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シュレン・セイスター・オルレアン 1

 いつだったかこんな会話をしたんだ。



「ねー、シュレンはさ。大きくなったら何になりたいとか、夢ってあるの?」



 俺と同じ顔をした双子の妹は。焦げ茶色の目を俺に向けて、無邪気に聞いてきた。



「あるよ」



 そう、その時は確かに自信を持ってあるって言えた。今もそれは変わらない--けれど。



「そうなんだ。私もね、あるよ」



 俺の妹--エリーゼ・セイスター・オルレアンはそう答えて笑った。



 あの時は俺は幾つだっけ? 今よりも小さかったのは確かだけど、はっきりとは覚えてないや。

 その代わり分かったことならある。変わらない夢があっても、それを実際に叶えるのは難しいってことだ。




******




「ううん......」



「なー、お願いだよ。分かるだろ、俺やれるって」



 俺は目の前の男に頼み込む。薄い茶色の髪を少し長めに伸ばし、同じ色の瞳を閉じた長身のその男はもう一度唸った。



「素手でなあ。そりゃさあ、お前がそれに秀でてるってことは分かってる。十分に分かってるんだけどよ」



 男は俺の拳に目をやる。幾多の死線を潜り抜けてきた彼の目には、随分と頼りなく見えるのだろうか。そうかもな。いくら鍛えても拳は拳だ。鉄みたいに固いわけでもなければ、武器のようにリーチも稼げないんだから。



 けど、そんなの俺は百も承知の上で頼んでるんだよ。分かるだろ、義父さん。いや、世界を救った勇者様--ウォルファート・オルレアン。



「なあ、シュレン。やっぱ剣か槍にしとかね? お前、普通に武器使っても結構やれるんだしさ。素手で騎士になるなんて聞いたことねーし」



 あー、またかよ。またこの会話かよ。何回この話繰り返したんだよ。くっそ、イライラしてくる。

 心がヒリヒリする。それに身を任せていると、自然と声が大きくなった。



「だから俺が最初の一人になるって何回も言ってるんじゃねーか!!」



 カッとなった。

 背を向け、部屋を飛び出す。「おい、待てよ、シュレン!」という義父さんの声を扉の向こうに追いやって、俺はそのまま二階の自室へと走り込んだ。




******




 駄目だ。今日も何も進展が無かった。



 (どうすっかなあ......)



 ベッドに寝転がりながらぼんやりと考える。二年前--十歳の時にもらった自室の天井には未だ色鮮やかなクロスが貼られている。けれど俺の心中はそれとは反対にくすんだままだ。



 頭の後ろで組んでいた両手を解く。右手を顔の前に動かした。開いた手のひらには幾つものタコが出来ている。同年代と比べても大きい方だろう。俺なりに鍛えてきたから、握力や指の力にも自信はある。



 だけど。



 だけどこれじゃ駄目なのか。俺の夢--素手で戦う拳士(ナックラー)になりたいってのは、認められないってのか。



 (何でだよ。義父だって知ってるだろうによ、俺が素手で十分にやれるってのは)



 チッと舌打ち。ベッドから跳ね起きて、もう暗くなった窓を見た。磨き込まれた窓ガラスはそれを覗く一人の少年を映す。ちょい短めの黒い髪の下には、気の強そうな黒い目がある顔、それが俺を睨んでいた。顎が気持ち細めな分、豪胆さは感じられない。ま、そんな顔が今の俺の顔って奴だ。にしても我ながら不機嫌そうな面してんな。



 ハア、と一つため息をつく。腹を撫でると途端に空腹を感じた。拗ねて夕飯も食わずに部屋にこもってみたけれど、十二歳の男子の体は当たり前みたいに飯を要求してくる。



 うう、ここで屈するのは嫌だが......まさに背に腹は変えられないか? けどノコノコ出ていったら「ほら、腹が減れば出てくるって言ったろ? おーい、シュレン、一緒に食べよーぜ」などと義父さんに能天気に言われ、またうやむやにされるだろう。セラも「お腹空いてるからイライラするんですよ」と笑うに違いない。



