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友人

クリスマスの翌日、莉桜は中学時代からの友人と久しぶりに会った。

背がスラリと高くモデルだと言われたら信じてしまうほど美人で名前は安藤早智子という。


「莉桜!」


待ち合わせのカフェショップで本を読みながら早智子を待っていると、元気な声が入口から聞こえてくる。


「ごめんね。まったく人が急いでいるのにしつこいナンパ男がいたのよ」


椅子に座ると、とても嫌そうにナンパ男のことを話す。


「相変らずモテモテだね」

「えーもてないよ。少なくても意中の人は振り向いてくれない」


早智子が珍しく落ち込んだ声を出す。


「早智子が?信じられないよ」

「そうでしょう?何で気付いてくれないのかな・・・・・・。ま、この話は後でじっくりするから。

それより体調はどう?元気にしてた?」


お姉さんのみたいに、いつも莉桜を心配してくれる。


「見ての通り元気だよ」


莉桜の顔をじっと見つめて早智子が言う。


「恋してる?」

「してない!!!してないよ・・・・・・」


慌てて否定する莉桜は膝の上に置いていた読みかけの本を落としてしまった。

それを早智子が拾ってくれる。


「へー珍しい。新書じゃない?」

「文庫になるまで待ちきれなかったの」

「ふ~ん」


そう言いながら莉桜に本を手渡そうとして目を留める。


「中野裕也・・・・・・これって莉桜の隣の人よね」


莉桜は返答をせずに本を受け取りバックにしまう。

人見知りでなかなか親しい友人を作れなかった莉桜。


早智子とは不思議と気があって一緒に過ごすことが多かった。

絵を描くことが好きで美術部に入ったのがきっかけだった思う。


美人で成績優秀で運動神経抜群な早智子は美術部員でありながら、アチコチの部に応援で呼ばれて多忙な高校生活を送っていた。

教師になりたくて入った大学は、実家から少し遠く一人暮らしを始めたのだ。

講義やアルバイト、それからサークル活動に追われ、地元にはなかなか帰ってこない。

それでもメールや電話で連絡だけは取り合っていた。


「どうりで意味深なメールが来るわけだ」


そう一人で納得している。


「早智子、勘違いしてる」


誤解を解かなければと焦る莉桜だけど、早智子は笑顔を浮かべる。


「していないよ。解ってるから大丈夫!」

「大丈夫って・・・・・・だから」

「莉桜からのメールで、いい感じじゃないって思ってたのよね。そのお隣の人と」


やっぱり勘違いしていると莉桜は溜息をつく。


「解っていないのは本人だけってことね」


解っていないわけではないと莉桜は思う。

恋心じゃないと否定したい。


それでも莉桜の家に早智子が泊まることになり、パジャマトークが始まる頃には恋心を打ち明けていた。


「それで思いを込めて絵をプレゼントしたんでしょ」


早智子の指摘に莉桜は耳まで赤らめる。


「それで中野さんはなって言ってくれたの?」

「うっ嬉しいよって・・・・・・」


昨夜の抱擁を思い出し動揺はさらに増す。


「抱きしめられたのかな?」

「なんで解るの?」


莉桜が素直に認めたので早智子の方が驚いた。


「えー本当に?いい感じじゃない」


早智子に鎌を掛けられた事に莉桜は気が付かない。


「そうかな・・・・・。お子様扱いじゃない?」


不安そうに莉桜が言う。


「デートしてるじゃない」

「・・・デートかな・・・・・・」

「デートよ!大丈夫、莉桜は可愛いから自信を持ちなさい。私なんて、可愛げないから友だち以上にはなれないのよ」


自分の話になると途端に弱気な発言をする早智子。


「そっちの方が可笑しいよ。早智子が好きだって言えばいいのに」

「駄目、無理、絶対出来ない!!!」


力いっぱい否定して、今度は早智子がしゅんとなる。

それまで莉桜をからかっていた余裕は影を潜め、恋する乙女の顔をする。


「男勝りの性格に、この身長。サークル仲間以上には絶対思われていない」

「そうかな?」

「飲み会でも『私、酔っちゃったみたい・・・』なんてシナ作って甘えられない、私」


でも莉桜は早智子の時々見せる弱さを知っていた。

周りからの期待に応えるべく頑張ってしまう影で疲れたり落ち込んだりする。


「無理に甘えなくても、彼は気付いてくれてるんじゃないの?」

「そうかもしれないけど、アイツ、誰にでも優しいし親切で頼られるから・・・・・・」

「それが嫌なの?」

「嫌じゃない、むしろ好き。アイツの人との接し方が好き。偽善的ではない優しさが好き・・・・・・。私の弱さを受け止めてくれている気がするから・・・・・・」


惹かれ合っているだろうと思っても確信できない。

言葉にすると壊しそうで怖い―――そんな想いを共有している二人。

