことないらしいけど……僕たちハーフエルフは何人かがかりで倒してるよ。一番厄介なのは飛んでる奴らだね」


ここはハーフエルフの村だ。普通の人間よりも強いハーフエルフたちとエルフたちが住む。だから被害が少ないのだ。

他の人間の街の被害を想像すると気分が落ち込んだ。

守ってくれる兵が常にいる規模の場所はいい。周囲の魔物と戦えるくらいの住人が住む小さな集落などはどうなるのだろう。税を納める領主へと頼み兵を送ってもらおうにも、使いを出す余裕はあるのか。それ以前に兵の持ち主たる領主も主たる街を守るので精一杯かもしれない。

たとえ鍛えられた兵とはいえ、ただの人間の彼らが出来損ないエルフ一体を倒すのに何人がかりになるのか。

そこまで考えると人間界のおかれた状況はあまりに絶望的だ。

しかも乗っ取られていたとは言え奴らを創り出したのは自分だ。思わず涙ぐみそうになり、あわてて思い直す。

今は落ち込んだり泣いたりする時ではない。


「どうぞ」


グレンが開けてくれた部屋の中へと入る。カーテンもパッチワークのベッドカバーも暖色系でまとめられた部屋だ。

四人それぞれベッドや椅子に腰掛ける。


「話は大体まとまってるのか?」

「そうだね、編成とかは。この村のエルフ全員とハーフエルフの殆どが参戦予定。うちの姉まで……」


肩をおとしゲンナリしたようにグレンは言った。


「ビオラさんも?大丈夫なのか?」

「ああ見えてもウチの姉強いよ。ウチの家系は忌々しいほどに女が強いんだ!父方のじいさんエルフは人間の嫁さんの尻にしかれ、母方のばあさんエルフは人間の旦那を尻にしいてたらしい!その子どもにあたる僕の父親は母親の尻に敷かれ……恐ろしい……」


グレンは青ざめて身震いする。その様子に三人は思わずふきだした。


「それにウチの姉、何年か前に人間の旦那が死んじゃってもう思い残すことはない、とか言ってたし」

「へぇ、ビオラさんは人間と結婚したのか?」

「そう、人間とハーフエルフじゃ子ども出来ないのにね。それでも一緒になりたいって言って二十歳そこそこで駆け落ち同然に村出て行ったんだよ。旦那が寿命で死んで戻ってきたんだ」


そう言えば、ハーフエルフはハーフエルフとしか繁殖出来ないと言っていた覚えがある。

神の奇跡とやらはハーフエルフ同士でないと及ばぬらしい。

だがそこまで考え、フィアレインはこてんと首を傾げた。

ベルゼブブの話では神の創造や混沌からの自然発生以外での生命の誕生は『神の奇跡』だという。だが神と敵対し、その創造物でないエルフにまで神の奇跡が及ぶのは不思議な話だ。

ルクスが言うには神は寛大で博愛だというからそのお陰だろうか。

それを考えると、やはり自分には神など無理だ。こう見えても自分は怒りっぽいのである。


「アルフヘイムへはどのようにして入る話になっているのだ?」

「それがねぇ、一番の問題なんだよ。転移魔法でっていう奴もいれば、普通に陸路で侵入っていう奴もいるし。転移魔法が一番手っ取り早いんだろうけど、アルフヘイムそのものにかけられている結界魔法で弾かれる奴が出るかもって話でさ」

「入れる者と結界に阻まれた者でバラバラになるのは好ましくないな」

「そもそも陸路でも結界に阻まれる可能性あるだろ」


三人が真剣に考え込む。


「それについては問題ない。俺が結界を破壊しアルフヘイムへの道を開く」


突然ミカエルの声が聞こえた。

振り返るとアダムを連れたミカエルが扉の前に立っていた。いつのまに来たのだろう。

突如現れた彼にその場の皆が驚きに目を見開いていた。


「ミカエル、いつ来たの?」

「いまです」

「結界ぶち壊したり出来るのか?」

「問題ない」


ミカエルが頷いたその時、扉を叩く音がした。一番扉に近いアダムが開ける。

エルヴァンが顔を出した。


「あれ?ミカエルも来てたの?ちょうどいいや。とりあえず来れる連中には集まってもらったらしいから、そろそろ私たちも行こう。場所は村の集会所だよ」

「あ、はい。じゃあ行くか」


座っていた全員が立ち上がる。シェイドの後に続いて歩きはじめた。自分の後ろにはぴったりとミカエルが付き従っている。


「お、エルヴァン。全員お揃いか?」

「ああ、ゼムリヤ。行こう」


ゼムリヤが廊下で壁にもたれ立っていた。エルヴァンが自分たちを連れてくるのを待っていたのだろう。

だがゼムリヤはエルヴァンの言葉に何の反応も示さず、とある一点を険しい表情でみつめている。

フィアレインはゼムリヤの視線を辿った。そして己の背後を振り返る。

ミカエルもゼムリヤを鋭い視線で睨んでいた。

睨んでいるどころではない。殺気立っている。


「お前……ミカエル」

「久しぶりだな。エルフ」


その場の空気は凍りついていた。寒い寒すぎる。もしかしてミカエルは氷結魔法でも使ってないだろうか。

フィアレインはそわそわとにらみ合うミカエルとゼムリヤの顔を見比べた。ミカエルがさっとフィアレインを背後にかばう。

エルヴァンの空気を読まないのほほんとした声がその場に響き渡る。


「あー。そう言えばゼムリヤ、天界との戦争の時にミカエルに消し炭にされたんだっけ?」

「図太いどこかの誰かは次の瞬間には復活していたが」


ミカエルの言葉にゼムリヤの殺気が増した。

どうやら二人は犬猿の仲らしい。

凍りつく空気のなか、シェイドがげんなりした様子で呟いた。


「なぁ、本当にこんなんで大丈夫なのかよ……」


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