「 くっそ、いつまでも子供扱いしやがって」



 ギリ、と歯を軋らせる。覚悟を固めるようにベッドに座り、自分の膝を抱え込んだ。ここで根性見せたら俺の気持ちが、真剣に考えていることが伝わるだろうかと根拠も無く思う。思い込むことにする。けれど。



 グキュルルルと情けない音を立てて、俺の胃袋が白旗を上げろと訴えかけてきた。うお、やっぱ飯抜きってキツイな。体が食料を欲する音に、さっきの俺の決意が容易く折れそうになる。それを鉄の意志で立て直そうと試み、気を紛らわせようと枕に顔を埋めた。



 だけど、そんなことで空腹が紛れるなら苦労はしない。十分ほどじたばたした挙げ句、いやいやながら部屋を出ようかと心を折りかけた時だった。



「シュレン、いるー? はい、差し入れ」



 聞き慣れた声と共に、部屋の扉が薄く開いた。差し込む明かりに、銀の盆とそこに載せられた湯気の立つ深皿が浮き上がる。思わず腰が浮いたのはやむを得ないだろ。そんだけ空腹だったんだ。



「......わりい」



「どーせ意地っ張りなあんただから、ご飯も断ってふて寝してんだろうと思ったわ。義父さんやセラには黙っといてあげるから、冷めない内にどーぞ」



 するりと扉の隙間から滑りこみ、我が妹は俺に盆を渡した。礼もそこそこにそれに飛び付く。「お行儀悪いなあ」とエリーゼが呆れるが、腹が満たされねばどうにもならない。羊肉のシチューとパンの簡素な差し入れでも、今の俺には十分だった。



「あのさ、んぐんぐ」



「食べながら喋らないの」



「......ふう。お前さ、俺の夢って知ってるじゃん。ぶっちゃけどう思う?」



 腹が満たされ人心地ついた俺の問いかけに、エリーゼは小首を傾げた。



「んん、随分抽象的だなあ。どう、って何がどうなるの?」



「あー、詳しく言うとさ。俺の夢、実現可能だと思うか」



「それはね、意味の無い問いかけだと思うなあ」



 小さく笑いながらエリーゼは部屋の壁にもたれかけた。ベッドに座ったままシチューを掻き込んでいた俺は見上げる形になる。俺と同じ顔をした見慣れた双子の妹を。



「--だってさ、シュレンて意志強いじゃない。他の誰が何と言おうと、実現させちゃうと思うよ」



「ん--そうだな」



 短い沈黙があった。でもこれは気詰まりじゃない。双子だからこその以心伝心だ。ごく短いやり取りでも、俺達二人はお互いが何を言いたいか分かる。ほんのちょっとの表情の変化や語調が、言葉の表面上の意味を補ってくれるんだ。



 沈黙を破ったのは俺の方だった。お盆を脇に置き、視線を床に落として口を開く。



「明日もう一回頼みこむよ。俺がこれ以上ないくらい本気だってことを分からせてやるんだ」



「頑張ってね。ふう、でも私もなあ、人のこと心配してる場合じゃないなあ」



 ため息をつくエリーゼを俺は......応援してやれることはやれるんだが。いかに血を分けた双子の妹でも、何の迷いも無く応援出来るかというと。



「なあ、エリーゼ。お前、やっぱり本気なのか?」



「あったり前じゃないの! いい、シュレン!? 全生物の頂点に君臨したる最強の生物、(ドラゴン)! それを使役する竜司士(ドラゴンテイマー)なんて格好いいじゃないの! ああ、もうワクワクするわ、天に愛され地に抱擁されたるこのエリーゼ・セイスター・オルレアンが! 伝説の七匹の古竜(レジェンダリー)を率いて魔界へと侵攻し、人類の新たな地平線を切り開く姿を思い浮かべると--そうね、右手に刻まれたこの竜血紋が疼いて、ウッ」