外見も性格も正反対のようで、実は同じような根っこを持っているのかもしれない。


「高校生の頃からちっとも成長していないね、私達」


ふぅと溜息をついて早智子が笑う。

莉桜も釣られてクスリと笑った。


高校時代の思い出から、最近の動向まで話題は尽きず夜更けまで二人は話し続けた。




その頃、裕也も幸平を久しぶりに飲みに誘っていた。

行きつけの店に現れた幸平は機嫌が悪そうに見える。


いつものようにビールを頼み、適当なつまみをオーダーする。

大学時代からの馴染みの店は、いつもザワザワと騒がしい。


大人の雰囲気の漂う場所にも行くようになったが、何故か幸平と会うときはこの店が定番だった。


「忙しいのか?」


いつもと違い口数の少ない幸平に声を掛ける。


「いや、そんなことないよ」

「そっか。いつもと違う気がするからさ」

「まあな」

「沙耶と何か有ったのか?」

「ちょっとな」

「喧嘩か?」

「・・・・・・隠し事をされている気がする」


幸平の顔が辛そうだ。

幼馴染の二人が紆余曲折あってようやく結婚してから四年経つ。


「倦怠期?」

「かもね……」


ジョッキのビールをあっという間に空にして幸平は日本酒を頼んだ。

裕也も付き合うように同じものを頼む。


「忙しいのは解ってる。解ってるけど、先週から何かおかしい。俺を避けていると言うか……」

「浮気?まさかな」

「沙耶に限って、ない!!!」


いつも以上の早さで飲み進める幸平は次第に思いを口にする。


「一昨日だって仕事の急な打合せが入ったらしいが、溜息を吐きながら出かけていくんだ。あの仕事の鬼が……」


仕事の鬼と言うフレーズを裕也が笑う。


「一昨日はクリスマスイブだったんだぞ。おまえと過ごしたかったんじゃないのか?」

「今更クリスマスイブもないだろう。それに夜は一緒に食事をしたんだ」


小学生1年からの付き合いなら今更になるのかと裕也は思う。


「考えすぎだよ。年末に厄介な依頼が飛び込んできたんじゃないのか?」

「……愚痴らないんだよな。いつも難題を抱えると愚痴るんだ、沙耶は。それがイラついてはいるけど、心ここに在らずって感じがする」


あまりお酒に強い方ではない幸平なので、早々に出来上がってしまった。

それからは高校時代の馬鹿話をして笑いあった。


「あの日、俺はおまえと沙耶が付き合ってるかと思ってさ」

「付き合ってなんかないぞ」

「知ってるよ。でも、その時はそう思ったんだよ。で、付き合ってるのかって聞いたらキレた」

「殴られた?」

「そんなわけないだろう・・・・・・」


幸平は遠い目をする。

高校3年生の時に初めてのプロポーズをし『10年後にもう一度言ってくれたら考える』と言われたエピソードは、友人達の間では有名だった。

そして、本当に10年後にもう一度プロポーズをしたのだ。

婚姻届付のプロポーズは功を奏し、翌日には入籍していたという首尾のよさ。


二人を見守っていた友人たちに幸平が白状させられた時のことを思い出す。

最初はからかっていた仲間たちが、最後は良かったなと幸平の肩を叩いたのだ。


そんな絆が築けるのはスゴイと思う。

遠距離恋愛が長くて、年に数えるほどしか会っていない頃もあり、周りは別れたのではと思っていたこともある。


「あの頃、辛くなかったのか?沙耶は京都の大学に入って、おまえは北海道だもんな」


20代の初めごろ、皆、夢に向かって一生懸命でなかなか会う余裕も無かった。

だから幸平のことも噂で聞く程度だったのだ。


「辛くないといったら嘘だが、振り返ればいい経験だった。遠距離期間があっても変わらなかったんだよな」


人を好きなる気持ち。裕也は今までの自分を振り返る。

付き合った奴は何人いても苦しく思うことなど一度も無かった。

莉桜の笑顔はいつでも思い描けるのに、他の人のことは思い出さない。


美人の誉れ高い茜からの誘いも魅力は感じなかったのだ。

いつの間にか莉桜のことばかり話している。


酔っ払っているから聞いているのかどうかも怪しいと思っていたが、

語り終える頃には正気な声で言われた。


「迷うなよ。おまえがブレれば彼女はどうしていいか解らなくなると思うよ」

「二十歳から見たらオジサンだぞ」

「ばーか。本当にそう思っているのか?違うだろう。自分の気持ちを偽ったら駄目だろう。ハードボイルドの世界と一緒だ。自分勝手に相手の幸せを願ったら駄目だ・・・・・・」


そう言って幸平は立ち上がった。


「じゃ俺、帰るから」


引き止める声も聞かず幸平は帰っていき、裕也は莉桜への想いを抱えたまま一人残された。

自分と莉桜との距離。

惹かれあっているのだろう。

足跡の理由 の番外編の短編を載せました。

幸平サイドのお話です。

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