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双剣相撃つ

 (全くさあ、ここからが本当にキツイのにあいつらったらなあ)



 昼休みの間に抜けた気合いをもう一度取り戻す。準備はいいか、俺? 次に当たるのはあの得体の知れない仮面野郎だぞ。闘技場に戻り、出場者(残り四名しかいないが)が待機する場に座っていると隣のラウリオに「さっきの技、凄かったですね」と話しかけられた。



「ん? ああ、鋼砕刃(ブレイク)のことか。あんなの難しくないだろ。お前だって出来るだろうに」



「似たようなことは出来ますよ。でも、あれだけ大きな闘気を剣身に効率的に乗せてというのは無理ですね」



「その辺は経験だろうな。分かってるだろうけど、ここからは容赦なく使えよ」



 俺の言葉にラウリオが頷く。その黒褐色の目は真剣だ。俺達と反対側に座るベリダム、そしてビューローに注がれている。



 ラウリオに言ったように、実のところ闘気だけで放てる技は皆似たり寄ったりだ。武器に纏わせて攻撃力を上げる、あるいは体から闘気を発して防御力を上げるの二つしか無いと言ってもいい。

 かってワーズワースに叩きこんだ氷柱閃は、氷系攻撃呪文を上手く闘気で制御して剣に合わせた技だ。呪文が使えないこのルールでは使えない。



 だから結局のところ、似たような技がぶつかり合うことになるだろう。それでも闘気量はあくまで脇役、勝負を決める重要な要素は、技と身体能力(フィジカル)なのは間違いない。



「大番狂わせ、やって見せろよ? 今のお前ならやれるさ」



「はい」



 俺の檄にラウリオが答える。そうだな、願わくば決勝(ファイナル)はお前と競いたいもんだ。



 待機の場は闘技場に日よけの為のテントを張っただけだ。当然、オープンであり緩く風も流れてくる。それに乗って観客席からの声も、僅かに聞こえてくる。泣いても笑っても後三試合。見る側の大半は、俺とベリダムによる決勝(ファイナル)を期待しているのだろうか。



 考えまい。ここまで来るとどんな考えも邪念だ。







「それではこれより、準決勝(セミファイナル)第一試合を開始します!」



 審判の声が聞こえた。俺とビューローが立ち上がる。仮面越しに奴の視線、その圧力を感じた。ふん、精々気張るんだな。



「ウォルファート・オルレアン公爵、並びにビューロー・ストロート! 両者、闘技場の真ん中へ!」



 開戦を告げる審判の声。流石に高ぶるもんがあるな。



「行ってくるぜ」



「御武運を」



 短くラウリオと言葉を交わす。反対側ではビューローとベリダムが、何やら囁いていた。俺の攻略法でも伝授してやがるのか、辺境伯は?



「出る」



 ビューローはそれだけ言い切り、テントから離れた。俺も少し遅れて続く。




******




 対峙する。



 真っすぐにビューローを見据える。今までと同じ、左手にロングソード、右手にはダガーという装備だ。この闘技会では試合毎に武装変更が認められているが、特に変更はしないらしい。



 だが俺は獲物を変えた。盾は捨てて左手にもロングソードだ。つまりニ刀流ってわけ。



「審判、俺これで行くから。いいよな?」



「はっ、構いませんが。盾無しで宜しいのですか?」



「問題ねえ。あいつもニ刀、俺もニ刀。観客も喜ぶだろう」



 審判にニヤリと笑い、俺は二本のロングソードをぶらん、と垂らした。俺の武装変更に気がついた観客達が、ワッと盛り上がる。ニ刀流の方が派手だからねえ。



「終わった時に盾があれば、と言い訳はするなよ。ウォルファート」



「威勢がいいねえ、ビューロー。ま、獲物が何であれ強い方が勝つ。それだけのことさ」



 俺はビューローの挑発にまともに乗らなかった。意味が無い。駆け引きも含めれば、既に戦いは始まっている。

 すぅ、と審判が手を上げる。それに合わせて観客が静まる。よし、いよいよだな。







「始めっ!」



 試合開始の声を皮切りに、俺もビューローも動いた。両者共、盾を持たない攻撃力重視の装備だ。序盤から勢いに乗った方が有利だろう。それにベスト8での戦い方を見た限り、ビューローが守りに入るとは思えない。



 (だからこそ先手必勝!)



