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あるハーフエルフの生涯  作者: 魔法使い
蠢く者たち
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エルフの遺跡 1

とりあえずフィアレインの問題は片付いたらしく、話題は別のものへと移る。


「そういえばさ。君たちこの大陸じゃまだケセド王国くらいしかまわってないんでしょ?

それなのに良い訳?他の大陸に行っちゃって。

別にセフィロトの花はもののついでで良いって言ってなかったっけ」


グレンの問いにシェイドは何とも言えない渋い顔になった。

そして何かを言おうとしては止めを繰り返す。

その様子を見て苦笑混じりにルクスが助け舟をだした。


「はっきり言った方が良いぞ、シェイド殿。

火と水の両教団から厄介払いされたと」

「厄介払い?」


魔と戦うのも役割な教団が勇者を厄介払いと言うのは何とも不思議な話だ。


「そう。私がシェイド殿について旅をしていることに両教団とも警戒してな。

闇の神の教団が勇者に僧兵をつけてないのを良い事に光の神の教団が人を同行させ、その実績に食い込もうとしていると」


なるほどね、とグレンは頷いた。


「だから他の国へは教団が派兵し治安を守ると言われてしまったんだよ。

それも二つの教団がまるで打ち合わせでもしたかのようにな」

「まあ仕方あるまい。今回の王都が消えた一件でもどちらが国内の舵取りをするか牽制しあっている始末。

他の国も抑えておきたいのだろう」

「それ考えると光の大陸は光の神の教団で一枚岩だから、まだマシだよね」


フィアレインは神と言うのは権力がよほど好きなのかと納得した。

エルフもそうなのかもしれない。

おたがいに創世して間もなくの頃はいがみ合っていた位である。

それにしてもベッドでころころ転がっていると眠たくなる。

さっき食べたからだろうか。


「フィア、今寝るなよ。お前の夕飯食べるからな」


シェイドの一言に勢いよく起き上がった。ひもじい思いで深夜目が覚めるのはごめんだ。

カラフルなパッチワークのベッドカバーの上に座り直す。


「そういえば船は見つかったの?」


フィアレインの問いにシェイドは首を振った。


「それがなぁ。すぐに出る船が無いんだよ。

王都の一件がこんなとこまで響いてるとはね」


シェイドの言葉にグレンが怪訝な顔をした。


「全くって事ないでしょ?闇の大陸側から来る船だってあるんだからさ」

「シェイド殿、はっきり言った方が良いぞ。帆船はあるが魔法船はなかったと」


三人から凝視され慌ててシェイドが目を逸らした。


「魔法船?確かに魔法船のが速いけど、ないなら帆船でいいんじゃない?

