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あるハーフエルフの生涯  作者: 魔法使い
絶望する者、抗う者、否定する者
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犠牲

翌日昼近くに起きて何も自分に変わりがなかった事に安心する。

もしやあれにあったのも夢じゃないかと思ったが、『夢ではない』と自分の中から聞こえてきた。

自分の今の体調についてケイオスと話をした。言葉は口に出さずとも思うだけで相手に通じるらしい。


『生命の創造ってこんなに力を使うの?一杯創っちゃったからかな……』

『そうだな。確かに生命を無から創造するのはかなり力を使う』


だから土人形をつかって生命を創っていたのかと納得した。


『あとは……お前の身体を乗っ取る為にも魔力が必要だ。奴はセフィロトの枝でお前から吸い取った魔力をそれにあてていた。つまり二重に魔力を使われていたようなものだ』


聞けば聞くほど人迷惑な奴だと腹立たしくなる。図々しいにも程があるというのだ。

うんざりしてケイオスに言った。


『神様になりたいなら、別に自分の世界を創ればいいのに』


別に今の世界を滅ぼす必要などないではないか。新たに別の世界を創って自分達エルフだけそこへ移り住めばいい。


『それが出来ぬから世界を滅ぼすのだろう』

『意味がわかんないよ』


自分で新しい世界を創れないならば尚更いまの世界を滅ぼすなどおかしい。


『あの者は己の中途半端な創造の力を、創造主による枷だと思っている』

『でも、エルフは創造主の創った生き物じゃないもん』

『そうだ。だがあの世界……創造主の創りし天球の中にいることで創造主からの枷を受けていると考えている。本来己は創造主同様の力を持っていたのではないかと。だが一つの世界に創造主はただ一人のみ。だから己の創造の力は制限されているに違いないと考えたのだ』


だけどエルフは自力で天球から出られない。だから世界を壊して混沌へと出て枷を外すと言うのか。

それが事実だという証拠もないのに。


『んーでも。もしそれが間違ってたら、エルフたち住むところなくなっちゃうよね』


フィアレインは世界の創造が出来ないではないか!と怒鳴り散らして怒るフレイの姿を想像して笑った。

ちょっといい気味である。世界がなくなるのは困るが、その姿を見てみたい。


『そうだ。だから奴は創造主に喧嘩を売るような真似をしながらも世界を滅ぼすようなことはしなかった。だが、神の力を受け継いだ者がいると知り考えたのだろう。自分も神の力を奪い取ることを』

『そうすれば確実に新しい世界を創れるってこと?でも変だよ。神の力を手に入れたら世界を滅ぼす理由がないんじゃないの』


フィアレインは混乱してきた。

彼が世界を壊してまで外に出たいのは本当に彼が持っていたかも定かではない力の為だ。

神の力を手に入れたらなら、天球の外へと出るため世界を滅ぼす理由がなくなる。

それなのにフレイはフィアレインの身体を乗っ取った後もセフィロトの樹を止めなかった。そのままにすれば世界は滅ぶのを分かっているのに。

そこまでして今の世界を壊して新しい世界を創る必要などあるのだろうか。


『あの者の抱く劣等感と闇は深い。創造主に劣りそして己の後に誕生したエルフにも劣った。誰にも負けぬ神の力を手に入れ、真新しい世界を創り出すことでそれを払拭したいのだろう』


創造主に劣る、と言うのは分かるが後に誕生したエルフにも、とはどういう事だろう。一番目に生まれたフレイより強いエルフがいるのだろうか。

そんなフィアレインの疑問を読み取りケイオスが答えた。


『二番目に生まれたエルフ。あの研究狂いのエルフだ。あれは一番目に生まれたフレイよりも強い力を持つ個体なのだ』


フィアレインはエルヴァンを思い出す。

フレイの逆鱗に触れアルフヘイムを追い出されたと言うが、エルヴァンは自分の方が強い力を持っているのを知っているのだろうか。ケイオスの口ぶりではフレイの方は確実にそれを知っているようだけれど。

