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あるハーフエルフの生涯  作者: 魔法使い
蠢く者たち
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消えた王都

砂漠の国ことケセド王国王都が忽然と消えた、という噂を聞いて数日。

一行は砂漠を越え王都があった場所へと辿り着いた。

ここに至るまでに立ち寄った集落でも既にその話は噂となっており、オアシス都市で話を聞いた旅人の勘違いと断言することが出来ない状況であった。


「教団の連中はまだ来てないんだな」


一面に広がる赤土の大地。低木がところどころ生えている。

シェイドは人どころか建物すら見当たらない地を見渡した。

この大陸は火の神の教団と水の神の教団が主流である。当然王都にもそれなりの規模の神殿をそれぞれ持っていたはずだ。

何かあれば彼等の調査隊が訪れ調べることだろう。


「もしかしたら既に来て調査した後かも知れぬ」


ルクスの言葉にグレンは頷く。


「だよねぇ。イグニートは近いし。水の神の教団の本拠地、何て所だっけ?ま、いいか。そこもそんな遠くないよね」

「来たとしても、これだけ何も残されてなきゃ手掛かりなしで帰るしかないよな……」


一行も状況を確認せねばと訪れたが、ここまで何も残っていなければ打つ手立てもない。

全員であれこれ話し合ったものの、これという策も思い浮かばなかった。


「とりあえずここでこれ以上考えても仕方ない。少し休憩して移動しよう」

「シェイド殿、どこへ向かうつもりだ?」

「とりあえずイグニート。火の神の大神殿で最近何か変わったことなかったか、何か情報持ってないか聞こうかと」


四人はとりあえず休憩を取る事にした。

何本か生えている低木にそれぞれもたれかかって座り飲み物を飲む。なるべく早く到着すべく急ぎ移動して来たから皆疲れていた。

フィアレインを除く三人はイグニートへの経路を相談しあっている。その時フィアレインは離れたところに生えている低木の木陰に人影を見た。

その人影の正体にうんざりしてしまった。何故ここにいるのか。

片方はメフィストフェレスである、もう片方は知らない魔族であった。

今回の王都が消えた事件に彼らは関係してるのだろうか。王都一つまるごと消すなど、その辺の魔物に出来る事ではない。

思わずフィアレインは立ち上がる。

突如立ち上がったフィアレインに話をしていた三人は話を中断する。三人はまだ二人の魔族に気付いてない。

そう言えばあの二人はいつからいたのだろう。当然向こうはこちらに気付いているだろうが。


「どうした?」


座った状態で怪訝そうに見上げてくるシェイドにメフィストフェレス達がいる木陰を指差して見せる。

過去二回遭遇しているが、そのどちらもろくでもない厄介な記憶でしかない。

そんな嫌な記憶を呼び覚ます魔族の存在にシェイドとルクスは凍りつく。メフィストフェレスを知らないグレンは一人意味がわからず


「え、何?」


とそちらを覗き込んで、そこにいる二人の正体を見極めようとしていた。

二人の魔族は何やら真剣そうな顔で話し合っている。こちらの事などお構いなしだ。

フィアレインは少し悩んだが、決めた。もしかしたら彼らは何か知ってるかもしれない。

このまま何の収穫もなくイグニートとやらに行くよりも、何か知らないか聞いてみたほうがいい気がする。


「フィア、ちょっと聞いてくる。あの二人何か知ってるかも」


シェイドは慌てて立ち上がった。歩くのが面倒だったので転移しようとしたフィアレインの腕を掴む。


「一人で行く気か?」

「うん。平気」


ちゃんとお使いくらい出来るのだ。

だがシェイドは何やら渋い顔をしている。

もしやこれはあれか。メフィストフェレスがなんぱしてきた変質者であるからか。

だがシェイドは言った。


「うーん……フィアは人の話を聞き流すことが多いからな……」

