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その人は
その人は、旅人の祖とも呼ばれていた。
どこから来て、どこへ行くのか。それを知ることは誰にも叶わなかった。
彼の歩く道は、世界に敷かれた道であり、人に敷かれた道だった。
彼は歩いた。道を、世界を、人を。
長い長い時間をかけ、全てを歩き尽くし終えたとき、彼は来た道を振り返った。
振り返り、再びその足を進めた。
世界を廻り、人を廻り、そして、人々の前世を目覚めさせた。
彼は言った。百年先の未来を、歩けるようにしたのだと。
彼の言葉は、百年先の世で理解された。
前世を取り戻した人々は、彼の言った言葉をなぞるように、彼の歩いた道をたどるように、前世からの想いを果たそうと、一人また一人と旅に出る。
やがて、旅人は千と増え、万と増え、その足一つで歩いた土は固められ、後から続く旅人の助けとなる。
それは、前世への回帰が続く限り止まることはない。
いつしか呼ばれた彼の名は、聖人ハイネ・ガラドリエル。
ハイネの旅には、一人の友がいた。