エルヴァンの方が力が強いならば、アルフヘイムに戻ることだって可能だろう。

だがフィアレインはそこで考え直した。あの研究狂いがどちらの方が力が上か下かなどに興味を持つとは思えない。


そんな事を考えていると、扉が開いてエルヴァンが入ってきたのに驚く。

彼のあとにシェイドと何故かげっそりして疲れ果てているメフィストフェレスが続いた。


「やあやあ!フィア、無事で何より!」

「うん、ありがと……」

「それにしても初の魔界だよ、魔界!息を吸い込むたびに瘴気で胸が焼け付くような感覚がなかなか面白いね」


エルヴァンの言葉にフィアレインとシェイドが思わず顔を見合わせる。

胸が焼け付く感覚など自分たちにはないのだ。

二人の様子にエルヴァンが首を傾げた。


「あれ?もしかして……君たちは平気なの?」

「ええ」

「フィアもないよ」


黙っていたメフィストフェレスがため息をついて説明する。


「魔族には悪影響はありません。勇者殿はあのお方のご命令で瘴気から守る魔法をかけています。あなたはご自分で魔法をお使いください」

「冷たいなぁ、メフィスト君」

「あなた……私より力が強いくせに何を……」


自分へと何かの魔法をかけるエルヴァンを見て、何故彼がここに来たのだろうかと疑問に思いフィアレインは口を開いた。


「エルヴァン、どうして魔界にいるの?」

「うーん、そうだね。お仕事、かな」

「お仕事って?」


フィアレインはエルヴァンの言っている意味がわからずに問い返す。魔界にエルヴァンの仕事があるとは思えない。


「フィア、魔力欠乏症になったんでしょ?その特効薬つくりにきたんだよ」

「特効薬……そんなのがあるの?」


思わず身を乗り出してしまう。そんなものが作れるとは知らなかった。

エルヴァンはフィアレインに笑顔で頷き、口を開いた。だが彼が何かをいう前にその腕をメフィストフェレスが強く引く。


「ん?なにかな?メフィスト君」

「エルヴァン殿、あまり時間がありませんので。こうしている間にも世界は刻一刻と滅びへと向かっているのですよ。あのお方もお待ちしておりますので参りましょう」

「あー、そうだね。……じゃあ、フィア。また後でね」


エルヴァンはメフィストフェレスに引きずられるようにして部屋を出て行った。

メフィストフェレスの様子が変だったのが気にかかる。


「ねえねえ、なんかメフィストフェレス変だったね」

「へ?ああ……そうだな」

「どうしたんだろ?」


首を傾げるフィアレインにシェイドが慌てて言った。


「あー、あれだ!あいつ多分エルヴァンさんが苦手なんだよ」


シェイドの言葉に思い出す。そう言えばメフィストフェレスがエルヴァンを連れてきた時げっそりしていた。

ああいうマイペースなタイプが苦手なのかもしれない。


「シェイドもメフィストフェレスと一緒に人間界に行ったの?」

「行ったよ。と言っても大したことしてないけど……アンブラーの闇の神の神殿にちょっと顔を出したくらいだ」


ふとフィアレインはシェイドの様子もおかしいことに気づいた。話が変わってほっとしたような表情を浮かべ自分の問いに答えたからだ。

怪訝そうな表情を自分は浮かべていたのかもしれない。

シェイドは慌ててメフィストフェレスと共に人間界へと行った朝方の話を続ける。


「向こうは……まあ特に変わりない感じだ。闇の大陸にもエルフの出来損ないが結構現れたらしいんだが……エルヴァンさんの研究材料にされてた……」

「研究材料?」

「うーん。ほらあいつらさ、個体毎に微妙に違うだろ?翼みたいな腕だったり、下半身溶けてたり、魚みたいに尾ビレあるやつもいれば、四つん這いで獣みたいに走るやつもいるし……。エルヴァンさんは『フレイの前衛的な感性が滲み出てるね。凡人の私にはとても思いつかない生命体だ』って言ってた。それでまあ……奴らを捕まえて色々調べてたよ。挙げ句の果てには、調べ終わった奴を標本にしてずらっと並べててさ……異様な光景だった」


フィアレインはその光景を想像して身震いした。ついでにエルヴァンが嬉々としてエルフの出来損ないを追っかけている姿も想像する。

恐ろしい。やっぱりあれは危険エルフだ。

シェイドはそんなフィアレインの様子を見て少し笑った。


「あとグレンは今人間界の方にいる。昨日言ったけど、エルヴァンさんが声をかけてくれたエルフたちがグレンの故郷のハーフエルフの村に集まってくれてるから。彼らと村のハーフエルフ達でアルフヘイムへどうやって攻め込むか決めてる」

