ハルカ
クラスのイケメソMASAKIくんはサッカー部の主将で成績も優秀、「こないだも学年一位だったらしいよー」とはトモコとエリカ以外にもみんなが知ってる学校公認の事実。
MASAKIくんはてえてえ。これ真実。無論三秒に一回告られているが、本人は学業に専念したいとのことで毎度首を横に振っている。
でも、当たらなければ砕けることすらできない。私もいざ出陣してみることにした。
「ごめん……俺、君とだけは絶対に付き合えないんだ」
……ん?
「いや待って今君と『だけは』って聞こえたんだけど」
「そうさ。君とだけは付き合うことはできない残念だけど」
「自分で言うのもなんだけど私顔面偏差値高いし成績だって上位五パーセント入ってるしスポーツだって夜のほう含め大得意だよ? ハイスペックだよ? 優良物件だよ?」
「それでも無理なんだ……君と僕とは結ばれない宿命……」
MASAKIくんは悩ましげに眉間を押さえながらかぶりを振った。
「君の名前……ハルカだろ?」
「うん……それが?」ゴクリ
「僕の母親と同じ名前なんだ……」
「……は?」
「想像するよ……君との夜を……君は対面座位で僕の名を呼ぶ……『MASAKI、MASAKIぃ♡』と……僕は君の名前を……ああ、呼べないッ! 呼べないんだああ!」
「はああああああ!?」
思った以上に不当な理由で断られたワロタ。私は食い下がる。
「なに? 母親と同じ名前だから彼女になれないっての? じゃあ改名するよ、今すぐ裁判起こして私の名前改名するから!」
「無理だ……君の前世の名をやがて僕は思い出す……ことあるごとについて回るだろうその呪いが! それに君のハルカは遠いほうのハルカじゃなくてfragranceのほうのハルカであることも僕のマザーと一致しているんだ!」
遥→✕
春香→○
「フレグランスめっちゃいいよ私! ほら嗅いで触って舐めてみそ!」
「おrrrrrrrrrtrr」ビタビタビタァ!
「ギャアアアアアアアアアアきったねえ!?」
私の制服の、あろうことかおっぱい部分にMASAKIくんのハッピーレインボーが降り注いだ。
「だからして僕は……君と結ばれることができない……ゲポッ」
「最後っ屁やめてよ! そして名前で人を判断するのもやめてっ! 私の名前は両親が私を『春日春日』にしようと思って、でもさすがにネタに走り過ぎて可哀想だから『ハルカ』にしたっていう愛のエピソードがあるの! 愛のハルカなの! 私は愛の使者なの!」
「それでも駄目なんだ……僕は君と付き合えない……ごめん……」
「……ッ!」
MASAKIくんは中庭を立ち去った。私は胸をぎゅっと押さえた。手にゲロついた汚ねッ!
「そんな……MASAKIくん……」
名前については彼も思うところがあるのだろう。彼の本名は佐々木・グルービー・MASAKIだから。たまにマサアキとか呼び間違えられてる。下の名前がアルファベットなのもとても痛々しいと思う。あとグルービーってなんだ。
「要は、私がお母様と同じ名前なのが問題なんでしょ? でもお母様を改名させるわけにもいかないし……ハッ」
私の脳に一縷の希望が兆す。
「MASAKIくんがお母様を好きになればいいんだわ!」
母と同じ名前である私とは付き合えない。ならば、きゃつをマザコンにしてしまえば『母が好き→母と同じ名前の女が好き→私が好き』になり得る!
