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一二章 幼少の記憶(四)

 

 音羅を必ず救い出す。

 そうは考えても、凰慈から連絡があるまで動けない。

 竹神家を頻繁に襲ったことと子欄を手放したこと。一見相反した行動だが、術者に繫がる因果の糸を常に残していないことから魔団が嘲笑っていることを酌み取れる。こちらが手を抜かなければ竹神家(そちら)は何もできまい、と。

 じつは、そこに魔団の中核メンバを割り出すヒントが潜んでいる。幼い頃から武術と魔法に秀でて多くのことに聡かったオトが先を読むことにも優れていたことから、尻尾を摑ませないことが何より気に障る、と、洞察した。そんな人間が魔団の中核メンバにいるのだ。惑星アースでの世界同時テロが魔団による最初の表立った活動と仮定して、葛神思による偵察と襲撃、感染性傀儡化魔法の仕込み、エント゠ウヴ゠エリー、ゾーティカ゠イルに続いて複数の佐崎文也、野原花、冬木敦也の襲撃があった。間を置かず父言葉真毎による襲撃を起こして音羅と子欄の略取に及んだが一貫して尻尾を隠している。慎重さはもはや言うまでないが、そこまで慎重に行動するのはオトを警戒してのことでもある。

「支配欲求が顕れすぎた傀儡化、くだらねぇぜ」

 玄関前で立ち番をしているオトの足許で、刃羽薪が手斧にうっかかってそんなふうに吐き棄てた。

「そう言いなさんな。人形ごっこが好きなのは幼な子も同じやよ」

「オマエも大概じゃねえか。揶揄んなら堂堂揶揄ろうぜ」

「誰より俺を支配したいんやろう。子欄を戻したのは、こちらが言いなりになるよう恐怖と憎悪と正義を煽る策だ」

「そんなことで煽られるオマエじゃねぇよな。端から正義を振り翳してなんかねえし」

「恐怖や憎悪はあるけどね」

「それで理性ぶっ飛んだか」

「全然。怠惰でよかったと心底思うよ」

「だな。オマエは執拗な魔団に応えてやってる。『乗るかボケ』ってな」

 音羅の身を案じてはいる。

 消息を摑めなくなった、と、報告したララナは綺麗な自覚などまるでなく疲れきった顔で涙を溜めていた。憔悴して倒れ伏してしまうのではないか。心配だ。

「オマエが心配してんのはララナのほうかよ」

「音羅は自分の身を守れんほど無防備じゃないと信じとるだけやよ」

「オマエが他人を信じるとは」

「意外でもないやろ。他人は他人でも、可愛い娘やよ」

「今度オトラに直接いってやれ。大層悦ぶぞ」

「再会後の一言は決まっとる」

「素直じゃねえな。魔団は、オマエを見縊ってる」

「おべっかどうも」

 一瞥の間に、オトは刃羽薪と微笑した。

「ところでオマエ、寝なくて大丈夫か」

「もともと夜型やし」

「知ってらあ。立ち番くらいプウに乗ったオレで十分って話だ。精神力、回復しきってねぇんじゃねえの」

「まあね」

 オトの足許、刃羽薪の脇には戦意全開のプウもいる。機敏な動きが得意でない刃羽薪をいつでも運べるよう、音羅を連れ去った魔団に反撃すべく勇んで立ち番に参加している。

「俺のほうはいいで、謐納のほうについてくれると助かる」

「オマエ一人のほうが動きやすいか」

「一人でもないし」

「そうだったな」

 オトの影に潜んでいつでも飛び出せる通称幽霊の三人がいる。

「オマエなら一人でもどうにかするだろうしな。ただ……」

 刃羽薪とプウは方針が異なっている。

「さらばだ」

 と、苛立ちを刃羽薪に向けて、プウが尻尾を振っている。いつも通りプゥとかピィと鳴いているが、オトや刃羽薪には鳴声がきちんと言葉として聞こえる。

「ふっざけんな。裏口まで歩いてけってのか。アホか、夜が明けちまう」

「知ったことか」

「オっマエ、そんな口ききやがって誰との特訓で素早くなれたと思ってやがんだ、オレが毎日運ばれてやったからだろうがこのポンコツヘビ」

「恩着せがましいな……。ポンコツはあんただ」

「恩を仇で返してっと、ぶっ飛ばされんぞ」

「誰にだ」

「んなの決まってんだろ。なあオト」

「喧嘩に巻き込まんといて」

「オトラがいねえんだからプウの教育はオマエの責任だぜ」

「メンドい」

「駄駄っ子か」

「パパはおれの味方だ。ざまをみるがいい刃羽薪」

「あ、こらっ、オトに擦り寄ってねえでオレを運べよ」

「一人で行け」

 ここまで不満そうなプウも希しい。

「ったく、聞かん坊だな。調教し直したほうがいいぜ」

「まあ、まあ、仲良くしなさいよ、プウだって好きでツンケンしとるわけやない」

「そんなことないが」

「だとよ。反抗期みたいだな」

「煽んな。音羅のことで苛立っとるだけやよ」

「そりゃそうだろうが」

 刃羽薪の手前、否定も肯定もしないプウ。子欄が戻って悦んでいる一方、連れ去られたままの音羅をひどく心配している。

「音羅を取り戻せんくてすまんね。もう少し待っとって」

「パパのせいじゃないから、謝らなくていい」

「優しい子やね、プウ。お前さんのその優しさが、音羅の消息を摑むために必要だ」

 子欄には特別に深い仲の分祀精霊がいないため捜索手段が限られていたが、音羅はそうではない。生まれた日から一緒にいるプウが、音羅のいるところには出没可能だからである。が、

