表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/86

ウァティカヌス 3

ヒュドラの首がそれぞれ別個に動き攻撃をしかけてくる。

あるものは噛み付き、またあるものは毒の息を吐く、その首を振るい叩き潰そうとするものもいる。


後方から駆けつけた者たちにヒュドラの注意が向いた。

その巨体を揺らし突撃してくる。

後方に控えていた魔法を使える僧兵たちは攻撃魔法を放つ。

聖属性の光の槍が飛びヒュドラの胴体に深々と刺さった。

首を攻撃しないよう、あらかじめ伝えてある。

黒い血を撒き散らしながら、ヒュドラは怨嗟の叫びをあげる。

そして毒の息を一斉に吐いた。

だがその場にいる者は、あらかじめ毒を防ぐ防御魔法をかけられており、意味をなさない。

ヒュドラがまた叫ぼうとしたその時、フィアレインの爆発魔法が炸裂する。

これは聖属性と闇属性を組み合わせて作った混成魔法だ。

聖属性の爆発と闇属性の爆発が同時に起こる。

相反する属性同士の反発で、通常使う一種類の属性魔法よりも威力が上がるのだ。


魔法の衝撃で、ヒュドラが背後にあたる崖側へ押し飛ばされた。

だが、崖っぷちまではまだ距離がある。

その隙に崖側にいたシェイドがヒュドラの横をすり抜け、僧兵やフィアレインに合流した。

ヒュドラが体勢を立て直す前に、シェイドと前衛の僧兵たちがメイスを振るう。

胴体に叩きつけられる聖銀のメイス。

黒い血飛沫と叫びをあげヒュドラは首を激しく動かす。

何人かの僧兵が避けそこない、食いちぎられ、叩き潰される。

シェイドは軽やかな動きでヒュドラの攻撃を避け、タイミングを見計らいメイスを叩きつける。

後方からは聖属性の槍が絶えず飛び、ヒュドラの胴体を傷つけた。

前衛がヒュドラと接近戦を繰り広げ始めたので、フィアレインは地属性の魔法を使った。

大地からまるで空に向う氷柱のような土の槍が現れ、下からヒュドラの肉を削る。

前衛の打撃、後衛からの魔法によりヒュドラは少しずつ後退してゆく。

その間にも何人かの僧兵たちが犠牲となっていった。

首が二十ほどあるのだ。敵が二十匹いるのと同じことである。

かなり崖っぷちまでヒュドラは追い詰められていた。

フィアレインもシェイドもタイミングを見計らっていた。

いつでも発動できるように一つ魔法を準備する。

さらにもう一つ魔法の構築を始めた。

あとは最前衛のシェイドの合図と、魔法の構築の終了を待つばかりだ。

シェイドは再度激しくメイスを叩きつける。同じタイミングでルクスもメイスを振るう。

シェイドは後方で待機していたフィアレインに合図を送った。


「今だ!」


フィアレインは前衛に向かって駆けた。

既にいつでも発動できる状態であった火属性の最大魔法をヒュドラにぶつける。

ヒュドラの首三つ分はあるだろう太い火柱が天高く燃え上がった。その数五本。

その巨体全てを焼き尽くさんばかりの業火。

炎が収まると同時に、シェイドの雷属性の最大魔法が、ルクスと後方に控える僧兵の聖属性魔法の槍がヒュドラに襲いかかる。

全員からの猛攻を受けてなお、ヒュドラは崖っぷちで踏みとどまっていた。

恐らくここから墜落すれば全てが終わることを本能で悟ったのだろう。


「くそっ!粘りやがって!」


シェイドは悪態をつきながら、更にメイスを叩きつける。

本来の計画ならば崖から落とし、そこへ流星召喚魔法をお見舞いして塵も残さず消滅させる予定だった。

だがヒュドラは全身が焼け爛れ、一部の首は骨すら露わになって尚、一歩たりとてそこから動かない。

勿論ダメだった場合の作戦も考えている。

どうやらそちらに変える他なさそうだ。何としてもここで奴を仕留めなければならないのだから。

ここで流星召喚など使ったら巻き込まれる。


「シェイド!ここで……」


ここで仕留めると、作戦変更を叫ぼうとしたフィアレインに衝撃と激痛が襲う。

油断した。

いつでも発動できるように先ほどから用意しておいた流星召喚魔法。

時間をかけて構築したその魔法の魔力を別の魔法へと構築し直すことに意識を向けた、その瞬間のことだ。

フィアレインは一番外側のヒュドラの首に喰いつかれ、高く持ち上げられていた。

鋭い牙が自分の腹に食い込むのを感じる。


大丈夫、これ位では死なない。

だがこのまま噛み砕かれるか、飲み込まれるか。

ふと策を思いつく。この状態ならば可能ではないか。

既に新しい魔法の構築は完了し、いつでも発動できる。

己を咥えているヒュドラの体内に向けて、魔力を集中した。


地上ではシェイドとルクスが首の生え際を狙いメイスを振るっていた。

フィアレインは視線を動かす。

自分を咥えていたヒュドラの首の眼と視線があった。

自分と同じ赤い瞳。


次の瞬間、フィアレインはヒュドラの口から勢い良く地上へ向けて吐き出される。

このままでは地面に叩きつけられる。

だが、その前に前衛の二人に伝えねば。


「二人とも下がって!!」


シェイドとルクスは膨れ上がる魔力を察し、ヒュドラから離れるべく後方へ駆け始めた。


迫ってくる地面。

ほぼ一瞬のことがコマ送りのように感じられる。