「そうなんだ」

「ああ、でも思ったより多くエルフ達が参加してくれることになって安心したよ」


シェイドの言葉に頷いた。

もはや世界の存亡がかかっているのだ。自分は関係ないとは言いづらいだろう。

あとは自分の回復まちと言ったところだろうか。


「早くお薬出来るといいなぁ」


思わず呟いた一言にシェイドは頷いた。どこか遠い目をして彼は言う。


「そうだな。まだ小さいお前に全部背負わせるのは心苦しい。だけど今世界中の者が……人間、天使、魔族といった種族を問わず全ての者が頼れるのはお前だけなんだ。

だから俺たちは皆一人残らずお前を支える。図々しい願いだと思うがどうかそれで許してほしい」


シェイドのまるで祈るような口ぶりに戸惑いながらもフィアレインは頷いた。



絶対安静の言葉に従いフィアレインはベッドで横になっていた。身体の怠さは相変わらずだ。

あの後シェイドは用事があるとかで部屋を出ていってしまったので、やることもなくぼんやりとして夕方まで過ごした。

そろそろ夕食かと思ったその時、扉が開きエルヴァン、ルシファー、シェイド、ミカエルの四人が入ってきた。エルヴァンの手には小さな瓶がある。

もしかして薬が出来たのかもしれない。


「起きていたか、ちょうどいい」


ルシファーがエルヴァンから瓶を受け取りベッドの側まで歩み寄った。そして瓶をフィアレインに手渡す。

瓶は透明で中が外から見える。透き通った液体が少し入っていた。何口かで飲み干せるくらいの量だ。


「これがお薬?」

「そうだ。お前も私も無尽蔵に近い魔力を持っているから、この程度では大した回復はしないと思うが……動けるようにはなるだろう。もっと作りたかったが、生憎とこれが限界だ」


フィアレインは首を横に振る。

動けるようになるだけでもじゅうぶんだ。フレイの奴は杖でタコ殴りにしてやれば良い。

それにアルフヘイムへと乗り込むのは自分一人じゃないのだから。

自分が魔法をあまり使えずとも皆が力を貸してくれる。シェイドもさっきそう言っていた。


「これ、飲んじゃっていいの?」

「大丈夫、大丈夫。ぐいっと飲んで」


エルヴァンの言葉に頷き、瓶を口元へ運ぶ。そして一気にそれをあおった。

無味無臭の液体を飲み干す。

部屋を訪れた四人が自分に注目していた。

空の瓶をベッドサイドのテーブルに置いた。

まだ特に変化を感じない。すぐに回復するものではないのだろうか。


「少し時間がかかるかも……薬って形に歪めちゃったからね。でも夜までには効果が現れるはずだよ」


歪めちゃった、と言う言葉に違和感を感じた。何を歪めたのだろう。

だがフィアレインがその疑問をぶつける前にルシファーが言った。


「明日には動けるようになるはずだ。今日は念のためゆっくり休め」


その時自分の意識へとケイオスが話しかけてきた。


『なるほど、ルシファーのやつ高位魔族を百人ほど生贄に差し出したか』


思いがけない言葉にフィアレインは凍りつく。思念で問い返せば済むものをつい口に出してしまった。


「生贄って……どういうこと?」


フィアレインの呟きでエルヴァンを除く三人が動揺したのに気づく。

ルシファーが忌々しげに舌打ちした。


「混沌の意思め、余計な真似を」


彼はケイオスがフィアレインの内に同居を始めたのを知っているらしい。何故なのかはわからないが。


「ねえ、生贄ってどういうこと?」


気まずい沈黙だけが流れる。誰も自分の問いに答えてくれない。

これはケイオスに尋ねたほうが早いかとフィアレインが思ったその時、エルヴァンが喋りはじめた。


「失われた魔力を回復するのに手っ取り早い方法、それは他者の魔力を吸収することなんだよ」

「エルヴァンさん!」


シェイドが叫び、エルヴァンを制止しようとした。

だがフィアレインはエルヴァンの説明と先ほどのケイオスの一言で薬の正体を悟る。

百人程の高位魔族を何らかの方法で魔力だけの存在へと変え、それを薬とした。そして魔力だけの存在とされた彼らは当然生きてはいられない。


「忌々しいエルフめ!あえてお前を呼び、薬という形へ変えた意味がなくなっただろう!」


ミカエルがエルヴァンを睨み、鋭く言い放った。

おそらく彼らは用意された者たちをフィアレインが喰わないと思い、形を変えることにしたのだろう。そしてその為にエルヴァンを呼び出した。

そういえば朝のメフィストフェレスもシェイドも様子がおかしかったではないか。

彼らは世界を救う為に、百人の高位魔族の命を引き換えとしたのだ。そしてそれは動くことすらままならないフィアレインを救う為でもあるのだ。

百人の魔力、百人の命。

その言葉が重くのしかかってくるのを感じた。


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