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勇者との出会い2

フィアレインとシェイドは開けた場所に出た。

その場に広がる光景に言葉を失う。

そこには、人間や森の獣だけでなくハルピュイアまでもが食い散らかされ、死骸で溢れていた。

さらにそこに何かの生き物の排泄物のようなものまで撒き散らされている。

死臭と混じり、吐き気を催すような酷い臭いだ。

思わずフィアレインは手のひらで口元を覆う。

シェイドが顔をしかめながら周りを見渡した。


「さっきから酷い臭いがすると思ってたが、これか……。

あれは?」


所々に散乱する白い丸い物体を指差す。


「たぶんハルピュイアの……」

「卵か?」

「分からないけど」


そもそも今までハルピュイアは成長した姿でしか目撃されなかった。

まして全てが上半身が人間の女性のような姿である。

性別があるとしても全て雌であると思われてたし、有性生殖するとは誰も考えなかった。

魔界で破壊の神や魔王達に創造されているのだろう程度しか考えられなかったのだ。


フィアレインは死体の山の中央部分の上空を眺めていた。

何かある。

何も見えないが、何かがそこに存在するのを感じる。

シェイドもそれに気づいたようで、空を睨んでいる。

何もない空間が僅かに歪む。

先ほどから感じていた嫌な気配が強まり、背筋が寒くなる。

冷や汗が流れた。

さらに空間の歪みが強くなり瘴気を撒き散らしながら、空の一部が黒く渦巻き、その中央から何かが現れる気配がした。

シェイドは反射的に剣を構える。

フィアレインは咄嗟に自分とシェイドに二つの魔法をかけた。

一つは防御魔法。物理攻撃と魔法攻撃、そのどちらへも耐性を上げる、毒の攻撃や麻痺なども防ぐ魔法である。

もう一つは身体能力をあげる補助魔法で、動く速さや攻撃力を上げる魔法だった。


身構える二人の前に現れたのは巨大な女の顔。

成人男性としては高い部類に入るシェイドの身長と変わらぬほどの大きさの顔であった。

真っ赤な瞳に縦の瞳孔、ヌラヌラと光る真紅の唇を開けば鋭い牙が並んでいる。

人間の女の顔に似ていて、だがしかし全く違う異形のものだ。

二人は瞬時に察した。


これはハルピュイアだと。


ここに転がる死体を作った元凶であり、転がっている卵の産みの親。

クィーンハルピュイアとでも呼ぶべき存在に違いない。


クィーンハルピュイアは空間の歪みを無理にこじ開けながら、こちら側に出てきた。

全身が現れる。

その巨大さに見上げる他ない。

クィーンは二人に向けて歪んだ笑みを浮かべ、身の毛がよだつ様な叫びをあげた。

全ての生命を不快にさせるような絶叫に、凍りつくのを堪えた。

二人は攻撃に移る。

だが相手は巨大なクィーンだけではなかった。

先ほどのクィーンの叫びで、その場に転がっていた大量の卵が孵化をし、ハルピュイア達が舞い上がる。

まるで悪夢のような光景だ。



シェイドは剣を振るい、背後からフィアレインが魔法で援護する。

ハルピュイア達は鋭い牙や爪で襲いかかっては、また羽ばたき上空に戻るのを繰り返している。

クィーンにも未だ致命的なダメージは与えられていない。

上空から引き摺り下ろすためにフィアレインは中レベル程度の雷撃をクィーン達に撃つ。

絶え間なく撃ち続けるにはこのレベルの威力までで限界だ。

とは言え少しでも攻撃力を高める為に聖属性を付加している。

ハルピュイア程度なら一、二度当たれば消せる。

だがクィーンへはあまり効いている気配がない。

雷撃で地上に叩きつけられたクィーンをシェイドの斬撃が襲う。

クィーンは血しぶきをあげながら再度舞い上がり、怒りの顔を歪ませて、再度叫んだ。

己の目の前を羽ばたいて横切ろうとしたハルピュイアを、その鋭い牙で噛みちぎる。

憐れなハルピュイアの上半身はクィーンにバリバリと音をたてて咀嚼され、下半身はボトリと地上に落ちた。

どうやらこのクィーンは我が子でも食す悪食のようだ。

咀嚼していたハルピュイアを飲み込むや否や、クィーンはシェイドに向かい猛スピードで舞い降りてきた。

クィーンの牙がシェイドの剣にぶつかり、甲高い音を立てて、剣が折れた。


「このっ……安物のなまくらがっ……!」


悪態をつきながらも咄嗟に剣の柄から手を放し、クィーンの攻撃から回避する。

横に飛ぶことで攻撃は回避できたが、もはや武器がない。


何で勇者の使ってる剣が安物のなまくらなんだと激しく突っ込みを入れたかったが、今はそれどころではないのだ。

こうなったからには攻撃魔法で仕留める他ない。

だがシェイドだけでなく自分も敵と認識されている今、大技を発動させる時間を稼ぐのは難しい。

その時、また空間の歪みを感じた。

見ると先ほどクィーンが現れて消えた空間の歪みがまた現れ始めている。

黒く渦巻くそれを見て、策を思いついた。


「シェイド!風の攻撃魔法使える?」

「使えるがアイツを殺れる程の威力はないぞ!」


舞い降りてくるハルピュイアを躱しつつ、シェイドが叫ぶ。


「いいの!アイツをあの空間の歪みに突っ込める位の威力で……アイツが向こうに消えたら、わたしが空間の歪みを完全に閉じるから」

「了解。思いっきり吹っ飛ばしてやるよ……消えろ!」


シェイドが風の攻撃魔法をクィーンに向けて放った。

叫び声をあげクィーンの半身が空間の歪みに消える。

怒りに顔を歪ませて再びこちら側に出てこようとするクィーンに、もう一度シェイドの魔法が放たれた。

怨嗟の叫びをあげながらクィーンが完全に歪みの中に消える。

フィアレインは空間の歪みを魔法で封じ始めた。

無防備になったフィアレインに向けて残されたハルピュイア達が襲いかかってくる。

だが攻撃が届く前に、シェイドの火炎魔法でことごとく焼き尽くされた。


空間の歪みを閉じ終えた時には、残っていたハルピュイアは全て倒されていた。

二人揃って思わず座り込む。

ふとシェイドが気づいて、フィアレインに問いかける。


「ここの空間の歪みはまたさっきみたいに開くのか?」

「ううん。綻んでた部分を完全に封じたから大丈夫」

「そうか……あの先は、やっぱり魔界に繋がってるのか?」

「うん、間違いないと思う。

元々ここの空間の歪みは普通のハルピュイアが通れる程度の大きさだったんじゃないかな」

「それが何らかの理由で歪みが大きくなって、あのデカブツまで来るようになったと。

でもなんで奴は向こうとこっちを行き来してたんだろうな」

「多分……あれだけ大きくて力があると、瘴気の強い魔界の方が暮らしやすいんだと思う」

「そうか……」


シェイドは立ち上がり、フィアレインの手をつかんで立たせた。


「とりあえず一件落着だし、場所移動するか。

ここは臭いが酷すぎる」


二人は地獄のような光景に背中を向け、山道のある方向へ歩き始めた。


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