扉の向こうは俺の世界
それはずっと昔から思ってたことだ。
―生きる世界が違う―
この世界じゃない。
俺には俺の生きる世界があるはずだ。
今の世界じゃない。
きっと俺は違う世界から迷い込んでしまったんだ。
生きる世界が違うから、こんなにも生きている気がしないんだ。
だから俺は扉をあける。
扉という扉を開けてみる。
かならず違う世界への扉があるはずだから。
子供の頃は他人の家の扉も開けまくっていたと聞かされている。
今はそんな犯罪まがいのことはしない。
いずれこの世界から出て行くとしても犯罪者にはなりたくない。
だけど家、学校の扉はもちろん。
友達の家の扉も容赦なくあけていた。
それでも俺の世界への扉は見つからない。
一体どこにあるんだ。
こんなに俺は探しているのに。
求めているのに。
今日も俺は扉を開ける。
俺の生きる世界を見つけるために。
俺の1番昔の記憶がある。
それは違和感だった。
目に映る風景。
耳に聞こえる音
肌で感じる空気。
すべてに違和感を感じていた。
その違和感は時間がたった今でも感じている。
目の前にあるテレビの映像はホンモノなのだろうか。
俺が入っているコタツの暖かさは本当の暖かさなのだろうか。
俺はこの世界に存在していいのだろうか。
チラッ
閉ざされている押入れが目に入る。
コタツから出て押入れの前に立つ。
右手で開ける。
ザーッ
そこには布団が敷き詰められているだけだった。
ザーッ
閉める。
ザーッ
開ける。
布団が敷き詰められているだけだ。
ザーッ
閉める。
ザーッ
布団が敷き詰められているだけだ。
ザーッ
閉める
ザーッ
布団が敷き詰められ
「なにやってんの?」
母が俺を不思議そうな目で見ている。
ザーッ
閉める。
「いつもあんたはなにやってるの?前は冷蔵庫。家の玄関も開けたり閉めたりして。隣の奥さんが変な目でみてたわよ。」
母は本当に母なのだろうか。
母は俺がこの世界の人間じゃないことを知っているのだろうか。
そんなことを考えている子供をどう思うのだろうか。
「もうやめてよね。恥ずかしいったらありゃしない。」
ザーッ
布団が敷き詰め
「やめなさいって。」
ザーッ
閉める。
ここはスーパー。
従業員用扉が目の前にある。
時々従業員が出たり入ったりしている。
その銀色の扉が目の前にある。
バンッ
両手で開ける。
中には従業員がいて、俺を不思議そうな目で見ている。
「あの、ここは関係者以外は立ち入り。」
バンッ
明るい店内が広がっていた。
BGMがやけに大きく聞こえた。
「あれ?あれ?こいつはめずらしいな。中学卒業以来ですかな?」
こいつは多分ここの世界の住人だろう。
この世界で生きていて何の疑問も持ってない。
そんなヤツだ。
「久しぶりだな〜。おまえは変わんないな〜。俺さ、一人暮らしはじめたんだよね。今度遊びに来いよ。これから暇?ね?」
俺には大事な用事がある。
自分の世界を見つける大事な大事な用事が。
「まあいいや。今度電話でもするから。それじゃあね〜。」
アイツはいいな。
自分の世界があって・・・。
バンッ
従業員が不思議な目でこちらを見て
バンッ
店内にBGMが響き渡。
バンッ
「あの、従業員以外立ち入」
バンッ
ここは大型家電量販店ビッグビデオ(オープン初日)。
結構な混み合いだ。
まずは洗濯機売り場に来た。
バッ
バッ
バッ
バッ
バッ
次々と洗濯機の中を確認していく。
すると店員が話しかけてきた。
「どのようなタイプがお好みでしょうか?全自動?ドラム式?それとも一人暮らしでしたらこのようなお買い求めしやすい値段のものなどがありますが。」
バッ
バッ
バッ
