伍
”麒麟”とは、知将の持つ才能、策士の持つ天性、軍師の持つ血統。数ある称号の中で唯一の先天的要素、凡人と非凡を分ける決定的な差、努力では乗り越えられない絶対的な壁。
グランデはオレに麒麟の片鱗を感じたからここに呼び寄せたのだろうが、本物の麒麟ではないと判断したのだろう。グランデの民でない者が麒麟を持つはずがないという独断、偏見、傲慢。そんなつまらないものがやつらの思考を鈍らせた、狂わせたのだろう。まぁ、オレが麒麟に気づかれないように振舞ったって点も大きく作用してるかもしれないが。
麒麟はオレが百パーセント使いこなせると確信されたとき、またはオレの命が危ないときに開かれるように封印されていたが、今はおそらく後者だろう。おそらくというか、明らかにだな。今日の散歩で経験地がたまったなんてアホな話はないだろうし、麒麟を使いこなすのは体力とかじゃないしな。
とりあえずここでオレがするべきことは、情報収集だな。麒麟はあくまでも軍師の才能だから、戦士にはなれないんだ。それに、オレだけが脱出してもしょうがないしな。
というわけで戦略に必要な情報を集める。ちょうどあそこにアホ門番がいることだし、ソースを得られるだけ入手しておくか。
まずは敵の警戒度からだな。正直さっき見てただけで明らかだが、情報をより正確にして、おまけ情報まで得られれば儲け物だからな。おれは近くの茂みをかすかに揺らす。
ササッ
「ん、今なんか音したか?」
「そうか? 特に何にも感じなかったけど。風じゃないのか?」
「そうかもしれない・・・本部に一応連絡しておくか?」
「いや、いいだろう。こんなことでいちいち報告して、もし勘違いだった金勝寺さんにあとてグチグチ言われるぜ」
「それはいやだな。金勝寺さんだけならともかく、来春様にまで伝わったら確実に原因を探しに来るな。それで本当に風のせいとかだったら・・・想像するだけでも恐ろしいな」
「我等のアイドル、みゆ様を怒らせたら人生確実に終わるぜ」
「そうだな。やめとこやめとこ」
・・・。あいつら、本当の馬鹿だな。周りに人がいなくても機密情報はもらさない、内部情報は暗号なり符丁なり使う、こんな基本すらも守れていないとは。
得られた情報は有益なものが多かったな。無知な門番、おまけに無用心、金勝寺という上官、そして来春先生の正体。
先生もやはりグランデの人間だったか。それもかなりのランクみたいだが、そんな人がどうしてこんなところに・・・
まぁいい、これだけわかれば十分だ。
「ルートは出来上がった。あとは実行のみ」
ここでなんとなく決め台詞をはいてみるオレ。誰にも聞かれてないから良かったけど、これはボツだな。なんか格好悪いもの! まるで痺れないもの!
そんな冗談はおいといて、計画は完成した。バカ門番に気づかれる前にルームに戻るか。これからオレがやるべきことは、計画の役割決め、不測の事態への対処法を考えるぐらいか。
「今日は眠れそうにないな」
オレはルームに戻っていく。
誰もいない茂み。先ほどまで一人の少年がいたが、今は誰もいない茂み。そこに一人の女性が何の前触れもなく現れた。一切の音を出さずに、さながら忍者のように。女性にしてはやや背が高く、栗色のストレートは肩にかかる程度の長さ。彼女の浮かべている表情は、笑み。
「やっぱり、翼くんは麒麟か。ふふ、面白くなってきたじゃない」
一人の少女がいる茂み。そこで一人の女性が何の前触れもなく消えた。一切の音を出さず、さながら幽霊のように。
残されたのは誰もいない茂み。
水曜日投稿予定でしたが遅れてしまいました。
次話は日曜日に投稿する・・・はずです^^;




