ふわふわ ちゃぷちゃぶ ざぶーん
今日は雨なんですよ、雨のつもりになってみました
ふわっ、ふわっ、ふわふわ〜〜ん。
きもちいいなぁ。あったかくて、やわらかくて、まるでおふとんのなかにいるみたい。
「……ん?ぼく、いま、なにになったの?」
なんだか体がぷるんとしてて、すこしだけひんやり。
でも、このふわふわのなかではぜんぜんさむくない。むしろ、ここちいい!
「ふわぁ〜……ぼく、うまれたばっかり、なのかな?」
まわりを見てみると、ぼくとおなじような子たちがいっぱいいた。
みんな、つやつやで、きらきらしてて、ふわふわのわたあめみたいな雲の中にただよってる。
「やぁ!」
「うまれたて?」
「ここ、きもちいいよね〜〜!」
あちこちから声がしてくる。みんなニコニコしてて、なんだか楽しそう。
「うん!とってもきもちいい!」ぼくもニコッと笑った。
ふわっ ふわっ ふわふわ〜〜ん……
風がそっと雲をなでていくと、ぼくの体もゆ〜らゆら。
ぷかぷかただよってるだけで、なんだかうれしくなっちゃう。
「ぼく、ずっとここにいたいなぁ〜〜」
雲のベッドでコロコロ転がりながら、ぼくはおおきく息をした。
(あ、息ってなんだろ?……まあいっか!)
まるで夢の中にいるみたい。
ここは、ふわふわ天国。
ぼく、水のしずく。生まれたばかりの、水滴のぼくです!
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あるひ、ぼくがふわふわ雲のなかでの〜んびりしていたときのこと。
ごぉぉぉぉぉぉおっ!!!
「わっ!なにこの風!?」
いきなり雲のなかに、つよーい風がまきおこった。
ぼくの体がぐらぐらゆれて、ぐるんぐるんまわりはじめた!
「うわぁ〜〜っ!まってぇぇぇっ!!」
ぐおおおおおおおっ!!
ぼくは、くるくるくるくる回されながら、どんどん上にのぼっていく!
「なにこれ!?ぼく、ふくらんでる!?お、おもたくなってきたよ〜〜〜〜っ!」
そう、ぼくは風にまきこまれて、まわりの小さな水滴たちと、くっついて、くっついて……どんどん大きくなっていったんだ!
ぷるん、ぷるるん、ぼとん……
ほかのしずくたちも、ぼくとおなじように、ふくらんで、おもくなって……
そして!
ぼとんっっっ!!!!!
「わあああああああああっ!!!お、落ちるぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
びゅーーーっ!
すごいスピードで空からまっさかさま!
風がびゅんびゅん、顔をビシビシたたいてくる!
「こわいこわいこわいぃぃぃっ!!!ああああっ!!」
ざざざざざっ!!!
ぴたっ。
「……え?」
ぼくは、どしゃん!と一枚の葉っぱの上に落ちた。
「……ふぅ。……たすかった〜〜」
葉っぱの上は、ちょっとすべすべしてて、ちょっとひんやりしてて……
でも安心したのも、つかの間!
つるっっっ!!!
「うわっ!!まただ〜〜〜〜〜っ!!」
葉っぱの上を、つるるんっっっ!とすべって、ぼくの体はまた動き出す!
ぴょんっっ、ぽちゃんっっ!
あれよあれよという間に、ぼくは地面に落ちて、
ちいさな流れにのって、ころころころころころがりながら、つぎの場所へ……
「えっ!?なにこれ!?もう、どこ行くの〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!?」
小川がどんどん大きくなって、すごいスピードで流れはじめた!
ざっぱーん!どっかーん!びょーん!
「ぎゃあああああっ!!はやい!こわい!でもちょっと楽しいかも!!」
川は、くねくね、どんどん、ぐんぐん、下っていって……
どどどどどーんっ!
「うわっ!なに!?ここ、ダム!?ダムってやつ!?でっかーい!」
やっとのことで、広〜〜いダム湖に流れこんだとき、ぼくはふぅ〜っと大きく息をついた。
(あ、また息ってなんだかわかんないけど……まぁいっか!)
ぷか〜ん。
「……ふぅ〜……いきてる……。ぷかぷか〜……ひろびろ〜……あったか〜い……」
とりあえず、いまはここが、ぼくのオアシス。
「まったり〜……しあわせぇ〜……」
と思ってたのに……
きゅぽんっっ!!!!