こんなことで諦める私ではない。MASAKIくんへの愛のモノホンさを立証するべく、彼の家にアポなしで来ていた。偵察だ。
玄関のドアをピッキングする……が、十分後。開く気配はない。よう考えてみれば私にピッキング技術ねえわ。仕方なく、偶然持っていた熱線でラッチを焼き切った。廊下を忍び足で進むと、リビングから声が聞こえてくる。
「はあああん……ママぁあああん! ママのおっぱい! おっぱいぃぃぃん♡!」
「あらあら〜ンこの子ったら〜ン、高校生にもなって〜ン。ママのおっぱいちゅきちゅき?」
「うん! ちゅきちゅきぃ♡!」
ソファーではMASAKIくんが熟女の乳房を貪っていた。
「ママのおっぱいモミモミチュパれろおっぱい!」
MASAKIくんが熟女の干しブドウを舌で転がしている。
「もう〜ンMASAKIったら♡ ママ、お夕飯作んなきゃだからそろそろ離れるね?」
「やだぁーーーーいやいやママ離れちゃう、やだっ! やだっ! おっぱいいっぱい僕のエターナルおっぱいウエエエエエエーーーーーンッ!」
MASAKIくんがいやいやをしている。私の網膜に、腕を縮こめて頭をブンブン横に振るMASAKIくんが映っている。
ああ、違うのか……マザコンだからこそ、母親と同じ名前の女とは付き合えないのか。こりゃ勝てねえな☆
「んなわけあるかいコンチクショーーー!」
「ハッ! 春日さん、何故ここに!?」
「あら、お友達?」
思わず物音を出してしまったので見つかった。やっべ。
「なんてことだ……君に僕の日常を垣間見られてしまうなんて……」
「あ、はい……すんません」
「もう~ンMASAKI、ガールフレンド連れてくるなら言ってよね~ン、今日はお赤飯ね♡」
「君にこの姿を見られてしまったからには仕方がない……僕のマイソウル! 結婚してくれ春日さん!」
「はいごめんなさい無理です」
「おrrrrrrrrrtrr」ビタビタビタァ!
「ギャアアアアアアアアアア!」
「──ということがあったから私はあなたとは付き合えないの」
「え? どゆこと……?」
「つまり私はあなたの人格やポテンシャルは好きだけど、名前のせいであなたを愛することができないの。ごめんなさい」
「いやいや、ごめんなさいって……俺の名前マサキだけど、それがなんの」
「おrrrrrrrrrtrr」ビタビタビタァ!
「ひいいいいいいいいいっ!?」
マサキは、カフェテリアで盛大に吐いた私と別れた。儚い恋だった。
私は大学一年生になっても高校時代の傷を引きずっている。おかげで、マサキという名の男性と付き合うことができなくなってしまった。こういうときに限って『いいな』と思う人はみんなマサキだったりするのだからタチが悪い。
例えばアニメキャラで山本って美少女が出てくるとするじゃん? 山本さんめっちゃ巨乳で美人なわけ。でもリアルで知り合いに山本さんがいたら、もうそっち思い浮かべちゃう。アニメの山本さん見るたびに、隣の席の男子野球部の山本が頭によぎるんだ。
そうなったらもう山本は山本にエンタングルメントしてんの。高橋でも西田でも一緒だよ。『佐藤チーフにいびられた翌日に、佐藤という苗字のめちゃんこ可愛い彼女ができる』って二律背反に苛まれる可能性がないと誰に言える?
「あの……ハルカさん」
そして。
「あっ、すいません! 苗字を呼ぼうとしたのに、思わず……」
「ああ、いいよ。私の名前紛らわしいもんね。春日春香、どっちもハルハルで」
「いやほんとすみません、先輩」
「いいっていいって。このバイト始めてまだ一週間なんでしょ? えっと……」
「あっ、僕はメシヤです。飯野、救世主……」
──その人と、出会った。
「救世主と書いてメサイアなんです。俺の名前、メシヤ・メサイア。俺の親、頭おかしいっしょ?」
その笑顔が、素朴で素敵だったから。……
。〜。〜。〜。〜。〜。〜
↑これせーし
「ぱぱとままが結婚してわたしが生まれて、しゃーわせにくらしましたーめーたしめーたし」
「あら飯野春世ちゃん、太郎くんに読み聞かせしてあげてんの?」
「うんせんせーわたしねんちょーさんだからね」