「そうですか」



 右手を抑えて床をのたうち回るエリーゼを見ながら、俺は思う。そう、やっぱり物によっては心から応援出来ないことってのもあるよなと。




******




 俺が最近イライラしている理由は簡単だ。



 俺がなりたいもの--将来の夢が中々聞き届けられないからだ。



 いや、待て。順を追って思いだそう。そう、「シュレイオーネ王国に仕える騎士に志願したい」と義父さんに言った時は問題無かった。むしろ手放しで喜んでくれていたよな。義父さんの顔が曇ったのは、俺が何を武器にして騎士になりたいかを伝えた時だった。



「俺さ。これで戦いたいんだよ」



 義父さんの前に俺はズイと両の拳を突き出した。返ってきた答えは「--シュレン、お前本気?」という戸惑いと困惑の二重奏。



 本気さ。掛け値無しの本気だ。



 俺、シュレン・セイスター・オルレアンは今年で十二歳になった。十二歳と言えば、シュレイオーネ王国の慣習では将来の指針を決める年齢だ。ある程度、この年齢になれば何に自分が向いているかが分かる。勿論、人間てのは努力次第で能力が伸びるから十二歳の時点で全部決めなくてもいいんだけど。



 けど少なくとも第一目標としての希望を言う年齢、それが十二歳ってことだ。



 俺の目標は単純だ。騎士になりたい。そう、ここまではよくある目標なんだが......問題は何を以て騎士の武器とするかだった。



 そもそも騎士という職業(クラス)は、単に国王陛下に忠誠を誓った戦士という以上の意味がある。それはまさに国の武力の象徴であり、王を守護し民衆を守り戦う精鋭中の精鋭だ。だからなのか、見た目や武装にも色々と注文が多い。重厚かつ優雅さを兼備した騎士専用の装飾が施され、かつ魔力付与(エンチャント)で強化された剣や槍を装備することが求められる。これは明言はされてないけど、不文律として徹底されているんだな。



 だから俺がいくら素手の戦いに自信があって、武器無しで騎士になりたいと言ってもだ。義父さんは俺の騎士志望の願いを中々聞いてくれないのさ。きらびやかな装備に身を包み、国防に打ち込む騎士団において、一人無手でうろうろしていたらまとまりがつかないってのも分からなくはねえんだけどよ......けど、俺にも退けない物があるんだよな。



 騎士団、そしてその一員たる騎士に単なる戦闘能力以上の要素が要求されるのは分かる。子供なりに理解してるつもりだ。そりゃ、剣などの武器を持って敵を打ち払う姿ってのは格好いい。そうした騎士の存在が、鍛治屋や商人を刺激してよりハイレベルな武器や防具の生産に寄与する......というのは義父さんの受け売りだけど(正直言うと俺にはあまり分からなかった)。



 だけど、それでもだ。



 自分が一番自信のある物で、一番好きな物で勝負したいじゃないか。



 素手で戦っても十分やれる--俺はそう信じているし。




******




 翌朝目覚めた俺は、いつもの通り朝練に出掛けた。もうここ二年余りの日課になっているから、屋敷の者も何も言わない。「シュレンさん行ってらっしゃい」という声に手を挙げて応える。そういや、いつからシュレンちゃんと呼ばれなくなったんだっけか。ふとそんなことを思いながら走り始める。



 "走るのは全ての動作の基本だ。歩けなくなったら人間は終わりだ。だから格闘能力以前の問題として、まず走れ。足腰がしっかりしていれば基礎が出来たってことだ"



 王都の朝の風景が俺の左右に分かれ、後方に流れていく。その景色に重なるように、脳裏に言葉が甦る。



 俺に素手での格闘術を教えてくれた人の最初の教えだ。名前は今も知らない。出会いは単純、友達との喧嘩に負けて泣いていた俺にその人が声をかけてくれたんだ。



 獣皮を底に張った靴で石畳を蹴る。初夏の月も下旬だ、早朝とはいえ走れば汗も流れ始める。顔に浮かんだ汗を手で拭い、街角を縫うように走る。走りながら思い出すのは、あの名も知らない年老いた拳士(ナックラー)の教えだ。







 "拳ってのはな。人間が生まれた時から持っている武器だ。何者にも奪われず、何物にも替わることが出来ない。そういう武器だ"



 "でも、おじちゃん。皆、剣とか槍とか弓を使うよ。やっぱり素手じゃ弱いんじゃないの"



 "坊主、じゃあお前、喧嘩に刃物持ち出せるか?"