「んぎゃあっ!?!?なにこれっ!!どこいくの!?ちょっとちょっとぉ〜〜〜〜〜っ!!」
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「ん……?あれ……なんだか……ちょっと……く、くるしいかも……?」
ふわふわ気分でうとうとしていたら、いきなり風が変わった。
やさしかった空気が、急にぐいっとぼくを持ち上げる。
「うわっ!なんだこれ!?」
ぼくの体がぐーんと引っぱられて、空の上へどんどん持ち上がっていく。
まるで巨大な手が背中をぐいぐい押してるみたいだ。
「ちょっ……ちょっとまってぇぇ〜!」
まわりのみんなも、一緒にくるくる回ってる。小さかったぼくの体が、みるみる大きくなっていくのがわかった。
たくさんの仲間たちとくっついて、重く、丸く、ころんとした感じになっていく。
「これって……もしかして……」
ずん、と音がした気がした。
次の瞬間——
ぼとんっ!
「わああああああっっ!!」
落ちた!空から落ちた!
風を切る音が耳の奥で鳴り響いて、景色がすごい速さで近づいてくる。
「うひゃ〜〜〜!!」
下に見えたのは、緑の葉っぱ。
どすん!とぶつかって、ぴょーんと跳ね返る。
「いたた……でも、おもしろっ」
ぼくはそのまま葉っぱのすべすべをすべって、くるんと転がって地面へ落ちた。
草の間をするすると流れて、気がついたら、ぼくは小さな流れに乗っていた。
「えっ、なにこれ!?どこ行くの!?」
土のすき間をぬけて、木の根っこのあいだをくぐって、細いせせらぎに。
そこから、ぐんぐん勢いを増して——
「うわ、川だ!ほんものの川だ!」
水はどんどん速くなり、ぼくの体もびゅんびゅん流される。
石に当たって跳ねたり、小さな渦に巻き込まれたり、目がまわりそうだ。
「はぁ〜……ちょっと、落ち着かせて〜〜〜」
そう思ったとたん、景色がひらけた。
まわりの音がふっと静かになって、水の流れもゆるやかに。
「わぁ……ひろい……」
そこは大きな湖だった。山にかこまれて、水面はきらきら光ってる。
さっきまでの激しい旅がうそのように、ぼくはゆっくりぷかりと浮かんだ。
「ふぅ〜……ここ、いいな……」
ちょっとだけ、ひとごこち。
ぼくは目をとじて、湖の中で体をゆらした。
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湖のまん中で、ぼくはゆっくり浮かんでいた。
水の上って、こんなにもやさしいんだなぁ……。さっきまでのドタバタがうそみたい。
「ふぅ〜……ここ、ずっといられるかも」
……なんて思っていたのに。
ごごごごごご……
水の下から、低いうなり声みたいな音がした。まるでおなかの底が鳴ってるみたいな、ちょっとこわい音。
「……なに?いまの……?」
と思ったとたん、水がごっそり動いた。
ぼくの体が急に引っぱられ、ずるずると湖の底のほうへ吸いこまれていく。
「えっ?えっ?うそ、どこいくの!?」
ずん!と音がして、ぼくは大きな穴にすいこまれた。
そこは取水口――ダムの水をぬくための入り口だったんだ。
ぎゅわんっ!
一気に、真っ暗なトンネルに突入した。光は一つもない。右も左もわからない。
ぐいぐい、ぐるぐる、下へ下へと流れていく。
「こ、こわいってば〜〜〜!!」
まるでジェットコースター。スピードがどんどん上がっていく。
トンネルの壁が近すぎて、すれすれを滑ってる気がする。
「うわ、うわ、うわあああ〜〜っっ!!」
どこかでカーブ、またカーブ。
ちょっとだけ空気のある場所を通ったかと思うと——
ごおおおおおっ!!
目の前に巨大な水車が現れた!
まわってる、ぐるんぐるん、ものすごいスピードで!
「やばいやばいやばいっ!」
気づいたときにはもう遅かった。ぼくの体はそのまま、水車にぶつかって、ぐるん!と回される。
ぐるるるるるるんっっっ!!!
ぐぅぅ〜っ! からだにすごい力がかかる。
頭がふわっとして、足がぶわっと重くなる。これが……高Gってやつ?
「うぅぅぅ〜〜〜〜〜〜んんんっっっ!!」
……がくん、と重さが消えた。
まぶしい光が、ぱぁっと目の前に広がった。
「でた……!でたぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!!」
長くて真っ暗なトンネルの旅の終わり。
やっと、光のある世界に帰ってこれた!
ぼくはぐったりと流れに身をまかせながら、空を見上げた。
「……もう、ほんと、なにこれ。すごすぎるでしょ……」
でもちょっとだけ、楽しかったかも。
ぼくの大冒険は、まだまだつづくんだ。
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キラキラした光のなか、ぼくはふわ〜っと流れていた。
さっきのトンネルと水車のドタバタを思えば、今はまるで天国みたい。
「ふぅ〜〜……やっと落ちついたぁ……」
水の流れはゆるやかで、まわりは透きとおってる。
あたりには他の水滴たちもいて、みんな、の〜んびり流れている。
「こんな時間がずっと続けばいいのに……」
と、そのとき。
ぬっ……
水の奥から、なにか黒くて大きい影が近づいてくる。
「……ん?あれ、なに?」
ぐいっ!