「あの、お客様?お好みのモノがありましたら教えていただければお探ししますが。お客様?」
バッ
バッ
バッ
全部の洗濯機の中身を見たがどれも俺の世界の扉ではないようだ。
「あの〜。お客様?」
次は冷蔵庫か。
バッ
バタンッ
バッ
バタンッ
バッ
バタンッ
「お、お客様。冷蔵庫のほうをお求めですか?それでしたらこちらの省エネ。」
バッ
バタンッ
バッ
バタンッ
バッ
バタンッ
「お、お、お客様〜〜〜!?」
電子レンジ。
炊飯ジャー
ポット
CDコンポのCDを入れるところ。
ありとあらゆる扉を開けたが何もなかった。
「お、お客様。一体なにをお求めなのでしょう。それともこちらになにか不手際でもござ」
トイレへと向かう。
「お、おきゃくさま〜。」
コンコン
ガチャ
コンコン
ガチャ
コンコン
ガチャ
コンコン
コンコン
ガタガタガタッ
「入ってますよ〜。」
つい勢いあまって開けようとしてしまった。
これは恥ずかしい。
ここにも俺の世界への扉はなかったか。
バッ
バタンッ
「お客様。やはり冷蔵庫をお求めで。」
トコトコトコ
出口へ向かう。
「おきゃくさま〜〜。」
その日、店長が辞任したことなど知る由もない。
多分、俺と同じで生きている世界が違ったんだ。
多分。
ガチャ
バタンッ
ガチャ
バタンッ
ガチャ
バタン
ガチャ
「なにトイレの扉ガチャバタやってんの。電話だよ。」
バタン
「オレオレ。」
オレオレ詐欺か?
「暇か?暇だったらさ、前に会ったスーパーで待ち合わせな。それじゃあ。」
ガチャ
プープープー
バンッ
「ここは従業員以外たち」
バンッ
「あ〜いたいた。それじゃあ俺んちでも来いよ。」
ガチャ
「さあさあ、我が城へようこそ。」
バタンッ
ガチャッ
「え?帰っちゃうの?」
バタンッ
「そんなことないわな。ホントおまえはおもしろいなあ。」
ザーッ
ザーッ
「押入れなんか見てなんかいた?おれも暮らし始めは怖かったな〜。なんかいるんじゃないかって思ってさ。あ〜。冷蔵庫見るんだったら麦茶取ってくれるかな?よかったらグラスになんか入れてくれると嬉しいみたいな。お、悪いね。あれ?飲まないの?まあいいや。喉が乾いたら飲んでよ。あ、そっちはトイレだけど。」
ガチャ
「あ、入るのね。」
バタンッ
ガチャッ
「もうしたの?早いね。カラスの行水だよまさに。」
ここにもないか。
一体何時になったら俺は俺の世界へいけるのだろうか。
いや、帰れるのだろうか。
帰り道を忘れた場合どうすればいいんだろうか。
警察にでも行ってみるか。
優しく案内してくれるかもしれないな。
精神病院に。
自分でもわかってるさ。
俺の考えがこの世界だとおかしいことも。
だけど俺は本当にこの世界の住人じゃないんだ。
この世界では生きていけないんだ。
魚が陸じゃ生きられないように。
俺にも水が必要なんだ。
生きる世界が必要なんだ。
「おまえって中学の頃からなんか教室とか開けてたよな。そうそう、女子更衣室も開けてたもんな。ありゃ俺たち男達はびっくり仰天だったよ。あれほど物議をかもした話題はなかったもんな〜。なんせプールの時間だったからな。ありゃびっくりだ。よく退学されなかったか不思議でならなかったもんな。なんでも女子が誰一人として怒ってなかったって言うのが不思議だよ。なぜか女子には人気が合ったよなおまえ。なんかクールだよね〜なんて言われてたんだぞ。知ってたか?チョット影があってかっこいいよね〜とかも言われてたんだから。え?聞いてる?で、どうなのよ。見たの?見えたの?え?どうなのよ?」
見たい。
見たいに決まってる。
自分の世界を。
だれかに自分はここの世界の住人じゃないんだ!!
なんて言ったらなんて言われるんだろう。
だったら死ねば?