「駄目だ、こんなじゃ……」

 と、プウが項垂れている。音羅が連れ去られたあとから、プウの意志で音羅のもとに出没できなくなっているのである。分祀精霊が親しい相手のところに出没できるのは、ある程度行きたいところへ行けるから、と、いう極めて単純な仕組で成り立っている。が、単純ゆえに阻まれやすくもある。オトも経験がある、結界だ。プウが音羅のもとへ行きたい、と、いつも通りに思って移動しようとしても、音羅が結界に閉じ込められていると移動できないのである。そして、個人を狙った出没は概ね因果の糸を辿ることで成り立っている。音羅が因果の糸を切られたことで、プウは音羅のもとへ行けなくなってしまったのである。

「しょげてもしょうがねぇだろ」

「煩いぞポンコツジジイ」

「プウ、言いすぎ」

「うぅ……」

「しょげてもいいよ。しょげんほうがおかしい状況だ」

「……パパは、冷静だ」

「俺や刃羽薪は不自然やから気にするな。お前さんはそのままでいい。そのまま、音羅のことを想っとればいい。俺はそれが嬉しいし、そうでなければ、音羅を見つけることはできん」

「切れた因果の糸、また繫がると思う」

「繫がる。確信しとるよ」

「どうして」

 不安で不安で仕方がない。その表情は、結界の向こう側にいたララナを思わせるものだ。気持も解る。だからこそ、プウの懸念を払拭できるとオトは考えている。

「俺と羅欄納も切れたよ。辿れんように俺から切ったこともある」

 当時、オトもララナも掘り下げなかったことだ。年長三姉妹や佐崎文也とのことなどがあって家を出た際に、オトは家族との因果の糸を切って居場所を特定されないようにしていた。そのあと、謎の結界でも予期せず切れた。そうして、オトと家族との因果の糸は何度も切れてきた。でも、その都度、繫がってきた。

「大丈夫。心から繫がりたいと思っとるなら、必ず繫がる。待っとるのがえらいなら、結びつけるくらいの積極的な気持でおるといい」

「結びつける──。もとより固くなりそうでいいな」

「ん。お前さんと音羅が互いを軽んずるようなことはない。だから大丈夫」

「……解った。結びつける気持で、待つ」

「ん、いいね、その意気。頑張れ」

 決意のプウの頭を指先で撫でて、オトは足許の刃羽薪に目を移す。「裏口に送るわ」

「特異転移だな。頼むぜ」

「待て」

 プウがするりと地面に降りて、刃羽薪の前に胴を寄越した。「乗れ」

「素直になったか」

「準備運動だ」

「そういうことにしておいてやるよ」

「おれはここに戻る」

「勝手にしろ」

 プウが刃羽薪を裏口へ送ってすぐに戻った。

 ペンシイェロの木と果実の香りが心地よい、夜風の囁くモカ村の夜だ。フロートソアーのある村の南端では篝火を置いた男性陣が立ち番をしている。竹神邸からは、畑、タチ家とサカキ家の通り、広場、それから水田を越えた向こう側に篝火がちらと覗くくらいだが、魔物を警戒する男性陣の気配を感ずる。

「なあ、パパ」

「なん」

「今度音羅が帰ってきたら一緒に飛びたい」

「飛ぶって、音羅の炎でか」

「夜月ちゃんの氷でもいい」

「怪我せんようにね」

「音羅となら愉しい。今は……つまらない」

「大喜利でも、って、俺にそんなスキルはないから、尻取りでもするか」

「遊びが幼稚だ」

「歳の隔たりなく遊べる」

「……。おとら」

「ららな」

「なつき」

「って、家族縛りなん」

「早く。き」

「っふふ、愉しそうやん。きょうだい」

「いもむし」

「食べたいん」

「あれは食べ物なのか」

「ヘビなら丸吞やない」

「お米のほうがいい」

「カレーも好きやもんね」

「おいしい。また、食べたい」

「今度、一緒に作ろう。音羅ともね」

「食べるのが専門だろう。パパもな」

「音羅ならプウが誘ったら手伝いくらいはするかもよ」

「そうか」

「そうよ。しあわせ」

「せ。せ、……せくらべ」

「今や音羅より大きくなったもんね」

「音羅が小さいだけだ。べ」

「べんきょう」

「嫌いだ」

「音羅と同じで主に座学やろ」

「うん」

「アウト」

「えっ、今のは返事で尻取りじゃないんだが。うそだろ」

「単語で」

「じゃあ、うそ」

「そば」

「ばった」

「食べたいん」

「お米がいいんだよ」

「お前さんも立派にダゼダダの子やね」

「当り前だ。パパもお米が好きだろう」

「せやね。……」

「どうかしたのか」

「いや、ふと昔をね、思い出した」

「ふうん」

 プウとのんびり尻取りをしていたら、思い出してきたことがあった。

 