「確かに。誰か一緒に行った方が良かろう」


シェイドの発言に同意するルクス、知り合ったばかりのグレンまで頷いている。

少し落ち込んでしまう。まだ自分には単独のお使いは早いと言うことか……。

大人への道はなんと遠いことか。もっともエルフ基準での大人になるまで、あと百九十四年の時が自分には必要である。


「とりあえず俺が一緒に行ってくる」

「だから、あいつら何なのさ?君たち知り合い?」

「ルクス、説明頼む」


ルクスは頷き返し、もう一度二人の魔族に視線をやった。

まだ魔族二人は何か話してる。


「だが、シェイド殿。もし事情を聞き、奴等がこの事態の元凶だったならばどうする気なのだ?」

「そこなんだよなぁ。まあとりあえず平和的解決を試みるよ」


魔族相手に平和的解決と言うのも何だかおかしな話だが他に手段がない。

負け戦を挑むなど愚かの極みだろう。

シェイド殿は楽観的すぎる、とルクスはぼやいた。

シェイドはそれを聞こえないふりでやり過ごし、フィアレインを促した。


「んじゃ、行くか」


すぐに転移を開始する。

メフィストフェレスと知らない魔族のすぐそばに二人は現れた。

転移してくる気配を感じたのだろうか。二人は話を中断し、現れたフィアレイン達を見た。


「これはこれはご機嫌よう。あなた方からこちらに近づいてくるとは」


メフィストフェレスが二人に一礼する。その様子を見たもう一人の魔族がメフィストフェレスに尋ねた。


「メフィスト、こいつらは?」


その魔族は灰色の長い髪を後ろで適当に縛り、メフィストフェレス同様に真っ黒な服を着ている男だ。


「そちらが勇者殿。こっちは例の娘ですよ」


ああ、と灰色の髪の魔族は頷く。


「俺はルキフグスロフォカルス」

「長っ!」


思わず叫んだフィアレインをルキフグスロフォカルスは睨んだ。


「あ……あのお方と同じ事を……」

「ちなみに私もその娘に同じ反応をされてますよ。ルキフグス」

「だって本当に長いんだもん……」


実を言うと自分の名前すら長いと思っているフィアレインである。

あんまり長い名前は舌を噛みそうだ。

それを言おうとしたフィアレインにメフィストフェレスは何やら服の懐から取り出して渡した。

冷んやりと冷たい四角い何かである。


「娘、あなたはそれでも食べていなさい。あなたが話に入るとややこしい。

ちゃんと包み紙を取るのですよ。そう、それで宜しい」


フィアレインはメフィストフェレスに渡されたそれを言われた通り包み紙とやらを取り、中身を見つめる。

その茶色の板状の食べ物には見覚えがある。

魔女の家で自分が気に入った菓子だ。間違いない。すぐさま齧りついた。


「お前何でそんな菓子なんか持ち歩いてるんだ?

幼体を手なずける趣味があったとは知らなかったぞ」

「ルキフグス、誤解がないよう言っておきますが……これはあのお方が一番好まれる菓子です。

私が常に携帯していてもおかしくはないでしょう」


メフィストフェレスは、なるほどなと納得するルキフグスロフォカルスからシェイドに向き直る。


「それで?勇者殿は我々にどういったご用件でしょうか?」

「突然消えた王都のことだ。ここにアンタ達がいるってことは、何か知ってるのか?

これは……アンタ達の仕業なのか?」

「生憎と違いますね。我々はあのお方に命じられて調査にきたまで」


あっさりと否定したメフィストフェレスにシェイドは疑いのこもった眼差しを向ける。

いつも何かと勿体ぶるメフィストフェレスである。その彼がすんなり答えてくれたのが意外なのだ。

さあどうでしょうね、などと言われる覚悟はしていたのである。


「疑うのは時間の無駄だぞ。本当に俺たちは関係ない」

「じゃあ誰が……」

「誰が、か。難しい話だな」

「そうですね。例えばですが……。

遥か昔に建てられた立派な建物があるとしますね。だけどその立派な建物も何百年、何千年経てばどうなります?