 言葉に詰まった。言い返せず口ごもる俺に、その年老いた拳士(ナックラー)は何も言わずに黙って手を差し出した。ゴツい、肉が分厚い手のひらに目が釘付けになった。義父さんの手もかなり頑丈で力強いけど、これほどじゃあない。もっと、そう。岩を連想させるがっしりした手だった。



 "......俺はな、坊主。素手で戦ってきた男だ。剣や槍に才能が無かったってのもあるが、それよりもこいつで戦うのが性に合っていたからこの年齢でも続けてこれた。拳ってのはな、加減が出来る武器なんだ。必要に応じて軽く相手を殴るだけにも出来るし、極めりゃあそれこそ鎧すらぶち抜くことも出来る"



 半ば述懐のように男が語る。俺はそれを聞きながら、魅了されたようにじっと男の拳を見ていた。

 それまで抱いていた剣が一番強い、最高という考えがじわりじわりと--己の中で変わり始めていく。



 街角での喧嘩には刃物は使えない。下手したら相手を殺してしまう。だけど、素手ならどうか。さっき俺が負けた喧嘩みたいな子供同士の小競り合いでも、素手での技術なら躊躇いなく使えるんじゃないか。



 "おじちゃん、もし、もしよかったら。俺にこいつを教えてください。お願いします"



 "--いいぜ、坊主。俺はいついなくなるか分からねえけど、そいつでよければな"



 俺の小さな拳に自分のハンマーのような拳を軽くぶつけながら、男は笑った。懐の深さを感じさせる暖かさ、妥協を許さない厳しさ、その両方が宿った笑顔だった。








 それが三年前、俺が九歳の時の話だ。淡々とリズミカルに走りながら、軽く一つ、二つ拳を繰り出す。鋭く空気を切り裂く拳は、未だあの人の拳には遠い。多分もう会う機会も無いだろうけど、あの人が教えてくれた技術は俺の中で生きている。素手で戦う拳士(ナックラー)として、俺は強くなりたい。その為に、それを証明する為にも拳を武器に騎士になりたかった。それが一番手っ取り早く思えたってのもあるし、やっぱり騎士という響きに何とも言えない魅力があったから。



 "お前、才能あるな"



 走る俺の背中を押す物。それは練習を始めて間もなく、男がかけてくれた言葉だ。



 "剣だけが武器じゃないということを、お前なら証明出来るかもな。それだけの素質がある"



 "まじで!?"



 やっぱりさ、子供だからそう言って貰えると嬉しいじゃん。単純だけど、俺にとっちゃ勲章にも等しい誉め言葉だったんだ。



 武器を使って戦うのが嫌いな訳じゃないけど、どうせなら。



 自分が好きで、一番になれそうな才能(モノ)で輝きたい。そう強く思うんだよ。




******




 王都が広いとは言っても、三十分も走っていれば外壁にぶち当たる。人混みを避けたり路地を折れたりしながらだから、結構ジグザグに走っているけどな。とはいえ、それはいつものことだ。実戦じゃまっすぐ走るより、不規則に動くことの方が多いんだしこれでもいいや。



「お、今日も頑張ってるな、少年!」



「ちーす。お勤めご苦労様っす」



 すれ違った兵士の一人と挨拶を交わす。結構な頻度で顔を合わせている内に、お互い挨拶くらいはするようになった。名前は知らないけど--いや、向こうは俺のこと知っているかもな。オルレアン家の双子って有名だし。



 けど、別に日常生活でそこまで注目されたり、騒がれるわけでもなく。俺もエリーゼもそういう意味では普通の生活が出来ていた。たまに小さな子が俺達二人がいると喜んでくれるくらいだ。