「──ダークマタ」

 と、堤端総が答えて、次はオトの番になる。そのあとは、田中淳、結崎桜、二室ヒイロ、坂木葵と続いて堤端総に戻る。

「たましい」

「いもむし!」

「やだ!淳、しけい!」

「なんでだよっ、シケイっていったやつがシケイだ!いじめんな!」

「ないちゃえ!」

「うわっ、叩くなよ!」

 淳と桜がわちゃわちゃやり出すと、

「ボクの番が回ってこない……」

「さすがは影薄ヒーロね」

 と、ヒイロと葵も別のやり取りを始める。

「尻取りさえまともにできないのか、ぼく達は」

 と、総が苦笑した。総の家の離れは子どもの遊び場と化している。

「ところでオト、魂なんて言っていたけれど、そんなものが本当にあると思う」

 と、葵が尋ねた。「あるのなら、テレビに出ているインチキ霊媒師や霊感ありますみたいな連中に本物が混じっている可能性があるということになるわ」

「あると思うよ。見えへん存在、精霊や幽霊ならそこら辺にいくらでもおるもん」

 オトにはいろいろなものが見えていた。亡くなったひとの霊は勿論、存在はしていても普通は見ることができないという精霊などだ。人間相手に話すことが少ないという存在達に希しがられて話し相手になることも多かった。

「ここにも堤端家のご先祖さんとかがちらほら──」

「や、やめてよオトっ」

 と、桜が恐がる一方で現実主義的葵が信じない。

「あんたにはそうでもこの眼で見えないものは信じるのが難しいわね」

「ソウがねしょうべんタレてたのがいつかきけばいいんじゃね」

「ハナ垂れにしては名案ね。オト、どうかしら」

「いいかも。訊いてみよっか」

「あ、淳っ、余計なこと促さないで!オトも訊かないでお願いだからっ」

 と、総が真赤な顔で慌てるのでオトは訊かないでおいた。

 お年寄のイメージを絵に描いたような深い皺を何本も蓄えていて怒ったら恐そうな総の先祖は、わいわいとやっている子どもを眺めてその顔をとろんと綻ばせていて、とても愉しげだった。オトが出逢った幽霊や精霊の多くは、そうして友好的で穏和だった。

 ただ、ときどき──。

 

「──どうしたんだ」

 思い出話が途中で止まった感を覚えたのだろう、プウが首を傾げて覗き込んできたので、その口を押して引っ込めさせ、

「いや、なんでもないよ」

 と、オトは応えつつ、不可思議な記憶を内心掘り下げる。

 ──あの子はサロンに参じている。

 と、唐突にわけの解らないことを言った総の先祖が呪い殺しそうな目差で見つめていたのは総の母堤端(つつみばた)公代(きみよ)だった。

 サロン。直訳すると社交場だ。

 堤端家とは、ダゼダダ屈指の旧家であり名家であり資産家であり、世界三大産業に数えられる魅神産業の当時社長であった魅神漲を支える右腕堤端公博(きみひろ)が当主であった。堤端公代はその妻であり、ほぼ引籠りのような生活を送っていることで知られていた。が、通信技術を利用した在宅ワークを得意とし、夫堤端公博を支えるキャリアウーマンの実態があった。レフュラル表大国に本社を置く魅神産業とは別に堤端公博が運営する堤端産業がダゼダダの経済の一翼を担っており、社長である堤端公博はもとより妻堤端公代は参じたくなくても社交場に参ぜなければならない存在といえるだろう。それだというのに、堤端家の先祖の霊はそれがあたかも不自然かのように「サロンに参じている」と言ったのだ。先祖の言葉こそが不自然と捉えるべきであり当時のオトもそう捉えて特別な注意を傾けてはいなかった。

 しかしだ、記憶の砂漠を得て創造神アースとの意識共有を前に心を殺して忘れていたあの過去をふと思い出してみると、いま持っている親としての心や昔に持っていた子としての神経が張り巡らせた情報整理の網に何かが次次に引っかかって無関係のようだった情報に繫がりがあったことを捉えた──、ような気がした。

「パパ。尻取り」

「ん、ああ──、せやね」

 感覚は、気のせいではない。「間違いなく、サロンはあった、か──」

「さろん。なんの話だ、尻取りを仕切り直しているのか。だとしたら早早にアウトだが」

「いや、いや、違うよ。仕切り直しでもなくて──」

 仕切り直し。その言葉に、さらに何かが引っかかった。

 