次の魔法船待ってる間に向こうの大陸に着くかもしれないし」


何も知らないグレンの言葉にフィアレインとルクスは噴き出した。

船酔いの激しいシェイドはたとえ待つことにしても短い日数で着く魔法船に乗りたいのだろう。


「俺は船酔いが酷いんだ」

「船酔いって……」


あきれ返るグレンにきっぱりとシェイドは言い切る。


「絶対に帆船には乗らない」


どうやら断固たる意志をもって帆船での船旅を拒否するつもりらしい。


「まあ、そこまで言うんだったら仕方ないけどさ」

「出港までどうされるつもりだ?」

「それは夕食でも食べながら決めよう」


シェイドは立ち上がる。

窓の外はもう陽も沈んで暗くなっている。

フィアレインも立ち上がり、部屋を出て行く仲間の後を追う。

廊下に出ると既に階下の食堂から人の話し声が聞こえ、食べ物の香りも漂ってきた。

そんなに大きな宿ではないが食事時であり、食堂は混み合っている。

出入り口に一番近い一席が空いていたのでそこに四人は腰掛けた。

あっという間に魚介と細かく刻んだ野菜のスープや焼き魚といった料理が並べられる。


「特に何もないなら、この近くにあるエルフの遺跡にでも行かない?」


念入りにスープをかき混ぜ、目を皿のようにして嫌いな野菜がないか確認した。

野菜を小さく刻みすぎだ。これでは他の人の皿に放り込めない。

フィアレインは眉をひそめる。

とりあえず焼き魚からにしよう。


「エルフの遺跡?行くのは構わないが、どうせ冒険者連中に散々漁り尽くされた後で何もないんじゃないか?」

「そう思うよねぇ。ところがこれが入り口が魔法で封じられてて、誰も開けられないんだよ」


魚の骨を取ることからはじめる。


「誰も開けられないなら行っても意味がないのでないか?」

「フィア、ちゃんと野菜も食べろよ」


うんうんと適当に頷いて流し、魚の小骨を取る。


「いやいや。フィアなら開けられるかな、と思ってさ」

「確かにその可能性はあるな。んじゃ、行ってみるか。どれくらいの距離なんだ?」

「一日くらいだね」

「じゃあ明日行くか。そうだ!フィアに滑り止め付きのグローブ買わないとな」


骨が綺麗になくなり、ほぐし終わった身を口に運ぶ。頑張ったかいがあって美味しい。

ふと顔をあげる。三人が自分に注目していた。

意味が分からず三人を見まわす。


「フィア、全然聞いてないよね」

「まあ……いつもの事であろう」

「とりあえず野菜も食べろ」


どうやら自分が魚と格闘している間に何やら話していたらしい。ちなみに野菜は食べたくないので聞かなかったことにする。


「わかった」


何の話か分からないがとりあえず頷き、淡泊な白身魚をこってりしたソースに絡めて食べた。




***

翌日一行は朝からグレンの言うエルフの閉ざされた遺跡とやらに向かった。

街道を進み、途中小道へと折れ樹々が茂る中を進む。

どんなに手を尽くしても入れぬ遺跡に挑むものは少ない。

遺跡への小道も最近人が通った気配はほとんどなかった。

進みながらグレンは語る。


「むかしっから一部じゃ有名な遺跡だよ。

どんな手段でも開けない。だから凄いお宝があるんだろうって魔法研究都市から有名な魔法使い連れてきた奴らもいた」

「でも誰も開けなかった、か」

「そう。もしかしたらまだエルフが使ってる施設だったりしてね」


フィアレインは落ち着かない気分となった。

あまり行きたくない。何故かわからないけど。

だがその願いも虚しく、樹々のあいだに遺跡と思われる建物が見えてきた。

遺跡を照らす血のような赤い夕日にフィアレインは背筋が寒くなった。

しばらく道を進むと、広い場所へと出る。

遺跡とやらは真近でみるとかなり大きな建物だ。正面中央に立派な扉がある以外、他に入り口や窓も存在しない。


「とりあえず今日は休んで、明日の朝から活動しよう」


シェイドの提案で一行はその場で野営をするとこになった。

まわりには魔物の気配も全くない。だがこの嫌な空気はなんだろう。

仲間たちは何も感じていないようだ。

楽しげに会話し食事をとる仲間たちの声をぼんやりと聞きながら食事をし、先に眠った。



朝になり、四人は扉の前に立っていた。

確かに魔法で封じられているようだ。

フィアレインは歩み寄り、重厚な扉に手を触れる。簡単には開かないだろう。

ふと閃いた。これはあの聖なる呪文を使うときだ。

息を吸い、扉に向う。


「開け、ゴ……」

「ちょっと待った!」


フィアレインが叫ぶ前に背後からシェイドが制止した。

何だろう。

思わず彼を振り返る。


「フィア、それは聖書に書かれた人間たちの扉を開ける手段だろ?

