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に・ち・よ・う・び
あの入道雲まで長いはしごをかけて、のぼってみたいな。弥宵はゆうべの、おなかにまで鳴り響いていたお祭りの花火を想い出していた。
琴己と浴衣着て、行きたかった...
琴己、名前は女性みたいだが、42才の紳士だ。一方弥宵は琴己の2つ年下の40才レディ。ふたりともマイペースな性格で、彼らはこれまでずっと独身だ。琴己と弥宵は絶賛すれちがい中。
炎のようにすべてを焼き尽くすかの極くのやきもちをまたまた弥宵が焼き、琴己はもううんざり。
だいたいにこんな嫉妬深い弥宵が恋人と同じ職場であること自体不運だ。ふたりはカフェで働いている。
ある夜、電話で・・・
「麗子と今日仲良さそうにおしゃべりしてたね!琴己。」不意におしゃべりの途中で切り出した弥宵。
「ン?ああ…。」琴己にしてみればまた始まったか、という感じ。
「麗子とあたしどっちが好き?」
「弥宵?」「はい...」「どうしてそんな解りきったこと訊くの。」「あたし、淋しかったわ!」「しょうがねーじゃん。同僚だし。」「そうよね!」「・・・。」「麗子とあたしどっちが可愛い?」ハー...っと琴己はため息をつく。「弥宵に決まってるでしょ。他の女性をね、そんな目で見てないからオレ。」「あんなに笑って、嫌だったの!とにかくっ。」
琴己はどちらかというと口下手で、自分から愛を囁くのが苦手だ。いつも弥宵に半ば強引に言わされている。
「ネェ琴己?あたしを愛してるぅ?」「愛してるよ。」優しい声で返す琴己。「あたしだけぇ?」「弥宵だけだよ。」ちょっぴり呆れながらも返してやる。
夏祭りへ行く約束をしていた。だのに。楽しいデートの直前そういった類の弥宵の嫉妬が発令し、激しい言い合いが始まった。琴己はついに言った「もう花火大会中止!」
それも電話だった。
だいたいに琴己ってすっごく「おひとりさま」を好むのだ。お祭りデートの約束にこぎつけただなんて、弥宵にとってはミラクルのようなものだった。
大泣きしはじめる弥宵。「もういいわよ!」ガチャリ。
家からは花火が良く見える。それでも会場へ行けば人々の笑顔と活気。屋台の良い匂いにお祭り灯り。
ふたりは意地っ張りを辞めればどんなカップルよりもアツアツだ。楽しかったろうな...
日曜日なんか大っ嫌いよ!弥宵と琴己の勤めているお店は日曜日が定休日だ。
だからあたし、雲の上に載ってあそびたい。見渡す限りの空の神秘と一つになる。
もしも・・・もしも梯子が倒れ、地上へ下りられなくなったら
きっと琴己が背中に大きな翼を生やし、迎えにきてくれるわ。あたし、わかるもん!
なんとなくお店には、ふたりのおつきあいを内緒にしている。交際1年半だ。
弥宵は言いふらしたい。でも琴己が「仕事がしにくい」と言う。
溶けそうな暑さに蝉の鳴き声も頼りない。
アイスコーヒーが入ってるグラスは汗をかいていて 中で氷が、動いた。
シャーベットの雲にしよう!ゴロゴロしてたら穴があくから
あたしのスーパーマンがかならず飛んでくるわ・・・!
※挿絵は「みてみん」サイトの「横山雪之丞 様」によるものです!
綺麗な景色を...みていたい。