「──そう、わたしがこの国を変える。そのためには──」

 そう聞こえて、オトは物陰に隠れた。

 叔父言葉真国夫の声だった。

「けどあの人達はババアと懇意だったんでしょう。うまくいくわけ」

 叔母言葉真恒子と話しているようだった。

 ババア、とは、言葉真恒子の義母言葉真鷹音のことだ。表では「お義母さん」と親しみを込めたふうで呼んでいたが、亡くなったら故人の暮らした家の中でもお構いなしだ。

「音。耳に毒だ。帰りぃ」

「お祖母さん……」

 一緒に物陰から様子を観ていた祖母こと言葉真鷹音の霊の耳打ちに、オトは小声で応えて、外にいた父のもとへ静かに移動した。去り際、

 ──大丈夫だ。わたしならこの国を仕切り直せる。

 そう、聞こえた。

 

 〈サロン〉は、言葉真本家にあった。

「パパ、次は何か憶えているか。た、だぞ」

「ん。じゃあ……たましい」

 言葉真家の家紋は〔霊〕すなわち、魂を意味する文字だった。

「いぶくろ」

「ろくろ──」

 サロンという集まりは、言葉真鷹音が亡くなった後、言葉真国夫が引き継ぎ、それまでのように回り出したかのようだった。が、

「ろくでなし。魔団のことだ」

「しっぱい。そうやね──」

 長年サロンに参じてきた面子・血統が、言葉真国夫の思想に触れるや不参加を示すようになった。

「また、い、か。い、……いじ!」

「じせい」

「またか!い、い、……いも!」

「もんだい」

「えっ!い、……いぃ、い──」

「い、は、いっぱい、あるからガンバー」

「さりげなく、いっぱい、を、出しにくくしないでくれっ」

 サロンを横の繫がりとし、世界も同じであるとしていた言葉真鷹音に対して、サロンを中心としてダゼダダを保守的な国から革新的な国へと作り変えようとしていたのが言葉真国夫だった。ところが、サロンの面子が散り散りとなり野望は儚く潰え、集まりに意味がなくなり、言葉真国夫は孤立した。およそ五〇年前、芋蔓式に罪が発覚して逮捕されることとなった言葉真国夫と此方(このかた)(みつる)はサロン継承以前からの繫がりであり、サロンの自然消滅とは関係なく反社会的活動・犯罪行為に及ぶ危険な関係を築いていた。

「イマジネーショ〜〜ネーショ〜〜〜ニスト」

「なんやそりゃ。イマジネーション、で、アウトね」

「くっそぉ〜!もう一回っ!」

「っふふ、いいよ──」

 イマジネーション。想像は、創造のラフ画のようなものだ。

 自然消滅したサロン。言葉真国夫が描いた独善的思想。攻撃兵器を先手で用いることを標榜した火箸凌一政権。ひとを道具のように扱った言葉真国夫と此方充──。

 

 父と合流する前、靴を履いていたオトに祖母がさらに耳打ちした。

「憶えておきな。ひとにはいくつもの顔がある。ゲゼルシャフトだ」

「株式会社のことかな」

「何かを共有して機械的に動く集団をわたしはそう呼んどる。例えば、善の個が集まって悪の集団になったとき、悪行も辞さないのが機械的動きということさ」

「……どうして今そんなことを話したん」

「そんなもんに吞まれんじゃないよ、って、忠告さ。あんたがその力を持った理由は誰にも判らんが、力を持ったもんには持ったもんの責任がある。同時、狙われることを理解し、自分のことはもちろん巻き込まれるもんをも守る責務がある」

「なんか理不尽な話やね」

「理不尽でも奪われたら終りだ。命に等しいもんなのさ」

「……」

「責任と責務を、その力を通してきちんと考えることだよ。いいね、音」

 自分の母親の幽霊と立ち話をしていることなど知らぬ言葉真毎がやってきて、

「さっきから何をやっとんや」

 と、訊くので、オトは、

「ちょっとお祖母さんと──」

 と、言いかけて、まっすぐ振り下ろされた拳を頭頂部に食らった。

「お袋の話なんかすんやないわ、アホんだら」

「ごめんなさい……」

 亡くなった実母のことに不躾に触れてほしくないのは当然のことだった。オトは頭頂部の痛みを父の痛みと覚え、反抗しなかった。

 

 堤端公代の不自然の理由は、その当時には消滅していたサロンに関係していたこと。すなわち言葉真国夫と思想を同じくしていたと目されたことであり、先祖の霊によれば注意に値する危険性を持っていた。そんな堤端公代が息子総の逮捕後、オトに一度だけ接触してきたことがある。ダゼダダ外周県の竹神家本邸に続く長い長い階段の途中、屋外だった。逮捕される要素を持ちその要素を間引かなければ総がより一層歪んだ道へ踏み出しかねなかったことを堤端公代は危惧していた。期せずして間引を代行したオトに礼を述べに来たのだ。と、オトは納得していた。在宅ワークを主とする堤端公代がわざわざ外に出てきたことにわずかながら不信感を覚えていたが、我が子への愛情に勝るものはなかったのだろう、と、音羅の誕生後であったから納得したのだ。