地面に叩きつけられる前に滑り込んだシェイドに受け止められた。

後ろから駆けてきたルクスが治癒魔法を使ってくれた。

半ば自分の自然治癒力で塞がりかかっていた傷口が完全に塞がる。

その時、三人の後方で凄まじい爆発音が轟く。

体内から起こった爆発にヒュドラはその体を木っ端微塵にされていた。

爆発後も収まらぬ聖属性の炎と魔属性の炎にそのバラバラにされた肉片を焼き尽くされていた。

魔法が全て収まった後、ヒュドラの肉片の一欠片すらそこには残っていなかった。




「終わったか……」


ルクスは今まで戦場であった場所を見渡す。

生き残った僧兵はルクスを入れて僅か6人。

ルクス以外は後方から魔法攻撃をしていた者だ。

ヒュドラの首の攻撃の激しさを物語る。

あの攻撃の中、前衛でメイスを振るい続け生き残ったルクスは、やはり実力者なのだろう。


確かにヒュドラは死んだ。

だが問題はまだ残っている。

シェイドはフィアレインを見た。


「奴は突然泉の中から現れた。

空間の歪みを感じたか?」


フィアレインは首を振る。

それがさっきから気になっていた。

全くそういった物を感じさせずにヒュドラは現れた。


「転移魔法の類でもないと思う」


その答えにシェイドは俯く。

謎のヒュドラの出現。

原因を調べなければ、また表れるのではないかと考えているのだろう。

ルクスは考え込む二人をそれぞれ見つめ、提案した。


「あれは泉から現れたのだ。

泉を再度調べれば良かろう」




***

僧兵の一人は大神殿へ駆けて行った。

とりあえずヒュドラの討伐が済み、これより原因を調べる旨の報告と、死者を弔う為に。

残りのものは歩いて泉へと戻る。

もう嫌な気配は感じなかったからだ。


泉の畔に立った。

シェイドが泉を覗き込む。

透き通っているからこそ深さを測りにくい泉だ。


「この底にヒュドラの巣に通じる抜け道があるとか、ないよなぁ」


それこそ本当に聖なる泉の名を返上せねばならないだろう、とフィアレインは思ったが黙っていた。

まわりには僧兵たちがいるのだから。

シェイドと同じように泉を覗き込む。


「落ちないよう、気をつけるがいい。魔法使い殿」


と、ルクスが心配そうに声をかけて来た。

ほんの微弱だが何か感じられる。

フィアレインはその微弱な反応を読み取ろうと集中した。

泉の底に何かがある。

空間の歪みとも違う。魔の気配とも違う。

ほんのわずかな魔力。


「シェイド、集中してみて。

何かが底にあるみたい」


シェイドが驚き、身を乗りだした。

集中し魔力を探っているようだ。


「何だろう?確かに何かあるな。

何か分かるか?」

「んー魔道具かなぁ。たぶん」

「潜って取るか?

てかこの泉、どれ位深いんだ?」

「正確な深さは分からんが、容易く潜れるものでないのは確かだ」

「潜らなくても平気。

魔力で引き寄せてみる」

「大丈夫か?」

「わかんない。

また何か出てくるかもだし」

「またヒュドラとご対面は勘弁してもらいたいな」


泉の中へ手を入れる。魔力を込め、底に沈む何かを引き寄せる。

ほど無くして、フィアレインの手の中に小さな石が収まった。

泉から手を出し、覗き込むシェイドとルクスに見せる。

血のように赤く光る石、その表面にはルーン文字でびっくりと何かが刻まれている。


「何だ……これは?」


フィアレインはかつてヴェルンドに教わった知識を記憶の中から引っ張り出した。


「魔封石。あのヒュドラがこの中に封じられてたみたい」

「じゃあ冗談抜きで、あのヒュドラはここに住んでたのか」

「しかもこれ……あのヒュドラの意思で出入り出来るみたい」

「何故そのような物がこの聖なる泉の中に……」

「誰かが入れたんだろ?それもあいつが出没するようになったここ一年に」


もし誰かが悪意を持ってこれを放り込んだとすれば。

その誰かとは?


「ここは、聖職者しか入れぬのだが」


ルクスの言葉に皆が押し黙る。

重い沈黙を破り、シェイドが口を開く。


「確かにここは聖職者しか来れないと言われてるが……。

それは絶対ではないだろ。

そこの道は麓に繋がってるんだし。公表されてなくても存在を知る事は不可能じゃない。

周辺の地理を調べ上げる事を完全に防げないんだから」


ルクスは暫く考え頷いた。

フィアレインは石を地に落とす。そして炎で燃やした。

魔封石が何も残さず燃え尽きたのを見て、シェイドは全員に告げる。


「大神殿へ戻ろう」




大神殿への道をシェイドと並んで歩きながら話す。


「あれは人間の仕業だと思うか?」

「ううん」


フィアレインは首を降り否定した。

魔封石を人間が作れるとは思わない。そもそも魔封石を知ってる人間などいないのではないか。

先頭を歩くルクスの後ろ姿を見つめる。

先ほどは彼がいた為言いづらかったのだ。

これを使える可能性があるのは高位魔族かエルフのような、強い魔力を持つ者だと。

ファイナルファンタジー4のフースーヤとゴルベーザをつい思い出す。

パワーをメテオに!

いいですとも!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