老朽化して色々と問題がでるでしょう。それが手入れをされてなければ尚更に」

「何を……」

「話は最後までお聞きなさい、勇者殿。

そしてそのあちこちボロボロになった古い家に嵐がおそったらどうなります?壊れるでしょう。

倒壊しなくても、屋根や壁に穴が空く位するかもしれない。

ボロボロの手入れされていない古い家、それはまさに今のこの人間世界そのものの事」


シェイドは何も言えず黙っていた。


「それよりも、娘。何をしているのですか?私の服のポケットを漁ったりして」


メフィストフェレスは下を向き、彼の服のポケットに手を入れてゴソゴソやっているフィアレインを呆れたように見た。


「だってもう食べ終わっちゃったんだもん」


あの菓子は美味しすぎる。まだ無いものかと探していたのである。


「もう食べ終えたのですか?早すぎでしょう。

それに人のポケットを勝手に漁るものじゃありませんよ」


説教じみた事を言いつつもメフィストフェレスは懐から更に先ほどの菓子を三つ取り出して渡す。

そんなメフィストフェレスに代わり、ルキフグスロフォカルスが黙り込むシェイドに言った。


「本来その手入れをするのは神の役目。だが神はその役割を放棄している。

もはやこの世界は崩壊するのを待つボロ家だ。

そんなところへ先日とある場所から強い力でこちらの世界へと干渉された。

それがきっかけでこの世界が歪み結果ここにあった王都とやらが巻き込まれて消えたわけだ」

「何て言うか……もはや何から聞いていいのかわかんねぇな。

でも何でそれをアンタ達が調査する?

魔界には関係ないんじゃないか?」


メフィストフェレスとルキフグスロフォカルスは目を合わせる。


「それに関しては全く無関係と言えないのと、あのお方の指示もあったからです」

「とある場所からの干渉ってのは?」

「先日、そこの娘が突然消えたでしょう?それですよ」

「あの時の……」

「消えた王都の行方は現時点では分かりませんね。どこか別の空間へ落とされたか、消滅したか……」


シェイドはルキフグスロフォカルスが別の方向を見ているのに気付いた。

正確には勇者一向が休んでいた木陰の方向だ。

つられてシェイドもそちらを見る。置いてきた二人が待ちわびたのかこちらへ向かって来ている。


「アンタたちの話だと、要はこの世界は神様に放ったらかしにされて滅びかけってことか?」

「そう言うことだな」


シェイドの問いにルキフグスロフォカルスはぞんざいに頷きメフィストフェレスの方を向く。


「メフィスト、そろそろ帰らないか?調査も終わったし、何よりここは暑すぎる」

「そうですね」

「まったく何が悲しくてこんな暑くて埃っぽいところに来なきゃいけないんだ。

あのお方に報告したら、俺はすぐにコキュートスの健康ランドに行って日替わりの湯に入る」

「あなたも好きですねぇ」

「今日はシラホネの湯なんだ!お前も岩盤浴ばかりじゃなくたまには湯にでも入れ」


メフィストフェレスは嫌そうに首を振った。


「人の趣味をとやかく言わないでください。

それに……今あのお方は城におられません。報告は直接行えませんよ」

「どちらに行かれてる?」

「ベルゼブブ様と魔界食い倒れ暴食ツアーに」


自分たちを放置して好き勝手に喋る魔族二人をシェイドは黙って見ていた。

黙り込むシェイドと先ほどから菓子をひたすら食べているフィアレインに背後からルクスが声をかける。


「シェイド殿!フィア!」


ルクスとグレンがかなり近づいて来たのを見た二人の魔族が会話を打ち切る。

そしてルキフグスロフォカルスは魔界へと空間を開いた。

漆黒の瘴気が渦を巻く。

メフィストフェレスは四人に向って丁重にお辞儀をした。


「それでは皆様、我々はこれで失礼しますね」


その言葉にシェイドがはっと我に返る。フィアレインも食べている途中の菓子から目を上げた。


「ちょっと、待て!まだ……」


シェイドの制止を無視してルキフグスロフォカルスが消える。メフィストフェレスもその後に続こうとした。

だがその背中にフィアレインが飛びつく。


「な……何です!」

「よくやった、フィア!」

「もう菓子はありませんよ!」


その一言にフィアレインはぱっと手を離し、メフィストフェレスの背中から飛び降りた。

菓子がないならこの性悪魔族に用などないのである。


「そっちかよ!」


何やら絶望感すら漂うシェイドの叫びにフィアレインは首を傾げた。

それを見て、メフィストフェレスは笑い魔界へと消える。

後から来たルクスとグレンが二人のすぐそばに辿り着く。

シェイドの様子を見て、ルクスが問いかける。


「シェイド殿、顔色が悪いぞ。どのような話だったのだ?」


シェイドはルクスの問いに答えることも出来ず、ただ黙って首を振った。

気付けばお気に入り登録と評価を頂いており、大変嬉しく思います。


お気に入り登録して下さった方、評価をして頂いた方に改めてお礼申し上げます。

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