 サロンに参じていたことのみを捉えるなら、総への愛情と比して同等かそれ以上の意思を堤端公代はサロンに対して持っていた、と、いうことになる。言葉真国夫の独善的思想を、革新的な国の標榜を、共有していたということになるのだ。が、総の矯正の礼を述べにやってくるような堤端公代とは人物像が掛け離れている。ならば、堤端公博やそれ以外の()の意思が働いていた可能性が出てくる。善が集まり悪と化した集団、言葉真鷹音の示したゲゼルシャフトとはまさにそれだろう。その点を探れば、およそ五〇年前に公となった相関図、すなわち言葉真国夫とともにダゼダダの防衛機構開発技術を流出させていた魅神(みかみ)(みなぎ)の名が浮かび上がる。魅神漲が上に位置し、名代または伝令として堤端公代が動いていた、と、いうことだ。それなら、各個の意思と集団としての性格、社会的体裁などの折合がついておりオトも納得できる。

 と、そもそもサロンのことを掘り下げて考えているのは、言葉真国夫の思想で動いたサロンのメンバこそが魔団の中核となっているとオトは推測しているからである。

 それは突飛なようではあるが、サロンの後進が魔団であるのなら、オトへの感情を隠さない魔団の行動や慎重さ、徹底的な調査に納得がゆくのだ。オトのことを幼い頃から観察できたサロンのメンバなら魔法や家族に関する情報も十二分に集積でき、竹神家全体としての聡さを警戒する慎重さも持ち得る。さらに、動機の面が何より重要だ。言葉真国夫のサロンと知らず知らず思想を異にしていたのがオトだったのである。対話と融和を謳ってテレビ出演していたオトは、攻撃兵器の使用を是とした革新的かつ攻撃的な思想を持っていた言葉真国夫率いるサロンを真向から否定する思想を持っていた。そんな幼少期のオトを、サロンは目の敵にしていたのである。

 しかしながら、そうしてサロンが魔団に変化したのだとしたら、一つの大きな問題が浮かび上がる。言葉真国夫と言葉真恒子が亡くなり、サロンのメンバを率いる存在に変遷が生じているであろう点だ。堤端公代ひいては堤端公博に積極的な参加の意思があったとは考えにくい。というのも、人格以前に、参加の痕跡がない。それは言葉真本家などを家宅捜索した広域警察や世界魔術師団が証拠物件を押収できていないことから判明している事実である。堤端家の先祖の霊から聞かされなければオトも知ることがなかっただろう、堤端公代のサロン参加は、飽くまで魅神漲の名代・伝令でありその内容を知らなかったために刑法抵触には及んでいなかったと考えるのが妥当、もしくは先祖の霊の勘違い、と、いうことさえあり得るのである。ならば、言葉真国夫・恒子夫妻からサロンを引き継ぎ魔団を率いているであろう人物は誰か。現状は、関係が公になっている魅神漲しかあり得ないのではないか、と、いう考えが成立し得そうだがそれもオトの感覚としてあり得ない。何を隠そう、前任者たる言葉真国夫・恒子夫妻は勿論魅神漲にも不知得性魔力を認識し操作する魔法的才能がなかったからである。

 あるいは、そこに落し穴があるのだろうか。常識的推察を超えた何かがあって、魅神漲が魔団の中核と成り得たのか──。

 その昔から、王家やそれに類する血統は先祖の魔力を継承するということをしている。テラノア軍事国国王やレフュラル表大国国王がその代表例。ダゼダダ警備国家においては大神家当主がその位置にある。継承されてきた魔力には不知得性魔力が含まれていることがある。一般的に、無魔力個体と比して生来宿した魔力によって有魔力個体が多くの能力に恵まれるように、魔力継承を行ってきた血統は能力的に極めて優秀だ。継承されてきた不知得性魔力に適合して特異能力を受け継ぐ者、または、突然変異的に特異能力に目覚める者がいるからである。大神家の特異能力〈遠見〉を例に挙げれば、当代大神凰慈が観られる範囲が「現在の広範囲」に限られる一方、歴代大神凰慈には「過去の狭い範囲」や「正確な未来」を観られる者がいた。これは、不知得性魔力との適合の差があったからである。そのようにして、特異能力を受け継ぐ一握りの血統と同じことをしてきた人間こそが魔団の長または主要メンバと考えれば、魔法的才能においても一連の魔団騒動を起こせる人物が何人か存在する。