 幸いリーチは俺が上だ。体格で10センチ近く上回ることに加えて、左右両方ロングソードを装備している。これを活かさない手は無い。



 突きと払いを大振りにならないよう気をつけながら繰り出す。体勢が崩れれば、ビューローは鋭い踏み込みから懐へ潜り込んでくるだろう。対ジェナム戦からそれは想定済み。もっとも至近距離なら、ここまで見せていない手もあるがな。



「ぬっ」



「どうした! 攻め手すら見つからねえか?」



 火花散る攻防の合間を塗って、ビューローの唸り声と俺の挑発が響く。奴も分かってはいるのだろうが、俺の攻撃範囲の広さに手を焼いているのだろう。ロングソード一本なら、まだ左右に動いて的を外せる。だが二本となると、それもままならない。



 俺の右手からの斬撃を、ビューローが辛くも左手のロングソードで外に弾く。だが僅かに体勢がぶれた。そこを狙って今度は俺の左手のロングソードが閃く。何の変哲もない、ただの横切り。けど、その体勢から刃渡り20センチ程度のダガーで受けられるか?



「くううあっ!」



 ビューローの叫び声がギャリギャリギャリという金属音に絡む。野郎、ダガーの刃を斜めに立てて、攻撃の衝撃を逃がしやがった。見れば、奴の右手首がかなり無理な形に捻れている。普通はあれだけやれば手首か、あるいは肘がおかしくなるんだが。



「しいっ!」



 引くどころか、前に出やがる! 何ともないのか、こいつ。何て筋肉の柔軟性だ!?



「つっ!」



 俺の右足を狙った一撃は、それほど勢いもない。軽く防いだところで双方距離を取る。全体としては俺が優勢だ。しかし付け込ませないという点では、ビューローもよく粘っていると言えるな。



 ザワザワ......ああ、これは観客席からのどよめきか。



 さらりと俺の頬を撫でて去るのは、夏の風か。



 ほんの数秒程の睨み合いの間に感じる戦い以外の気配が。



 生きている、ということを実感させてくれるじゃないか。



「はああ......」



 深く息を吐く。吸う。ビューローはまだ動かない。奴もそろそろか? 武器だけじゃ物足りないって面、いや、仮面だから分からないか。

 けど分かるぜ。お前も俺が相手なら、闘気技の一つや二つ使う価値ありと思ってるだろ。



 俺の足元の砂がボッ! と音を立てて弾ける。髪が白銀に染まっているのが分かった。ああ、もう止められないな。半ば勝手に、俺のテンションにも火が点いちまった--



「--行くぜぇぇえっ!」



 地面を蹴る。ニ歩であっという間にトップスピードだ。表情が読めないはずの相手、だがビューローが驚愕しているのが分かった。



 戦いの流れは俺が貰う! 真っ正面からの腹を狙った右の横薙ぎ、更にそこからの左の横薙ぎと連撃。怯みながらも体捌きでかわしきるビューローに感嘆するも、今の俺はこれでは終わらない。



 白銀の闘気を込めた双剣が、まるで暴風雨のようにビューローを狙う。ありとあらゆる角度からの斬撃は、一度スピードに乗ったら止まらない。



 俺の二本の剣が甲高い金属音を生みながら、執拗にビューローを狙う。上から、下から、右から、左から。ギン、キィイン、ギャギャギャギャッ、と何とも言えない鋼と鋼の噛み合う音、それが闘技場に響いていく。



 十......いや、二十合、それもすぐに三十合以上になった。まさに鍔ぜり合いの激しい攻防だ。しかし、優勢に立つのは俺の方か。



 ビューローも闘気を武器に纏わせて、防ぎながらもこちらの隙を窺っている。いい腕だ。実際、てめえじゃなきゃとうの昔に倒れているだろうよ。どこで鍛えたのかは知らないが、お前が一流の戦士ってことだけは認めてやる!



「りゃあああっ!」



「ぐ、くぬああっ!」



 俺の左からの強引な袈裟がけが、ついにビューローの防御を突き破った。浅くではあるが、奴の脇腹を叩く。ちっ、まだこんなもんか。だが更に同じ箇所に追撃......



「と見せかけてフェイク」



 残念だったな。狙いはお前の左足さ。急激な変化で下に転じた一撃は、ビューローの視界から外れた。そのまま左の膝の上辺りをしたたかに叩く。崩れろ、ビューロー!



 だが、俺の目論みもここまでだったようだ。確かにダメージは与えていたようだが、ビューローが俺の次の一撃を思いの外しっかりと防御した。このまま押しきれる、そう思ったが踏み止まりやがったか。



「遅いんじゃねえのか。本気出すのがよ」



「ほえ面かくなよ......!」



 ギリギリと剣と剣を合わせながら、ビューローが軋むような声を絞り出した。ユラリ、とその背中から橙色の闘気が揺らめく。まるで陽炎のごとく、熱く透明に。

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