エルフの扉は開けないと思うぞ」


シェイドの指摘にフィアレインは少し考え、もっともだと頷く。

やはり種族が違えば神聖な呪文も違うだろう。だが残念なことに自分はエルフのそれを知らない。

これは自力でこの扉の魔法の施錠を解かねばならない。

またそっと扉に手を当て、そこに施された魔法の構造を読み取る。

かなり複雑だ。施錠だけでなく他の魔法も複雑に絡み合っている。簡単には解錠させぬために。

これは魔法で扉を燃やした方が早いかもしれないと一瞬思ったが、攻撃魔法を防ぐ魔法までご丁寧にかけてあった。

ならば方法は一つである。


「みんな下がって」


背後の仲間へと告げる。


「わかった」


仲間たちが扉から離れていく。

フィアレインも扉から離れた。

三人が自分を見守っている。

フィアレインは自分と扉の距離を確認した。これならば問題ない。

そして勢い良く扉へと向かい駆ける。扉が目前へと迫る。

その勢いのまま地を蹴り固く閉ざされた扉へと飛び蹴りをお見舞いする。

足に衝撃が伝わった。


「飛び蹴りかよ!って、扉が……!」


扉に亀裂が入り、徐々に広がる。そしてそこから扉が壊れ崩壊する。

慌てたフィアレインは仲間を振り返り手招きする。

人が入れる位の穴はあいた。だが扉にかけられた魔法で瞬く間に修復されるだろう。

案の定、一行が穴をくぐり抜け遺跡の中へと駆け込んで間もなく床がわずかに振動するような大きな音を立て扉が修復し閉じる。

完全に元に戻った扉を見つめ、グレンが呆れたように言った。


「フィアなら開けられるかもとは思ったけど……まさかこんな開け方するとはね……」

「ただの飛び蹴りじゃないだろ?魔法も使ったよな?」


シェイドに聞かれフィアレインは頷いた。

確かに魔法だけで開けようと思えば開けられた。ただかなり時間はかかっただろう。

あらゆる種類の魔法の干渉を拒絶するように魔法の構成が組まれていたのだ。

だが逆に魔法以外での干渉へは無防備であった。

だから飛び蹴りで扉の一部に損傷を与え、魔法が綻びたそこから魔力でこじ開けたのだ。

修復の魔法が作動するまでの限られた時間しか意味はないが、出入りに問題はない。


「今まで力でこじ開けようとした者はおらぬのか?」


ルクスの問いにグレンは笑った。


「いたけどさぁ。どんなに力を合わせても無理だったんだよ。

って、フィアさぁ……怪力すぎでしょ?」


怪力もなにも自分は元からこうなので分からない。

首を傾げるフィアレインの肩をシェイドが笑いながら叩く。


「まあ、入れたから良しとしよう。進むぞ」


フィアレインを除く三人があるき始める。

通路は広すぎる程広く、魔法の灯りがともされ明るい。

フィアレインは視線の先にある白い影が動いたのを見て叫んだ。


「危ない!」


先を歩いていた三人がとっさに襲いかかってきた白い影をかわす。

体勢を立て直し武器を抜いた彼ら三人の前で白い影はゆらゆらと揺れ徐々にその姿を変えていく。

白い影は巨大な狼へと変わった。その大きな口はフィアレインなど一飲み出来そうだ。


「魔物か?」


剣を構えながら言ったシェイドの言葉をグレンが否定する。


「違う、エルフが番人として作った化け物だよ!」


目の前の巨大な狼は灰色の毛並みに金色の瞳だ。それに魔の気配はしない。

エルフが己の魔力で作り出した魔法生物だ。

フィアレインはこれの名を知っていた。


「魔法生物フェンリルだよ」


そのフィアレインのつぶやきに答えたのは仲間ではない。

目の前のフェンリルだった。


「その通り。ここに許可なく立ち入った者は何人たりとも生きては帰さん。お前たちもここで死ぬがいい」


フェンリルは尋常ならざる速度で駆け出した。そしてシェイドめがけて飛びかかる。

シェイドはそれをギリギリでかわし、フェンリルの喉笛へと剣を突き込んだ。

それを引き抜くと同時にフィアレインの放った魔属性の消滅魔法がフェンリルを襲う。

フェンリルは漆黒の魔に包まれその身体を崩壊させていった。

だがそれで終わりではなかった。

いつのまにやら周囲を複数のフェンリルに囲まれている。

瞬く間に現れたそれは四人を囲みじりじりと迫ってきた。


「どこからわいて来たのだ、これは……」

「さあ?侵入者を排除するまで延々と現れるんじゃない?」

「キリがないな」


四人は背中あわせになり、それぞれ武器をフェンリル達へとむける。

遺跡の守護者たちは一斉に飛びかかって来た。

フィアレインは思い切り杖を振りかぶり飛びかかって来たフェンリルへを殴りつけ、吹き飛んだそれと新たに飛びかかってきた一体へ魔属性の漆黒の槍を放った。

血しぶきをあげながら二体は倒れ動かなくなる。

魔法生物でも血がでるのか、と場違いな感心をした。

その時シェイドが悲痛な叫びをあげた。


「俺の剣が!」


金属が折れる音が石造りの通路へと響き渡る。

見ればシェイドの剣がフェンリルに咥えられへし折られていた。


「何で君はこんな時にそんな運の悪さを発揮するんだよ!」

「シェイド殿!神の加護を一体どこへ忘れてこられたのだ!」

「くそ!神などこの世にいるものか!」


しかも四人の中で一番多くのフェンリルににじりよられている。

さらっと神を否定したシェイドへフィアレインはとっさに叫んだ。


「シェイド!フィアの杖を……!」


自分は魔法が得意だから大丈夫だ。それに最悪武器を持つ三人に囲んでもらえばいい。

だが、シェイドはきっぱりとそれを拒絶した。


「いや、いい!」


思わぬ彼の拒絶にフィアレインだけでなくルクスとグレンも何も言えない。

シェイドは向かって来たフェンリルの一体を魔法でなぎ払って言った。


「剣などなくとも俺が勇者であるということを証明してやろう!」


何か変だ。シェイドの目が据わっている。


「ちょ……君、大丈夫?」

「シェイド殿、やけになるのは良くないぞ」


二人の突っ込みを笑い飛ばし、シェイドは高らかに宣言した。


「どのような事があろうとも決して折れる事のない勇者の挫けぬ心をこの犬っころ共に見せてやろう!

どこからでもかかって来い!」

今週も拙著を読んで下さった方、お気に入り登録、評価を下さった方にお礼申し上げます。

明日は本編と魔界編の番外編を更新予定です。

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