 ここで、推察できた魔団の長または主要メンバの持つ特徴を四つに纏めよう。

 1、魔力継承を行い膨大な魔力を持つ。

 2、特異能力を継承または特異能力を覚醒した可能性がある。

 3、言葉真国夫主催のサロンに近しい性格を持つ個人または団体。

 4、これは少し意外なようだが──、殺人に及んでいない。

 注釈は三つ。

 1、人数が一人か複数か未だ不明。

 2、言葉真国夫主催のサロンと無関係の可能性がある。

 3、不殺が理念か否か不明。

 まず、魔力に優れる者が魔法耐性に優れることから特徴1は間違いない。根拠は、歴代国王から魔力を継承し極めて強い魔法耐性を獲得していたエント゠ウヴ゠エリーを傀儡にできたことだ。特徴2は補給先もなく精神力消耗を無視した無数の空間転移で断定的、また、傀儡系などにいえることで、継承によるものか覚醒して使えるようになったかまでは定かでない。特徴3は注釈2とセットでの説明となるが、言葉真国夫と同じような思想家がゼロではなかったことから、サロンに不参加でも思想のみを継承したように観える行動を執っている可能性が残り、必ずしもサロンの関係者に限らないという意味である。特徴4は注釈3を含めての説明で、死者の再生を行ってはいるもののわざわざ殺した相手を傀儡にした証拠がないという意味であり、桜神甚による大神凰慈刺傷が殺害に至らなかっただけとも考えられるため不殺を理念としているとまでは断定できないものの、惑星アースの世界同時テロを含めても事実上死者が出ていないことから暫定的な特徴として挙げておく必要があった。最後に注釈1であるが、魔力を継承した人間なら一人で何十人分もの働きができるため人数を特定することが困難ということである。実際の出来事に置き換えて考えるなら、傀儡の術者と空間転移の術者は一人ずつ存在すると考えるのが妥当だったこれまでと違い、魔力継承を前提とするなら一人でこなせることと見做せ、構成員の推定人数に差が生じてしまうのである。

 さて、肝心なのはこれら特徴と注釈に当て嵌まる人物である。オトが新たに魔団と推したのは、魅神漲に続いて大神凰慈、それからエント゠ウヴ゠エリーの息子フェルェール゠ウヴ゠オルオと亡きゾーティカ゠イルの息子ネペル゠イルである。サロンの性格は隠し得るため今は問わないが、四者は、大企業の元社長、国王、宗教団体の纏め役という具合に「長」を経験している。仕事で人員を動かす立場にある以上、ひとを適所に配置する能力を磨いている。人格を問わず下の者を動かす能力が身についている。これは傀儡を動かす上で必須の能力だ。そもそも傀儡を用いることを選択した魔団の慎重さや嫌らしさとも合致している。最も得意とすることで勝負したほうが手堅く、安全と考えるのが合理的だからだ。それが通常は認識することのできない不知得性の特異能力ともなれば使わないのはいっそ不自然である。事実、魔団は魔法と見做せる不知得性の傀儡化や空間転移を用いて尻尾を隠し通している。また、魅神漲以外は先祖や他者から魔力を継承した人物であるから特徴1・2と合致する。ここで、注釈1・3を踏まえて納得できる考え方が湧く。

 とどのつまり、先に挙げた四者が、魔団の主要メンバである、と、いうことだ。魅神産業の元社長で情報収集・分析に優れる魅神漲がオトや竹神家の情報をつぶさに調べ上げ、魔力継承を行った三者が人数を摑ませず不殺の理念を掲げているか否か悟らせず実働して竹神家に直接的・間接的な攻撃を仕掛けてきているとすれば全てに辻褄が合う。言葉真国夫主催のサロンの性格を受け継いでいるように観えるのはそれぞれが国や企業のトップであるから、言葉真鷹音がいうところの機械的に動く集団(ゲゼルシャフト)の性格を帯びたと考えられるのである。

「パパ、考え事か」

「ん、まあね」

 尻取りの決着から一〇秒も経っていない。その間に考えていたことをオトは遠隔で掲示板に記して家族が確認できるようにしていたが、プウにも端的に伝えた。

「──、と、なれば、凰慈さんの動きは自作自演になるが──、……」

「が、何」

「いや、傀儡の甚さんから刺されるのは勇気が要るやろ。俺なら無理やな、とね」

「パパに勇気がないのは家族全員が知っている」

「情けないかな、ご尤も」

 人間的に若い外見を保っているものの長年の引籠りだ。精神的には良くも悪くも擦れて丸くなっていてもよく、ひとと接することに勇気など必要ないほどには慣れと経験を積んでいなければならず、痛みに対しても同様であっただろうか。

「自傷ならともかく。いや、傀儡が自分の操作で動くからには安全性は担保されとるわけやしな、勇気も勇気でないということかもな」

「大神凰慈がもし敵なら、しーちゃんを取り返させたのはなんでだ」

「羅欄納の目を逸らしたかったのかもね。こちらが遠見を頼るのは魔団に取って既定路線やろうから、凰慈さんは子欄を利用した陽動役。案の定、羅欄納が子欄に食いついとるあいだ、また、海上で音羅を捜しとるあいだに凰慈さん以外の誰かが音羅を別場所に隠したと考える」