なんて言われるかもしれない。
死ぬなんて考えたこともない。
だって死んだら自分の世界を見つけられないじゃないか。
俺は絶対に自分の世界を見つけるんだ。
見つけ出すんだ。
自分の世界への扉を開くんだ。
死んでなんかいられない。
扉はある。
必ずあるんだ。
なんでとかどうしてとかじゃないんだ。
あるものはあるんだ。
存在してるんだ。
理由とか理屈とかじゃないんだ。
それはそこにあるんだ。
あるはずじゃないんだ。
あるんだ。
ある。
そこにある。
扉が。
自分の生きる世界が。
開けるんだ。
「まあ言いたくなかったらいいさ。こちらはこちらで勝手に想像してますから。その何でも扉を開けちゃう癖はなおしたほうがいいぞ。後戻りが出来るうちに直しておいたほうがいいと思うな〜。いずれ絶対に見てはいけない光景とか見ちゃうかもしれないからなあ。そういえば俺の小学校にさ、開かずの扉ってえのがあったんだわ。それがもう丈夫で丈夫で。何をしてもあかないわけ。鍵穴とかもついてないんだ。先生たちもどこへ通じてるか知らない感じだったしさ。ん?なになに。そんなに顔を近づけて。興味津々なご様子で。そうかそうか。さすが扉オープナーだわ。なら今からその小学校にでも行ってみますか。」
「さあさあここがその開かずの扉がある我が小学校です。って先行かないの。あーたここの出身じゃないんだから。離れないように。ね。」
ガラガラ
「だから勝手に開けちゃダメだって。あ、これは図工の先生。お久しぶりで。ええ、ちょっと思い出を拾い集めようと思いまして。ああ、こいつは友人で、開かずの扉に興味を持ったみたいで。ちょっとついでについてきてもらいました。はい。元気ですよ。もうバリバリです。あ、コラ。勝手に開けるなっての。それじゃあコレで。あ、家庭科の先生。すいませんねえ。うちの連れが。あれ?なんか作ってたんですか?この甘い香りはリンゴちゃんじゃないの?アップルパイを作ってた。なるほど。それでは私にも。え?もう食べちゃった・・・。べ、別にもらおうなんて思ってませんよ。ただあまってたら捨てるのはもったないからもらってもいいかな〜なんて思ってただけですから。え?材料のリンゴが残ってる。それを早く言ってくださいよ〜。え?掃除用具箱を見てる彼ですか?中学のときの友達でして。あ、彼にもくれるんですか。ありがとうございます。ほら、お礼言って。すいませんねえ。無口なもんで。それでは。」
扉という扉を開けながら廊下の奥のほうにやって来た。
その扉はこちらをじっと見ていた。
その扉だけがまわりの壁と似合わず古めかしかった。
「さあさあこれが噂の開かずの扉でございますよ。開けちゃうなら開けちゃえよ!!さあ開けちゃえよ!!」
一歩一歩扉に近づく。
扉の前にやってくる。
扉は黙ってこちらを見つめている。
なんだか懐かしい気持ちになった。
「あれ?ちょっと隙間ができてるんじゃない?どれどれ?ああ、真っ暗で良くわからんな〜。ん?あ、これはこれは校長先生こんにちは。」
後のほうから校長先生が姿を現した。
「いや〜校長先生。この扉のことなんですがね。」
あいつが話をしている最中に扉の隙間から中を覗いてみる。
目を見開き声に出ない言葉が出た。
覗くのを止めて扉の前に立つ。
ゴクリッと唾を飲み、ノブに手をかける。
「え?そうだったの?この扉の向こうは壁?工事の手違いで?どうりで真っ暗で何も見えないわけだわ。そりゃあなにやっても開かないわけだ。めり込んじゃってんだもんね。おまえも開けるのやめ・・・・あれ?どこ行った?」
扉の前にはリンゴが1つ転がっていた。
tHe EnD
どうしても気になる扉ってありますよね。
扉の向こうがどうなっているか。
あける以外に確かめる方法はないのです。