「えっ……ちょっ、えっっ!?!?」
ぐわぁっ!という感じで、ぼくは突然、なにかに吸い込まれた!
「ぎゃーーーーーっっ!!!」
ぐにゃっとした暗い空間。ぬるぬるで、やわらかい……
ここ、どこ!? これ……これって……!!
「え、え、えええ!? ぼく、いま、魚に……飲まれた!?」
うそでしょ!? まじで!?
おなかのなかって、こうなってるの!? なんか、もわもわする〜!!
「やばい、やばいやばいやばいっっ!!出してーーーっ!」
でも、どうやって!? 口は閉じられてるし、行き止まりだし——
……と思ったそのとき。ぼくの体がふわっと動いた。
「……あれ?なんか、流れてる……?」
ぬるぬるの空間を、すぅーっと横に引っぱられるような感覚。
それがどんどん速くなっていって——
ぷしゅっ!!
「……ぷはっ!!」
ぼくは、魚のえらからすっぽーんと飛び出した!
「で、で、出られたぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!」
びしょぬれ(いや、水だけど!)になりながら、水の外へぽろり。
ちょっとだけ、ふるえてしまった。
「びっくりしたぁ……ほんとに、びっくりした……」
魚はなにも気にせず、すい〜っと泳いで行った。
いや、ぼくのことちょっとは気にしてよ!!
でもまあ……無事だったし、出られたし……
今となっては、ちょっとした思い出……かも?
「うん、まあ……へんな体験だったけど、命あってのなんとやら、ってやつだね」
ぼくは、水の流れに身をまかせて、またぷかりと漂いはじめた。
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海は、とっても広かった。
どこまで行っても水、水、水! 波がうねって、潮のにおいがして、ちょっぴりしょっぱい風がふいている。
「ふぅ〜……ぼく、こんなところまで来たんだなぁ……」
水の流れにまかせて、ぼくは海の表面をゆらゆらとただよっていた。
まわりは、仲間の水滴たちでいっぱい。ぷかぷか、ひたひた、うとうと……
「しょっぱくなってきたなぁ……これが“うみのあじ”か……」
なんて考えていると——
すっ……
「ん?」
何かが、ぼくの体を引っぱった。
「え……ちょ、ちょっと!? うわああっっ!」
ぴゅーっ!
貝だ! ちっちゃな二枚貝が、ぼくをすいこんだ!
中はひんやりして、ぬるぬるして、狭くて——
「うわーん!またこれぇぇっっ!!」
と思った瞬間、また吐き出された!
ぴゅー!
「……ふぅ〜……」
と思ったら——
ぴゅっ!
「って、またかい!!」
吸い込まれて、はき出されて、また吸い込まれて、またまたはき出されて……
なんだこれ!? なんの遊び!? ちょっとくせになるけど!!
「……ぴゅー、ぴゅー……ぷぷっ、ちょっとたのしいかも……」
気がつけば、ぼくは笑っていた。
変な体験ばかりだけど、なんだかどれも、忘れられない大事な思い出になってきた。
そしてさらに流れていった先で——
ゴゴゴゴッ……!
「えっ、なに!?」
波の向こうから、うなり声のような振動。巨大なかたまりが、海面をわけて近づいてくる。
「うわ、でっか……船!? あんなの、ぼくひとしずくで……」
バシャーーンッ!!
波がぶつかって、ぼくの体はポーン!と弾き飛ばされた!
「うわわわわわぁぁぁっっ!!」
空に向かって飛ばされて……ぼくは、海面に落ちずに、風に乗った。
しかも、どんどんあったかくなる……日ざしが強い。
「な、なにこれ……あつい、でも……きもちいい……」
体がじわじわ軽くなって、ふわっと浮き上がる感覚。
「……あ……これ……知ってる……!」
そう、これは——そらへ帰るしるし。
「また……もどるんだ、あのふわふわのとこへ……!」
どんどん軽くなって、どんどん上がっていく。
風がなでてくれる。太陽がほほえんでる。ぼくは、きらきらと光りながら、空へと昇っていった。
「いってきたよ……たくさん冒険してきたよ……!」
そしてまた、ふわふわの雲の中へ。
「ただいま!」
ぼくの長い長い旅は、こうしてまた、やさしい雲のベッドに帰ってきたんだ。
絵がないけれど絵を付けるともっと面白いかなと思います