「パパはこれからどうするんだ。大神凰慈を叩くのか。それとも、別のやつを叩くのか」

 血気盛ん。刺さるような目線が向かってきたので、オトは首を振った。

「音羅の居場所を摑むためにもしばらく泳がせよう」

 オトは欠伸と見せかけて掌で口許を隠して話していたため声を拾えない大神凰慈の遠見で発言を捉えられることはないし、プウに至っては表向きプゥピィとしか言っておらず口の動きがほぼ一定だ。大神凰慈のもとに織師を張りつけたのは警護としてだったが、状況が変わった可能性があるなら役割を柔軟に変化させることも考えなければならない。掲示板に情報を加筆すると同時に、オトは分祀精霊の面面に情報共有して警戒を促しているので、惑星アースにいる織師にも話が通ずる。

(──、織師、事情を吞み込んだかね)

(普段働かない分、しっかり働くよ。と──)

(どうかした)

(ちょっと、驚くことが。──)

 と、織師が言って、状況を伝達し始めた。

 

 

 緑のサクラジュを仰ぐ恰好で瞼を閉じていた大神凰慈の肩に、織師は張りついていた。オトの推測が正しいなら、大神凰慈の遠見はポーズでしかなく音羅がどこにいるか見えていても教えるつもりがないということになる。

(オオミワオウジ。選りに選って、わたしたち分祀精霊を祀るキミが魔団なのか)

 当初は警護のためであったから周囲を警戒、いつでも布を広げられるように心構えもしていたのだが、オトの推測で一八〇度やることが変わりそうだ。

 オトの送ってくる情報をしっかり受け取りながらそう考えていたときだった。想定外のことが起きた。

 サクラジュの前、大神凰慈の目と鼻の先を横切るようにして巨大な影が現れたのである。四足歩行の獣のような影は高さ九メートルに達し、サクラジュのように見上げる位置に精悍な顔があり、蹄付近の脚首から霊的な土煙が立っている。

(──。〈ミワナ〉が、現れた……!)

霊蹄(みわな)が)

(なぜ今ここに……。すまない、動揺してる、ちょっと待ってくれるかい、オト……)

(構わん。呼吸を整えぇ)

 一〇〇〇年に一度現れるか否かの霊蹄。古くから八百万神社を纏める大神家もほとんど文献を遺していない稀有な存在だ。その力は極めて強く、浄化されきっていたはずの神社内の空気をなお一層に浄化してゆく。そこにいるだけで仲間である織師さえ圧し潰されそうな存在感がある。織師と力量差に天と地ほどの差があるのは、数多存在する八百万神社を纏めるここ八百万神宮で祀られている存在こそが霊蹄であるから。端的にいえば霊蹄は分祀精霊の頂点たる存在なのだ。それゆえに、霊蹄はダゼダダのひとびとの信仰を集めており、ほかの分祀精霊が畏敬の念を込めて〈(おもて)本尊(ほんぞん)〉ともいつからか呼んでいる。

 気配を察したのだろう、瞼を開いた大神凰慈がわずか驚きを示した。

「あなたは……まさか霊蹄(れいてい)

 霊蹄のことを大神家ではそう呼んでいる。

 神社における信仰対象が──厳密には全く異なるものであるが──元来「神体」である一方、八百万神社では「本尊」と称するなど不可思議な状況にあることと同じように、同一の分祀精霊であっても呼び方はさまざまであったりする。先代大神凰慈に言わせればそれがこの国のよさなのであろうが。

 大神凰慈の声に応えるように、霊蹄が尋ねる。

「きみが当代大神か」

 サクラジュや大神凰慈をも背景にしてしまう圧倒的な存在感と裏腹に柔和な声調だ。

 大神凰慈がお辞儀した。

「大川雛子です。母砂子(すなこ)より襲名しました」

「不安定な世に立ち未来を羽ばたくいい名だ」

「恐れ入ります。霊蹄に仰っていただけて母も悦ぶでしょう」

「うん。ぼくは地に足をつけたい」

 霊蹄がサクラジュの向こう側を視るように顔を傾けた。「気をつけるといい。未曾有の危機が迫っている」

「未曾有の危機、とは」

「外法の力が世界じゅうに穴を空けた」

「空間転移のことなら、恐らくは、規模不明の魔団と仮称されている存在によるもので、あ」

 大神凰慈が何かを閃き、口にする。「霊蹄、その穴を何が通ったか判りますか」

 ……オトラとコランのことを訊いてくれている。

 オトの推測が外れているのか。それとも、絶対に見つからないと判っていて魔団の一員であることを隠すための発言か。

 霊蹄が大神凰慈にではなく、織師を見つめて語りかける。

「ぼくはみなを見つめている」

「見つかってるのか。それとも、見つかってないのか」

「ぼくは、きみとは話していない」

(自惚れた……。ミワナはオトと話したいようだ)

