月だけ
「……彰」
「ん?」
泊まりなのだろうが、まだ布団を敷くような時間ではないと開け放った障子の向こうの夜空を見上げる二人の青年。そこにはまんまるな月が煌々と照っている。「彰」と声を掛けた方の青年は隣に座る彼を見つめた。
「月が綺麗だって僕が言ったらなんて返す?」
昌一の言葉に彰はそこまで驚かなかった。もう知っていたのだろう。
「月はずっと昔から綺麗だったって返すよ」
「そっか。……父さんは許してくれないだろうな」
「そうだな。でも昌一のとこだけじゃない。俺のとこだってそうだよ。許してやくれない」
昌一の家も彰の家も良家である。が、それ以前に同性婚は認められていないし、そんなことを言おうものなら頭がおかしいと言われる時代だ。二人は揃って溜め息を吐いた。
「時代って変わるものなのかな」
「変わってほしいけどな。できれば俺達が生きてる間に」
「それで父さん達の考えも一緒に変わってくれればいいんだけどね」
「はははっ」
彰は少し後方に傾き、戻りついでにそっと昌一の手に自分の手を重ねた。
「追い詰められたら逃げればいい。俺は昌一とならどこへでも逃げる」
「僕も、彰とならどこへだって行く」
駆け落ちなんてすれば騒ぎになることも、行く先が大変になることも、二人とも十分分かっていた。しかしそれだけの覚悟があったのだ。
昌一は重ねられた手を握り返すと、そっと彰に顔を近付けた。
「……誰かに見られるぞ」
「ううん。月しか見てない」
世界は、月だけが夜を照らしている。金の光の中で影が一つになり、彼らは互いに指を絡めた。
「……彰」
熱を帯びた視線が交わる。
口付けの温もりが消えない内に、昌一はもう一度彰に近付くとその頬を優しく包み込んだ。
読んでくださりありがとうございます。二人のフルネームを一応載せておきます。
春見昌一
辻野彰