 早朝の風が頬を撫でる。汗の滴が散った。石造りの外壁は俺の左側に高々とそびえ立ち、それに沿うように走っていたがそろそろ速度を緩める。暖まった体をゆるゆると鎮め、ゆっくりと外壁近くの広場に踏み込む。



 木々がポツポツと立ち、辛うじて広場と呼べるだけのスペースを確保しているようなそんな場所だ。人の姿は少ない。犬を連れて散歩している老人、朝の家事を終え、子供と一緒に遊びに来ている母親、小さな露店を出している露店商......それくらいなもんだ。そうした人達がまばらに散らばり、初夏の朝を過ごしていた。



 俺もその中の一人になる。だけど、俺がやることはそんなにのんびりしていない。もっと行動的なことだ。



 人気が少ない場所に移動し、おもむろに立ち止まる。木陰から差し込む陽光がキラキラと躍り、視界を揺らす。辺りに人がいないことを確認してから俺は動いた。



 最初は左拳だ。右足を前、左足を後ろにした半身の状態から突きを撃ち込む。基本通りの腰の回転を生かした突き、それを何本か撃ち、わざと手だけの突きに変える。体重の乗り、拳の速さ、破壊力--それらが違うことを体に覚えさせる。



「次、右拳」



 小さく呟き、構えを左右逆に。空間目掛けて突き出す右手の形は拳で何発か突いた後、指を揃えた形に変化させた。貫手と呼ぶというのは、あのおじさんから教えてもらった。拳程の威力は望めないが、指の長さ分だけリーチは稼げる。それに鋭く打てば一点集中で貫通も可能だ。



 左から右、右から左、左を二発、そこから間髪入れず右の下突き--打撃を組み合わせる。速度を上げていく。体が慣れ、闘気が練り上げられ更に加速する!



 型を変化させる。左で二発、右で一発、そこで止まらない。足も使う。左下段蹴り、そこから右下段蹴り、止まらず左中段蹴り--息が弾む。いや、ここからだろう。



「はっ!」



 右中段蹴りが仮想の相手の脇腹に突き刺さる。そう、ここでのけぞらせて、左の中段突きを素早く二発だ。怯んだ所に軽く右下段蹴り、それを素早く戻して右の飛び回し蹴りで頭を狙う。

 ブオッと空気が切り裂かれた。これで倒せていない相手を想定、着地ざま思い切り力を込めた右拳を相手の顔面にぶちこむ。俺の頭の中で相手がのけぞった。顎が上がる。がら空きになったそこへ--



 体のバネをフルに生かし、しゃがんだ状態から後方に回転する。いわゆるバク転だ。その体の勢いを生かし、後ろに回転しながら思い切り足を振り上げた。叩きこまれる先はのけぞった相手の顎だ。後方宙返り蹴り--サマーソルトキックで一連の攻撃を終了させた。



「......悪くねーけど、もうちょいキレが欲しいよな」



 自己評価してみたが、60点だな。あのおじさんが手本に見せてくれた動きは、もっと鋭くてもっと重かったんだよな。




******




 ひたすら毎日毎日、義父さんに頼み込む。「お願いだからさ、一回! 一回でいいから俺に機会くれよ!」って、とにかく馬鹿の一つ覚えみたいに拝み倒す。他に上手い頼み方があるのかもしれないけど、思いつかなかった。



 案の定、渋い顔をされ続け、反対されて説得された。「武器持って戦う方が安全だし強いって」と何度も言われたけど、こっちも退かない。



「やってみねーと分からないだろ、そんなの! 俺、本気だからな! それだけこの拳に賭けてるんだ!」



「っとに、強情っぱりだな......誰に似たんだか」



「義父さんじゃね?」



「俺かよ! 実父(シューバー)じゃねーのかよ!」



「生みの親より育ての親って言うじゃん?」






 とにかくこんな「ひたすら押して押して押しまくる作戦」を続けた結果、ある日遂に俺に運命の女神様は微笑んでくれたんだ。やっぱり努力って報われるんだな!


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