(フラフを霊蹄に送って)

(解った)

 オトの指示を受けた織師は、大神凰慈の通信用に預かっていたフラフを霊蹄に渡した。

「久しぶりだが挨拶を省く。みんなを視とるなら魔団の構成員を教えてくれんかね」

「判らない」

「娘を人質に取られとるから余裕がない」

「ここでのやり取りを観ていたから判っているよ。生きるためにどうすべきか考えるんだ」

 先手を打とうにも尻尾を摑めない。

「他力本願で悪いが霊蹄の感覚を頼った。知っとることがあるならなんでもいいから言って」

「きみはもう気づいているはずだ。きみの力を使えばいい」

 ……オトの力を──。

 何もかもを自由にする力がオトにはある。使っていいものなら、とっくに使っている。

「音さんの力とは」

「それは──」

 大神凰慈の質問に待ったを掛けたのは霊蹄だ。

「ぼくは今、きみとは話していない」

 威圧的ではないが明らかに拒否されている。その態度からすると、霊蹄も大神凰慈を疑っているように感ずるが他意はないのだろう。釘を刺すように織師にも目を向けている。

 先程の霊蹄の問に、オトが答える。

「使わんと決めとる。使えば、──同類になってまう」

「アース。それとも鷹音」

 ……──。

 その問に息を吞んだのはその場では織師だけだった。オトは即答していたのである。

「どちらもだ」

 と。

 世界の全てを道具のように扱ったアース。

 戦争を止めるためにダゼダダを蹂躙した鷹音。

 軽蔑と尊重。評価を分けた二者を同じように扱うことにオトは躊躇いがない。比類なき力を持った責任と責務、子時代に投げかけられた宿命を放棄することはない。それらを擲つように悲惨を招く使い方も、その使い方を選ぶことも、絶対にしない。

 

「ひとの生殺を決めた時点で同類だ」

 

 ……オト──。

 一言一句を嚙み締めるように時を置いて、霊蹄が問う。

「きみはひとを殺さない。信じていいんだね」

 呟くようにそう問いかけた。

「信じる・信じないをひとに問うな」

「それでこそきみだね、この国そのもののようだ」

 霊蹄がとんと飛んで、岩を砕くように宙を幾度か踏み鳴らして姿を消した。

「魔団は轍を踏んでいる。ぼくは、きみを信じるよ」

 サクラジュの枝葉を鳴らして、霊蹄の声が届く。

「きみの選択が正しい。時はないが待て。きみの心の前に、真実が必ず炙り出される」

 重苦しいほどの加護が弱まり、もとの空気が戻ってきた。どうやら霊蹄が去ったようだ。

(き、緊張した……)

 ふわりと戻ってきたフラフを大神凰慈に渡して、織師は個人的にオトとやり取りする。

(踏み潰されるかと思ったよ)

(仲間を疑うんやないよ)

(知ってるだろう。雲の上の存在だ、目にすることがあるとさえ思ってなかった)

 確実にオトの間近にいると判っている存在なら驚きを隠せるが霊蹄はその類ではない。

(ああびっくりした、まだしてる)

 蚤の心臓なら潰れていた。サクラジュを仰ぐ大神凰慈を、織師は額の汗を拭って一瞥した。

「あれが伝説の存在、霊蹄、……はあぁ……」

 織師と同じように額を拭っている。緊張の糸を緩めた表情が吐息を漏らしたまま固まってしまうのも無理からぬことだ。

(敵意や悪意を感じない。オウジは味方と観ていいと思う。無論、個人への感想であって団体となればどうなるかは判らないが)

(霊蹄の言葉を一つの証言と捉えるなら現実みを持った納得の結論に近づけた)

(オウジら四者が魔団の主要人物という推測とは別の結論、と、いうことかい)

(ああ)

 オトは詳しく話さなかったが、(凰慈さんの警護、よろしく)

 その一言で、オトが別の結論へと目を移したことは明白だった。

 

 

 魔団の真相は、どこにある。

 音羅を助け出すために、家族を守るために、オトはそれを探り、考えた──。

「パパ……また考え事」

「──いや、終わったよ」

 噓ではない。霊蹄の言うことを鵜吞にしたのでもなく、「時を待とう」と、オトはプウの頭を撫でた。

「おれは悠長に待っていられない」

「なら、一つ憶えとりぃ」

「……、何を」

 プウの眼を、オトは見つめた。

「音羅のことを想い続けなさい。細る燈が消えぬよう、見つめ続けなさい」

 逸れぬ眼が、真剣に応えた。

「当り前だ。おれと音羅はキョウダイなんだから」

「ん、ありがとね、プウ」

「ふふん」

 頰をぺろっと舐めたプウの頭をもう一度撫でて、オトはペンシイェロを見上げた。

 

 

 

──一二章 終──

 

 

 

 

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