八
「はーい、これで今日の授業も終わりね~」
先生の間の抜けた声が授業の終わりを告げる。オレたちの最後の授業の。
さて、ここまでの策は完璧だ。先ほど椋から、全員に”以心伝心”でこれからのこと伝え終わったと報告が来た。みんなそれほど取り乱している様子もないし、うまく心のうちに隠せているな。まぁ、もちろん誰かが驚愕のあまり思いもかけない行動に出ても、それのカバーも対策済みだったが。
「翼、そろそろルームに戻ろうぜ。それと椋、悪いが帰ったら少し組み手を頼む」
「ふ、いいだろう。村雨ごとき、三秒で蹴散らしてやる! 翼さんも応援してくれますよね?」
「あぁ、頑張れよ」
これももちろん策のうち。村雨が普段学校に置きっぱなしにしている武具をルームに持ち帰るための、脱出での戦闘のための。
村雨は普段持ち歩いている刀に加えて、もう一本刀を背にかける。
「村雨君決まってるね! かっこいい~。じゃ、そろそろ行こっか!」
廻の号令で一同はルームに向かう。
現在時刻七時十八分。策戦決行まであと十二分。
オレたちはオレの部屋に集まって大富豪をやっている。もちろん、本当に遊んでいるわけではなく、策に最終確認をしているわけだが。
「そろそろ策戦開始だ。策に当たる前にやるべきことはすべてやったと思うが、遣り残しが無いか一応確認してくれ」
一時の静寂が訪れる。オレの考えた策に不備があるとは思えないが、なんせオレの初の戦い。用心に越したことは無いだろう。
そろそろ次の話に移そうとした時、指谷廻がビッ!と手を上げる。
「隊長、ひとつよろしいでありますか!」
「ああ。後、隊長って言うな、へんな口調もやめろ」
「えへへ~、格好いいからいいじゃん。それでね、遣り残し、ひとつだけあるよ! それはね・・・」
それは何だ? 一同が廻を見つめる。
「それは、チームの名前決めなのだ!」
あまりにも意外な答えに村雨がずっこける。
「あのな廻、チームの名前なんて何でもいいだろ。そうだろ翼?」
チームの名前か・・・そういえば忘れていたな。何事も名前があるのと無いのとでは大違い、名前を得ることで自分たちがそれに属している自覚、自分たちがこれからやることの認識、その他もろもろが手に入るだろう。いい考えじゃないか、廻。
「いや、そんなに悪い考えじゃない、名をつけることは重要なことだ。今のうちにチーム名を決めておこう」
「やーい村雨、馬鹿は黙っててもばれるけど、黙ってたほうが恥をかかずにすむぞ」
ここぞとばかりに椋が茶々を入れる。まったく椋め、なんで村雨をこんなに馬鹿にするんだろう。
「うるせぇ、それより名前か。俺と翼はネーミングセンスが無いからほかの三人で決めたほうがいいな」
「あぁ、そうだな」
自分で言うならともかく、人から言われると少しショックだな。何か反論しようとしている椋を手で制して三人(ここには天音もいるのだ)に任せるか。
「・・・エンジェル」
最初にいい感じの案を出したのはなんとというか、やはりというか、天音であった。普段は無口なこいつだが、クリエイトの能力は一流。たとえネーミングでもそういうものが作用するのだろう。
「エンジェル、いい名前ですね翼さん。翼は天使の翼、廻は天使の輪、椋は天使の無垢、天音もなんか天使っぽいし、完璧ですね!」
「おい待て! 村雨はどうした? 俺だけ入ってないじゃないか!」
当然だが村雨が怒った。こんなことでチームワークが乱れるのは避けたいところだ。オレはとっさに解決策を考える。
「村雨だけ関係ないってのはさすがにないな。じゃあ、エンジェルに何か村雨が気に入ったワードを組み合わせよう。それでいいか?」
「いいいんじゃない? さすが麒麟! シマウマよりだけはあるね!」
廻の謎の言葉には取り合わない。そんなことしてたら、作戦開始時間どころか、これからの人生を費やしても足りないだろう。
「まぁそれでいいよ。じゃあ、そうだな・・・天使の裁き”エンジェルジャッジ”でどうだ」
村雨を除く一同が黙る。椋に至っては顔を引きつってる。
確かにかっこいいけど、かっこいいけども!
「村雨、ひとつ聞いていい?」
椋が我慢できずに尋ねる。
「ああ、何でも聞け!」
「どうしてそんなに中二なわけ?」
村雨を除く一同が、こらえきれず爆笑する。あのクールな天音でさえ、ちょっと噴出していた。
「ど、どうしたんだよ・・?」
「いやお前、天使の裁きって何? 村雨は裁判官になるわけ?」
椋が女の子にはあまりしてほしくないような、さげすんだ笑みを浮かべている。
オレもいろいろ言いたいことがあるけど、現在時刻は策戦開始三分前。もう談笑をしている余裕はない。
「各自いろいろあるだろうが、時間が押している。よって、チーム名は”エンジェルジャッジ”二決定! 依存はないな」
からかいはしたが”天使の裁き”をはずせばそれなりに聞こえるじゃないか。チーム名は少し目立つぐらいがちょうどいいだろう。
「各自予定はわかっているな? 微調整および策戦の変更は”以心伝心”で伝える。それでは、これより初策戦開始!」
オレの掛け声とともに、策戦が、命をかけた脱出が始まった。




