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魔術士の蕾たち(2)

 馬車は順調に街道を進んでいく。太陽が西へ傾き青い空に茜色がぼんやりと滲み出した頃、とある屋敷に着いた。

 そこは小さな城といっても差支えないような豪奢な屋敷だった。彼らが学園を飛び出してはるばる遠くまで赴いたのは課外授業の一環だ。卒業を迎える年になるとこの学園の生徒は課外授業が主たる修行になる。卒業後に仕事に就くための研修のようなものだった。

 今回は王国からは少し外れた土地を治める貴族の屋敷の警備だ。なんでも隣国の要人が三日間ほど逗留するらしい。

「ふぁ~~やっと着いたぜ~~~」

 フェリクスは馬車を降りるなり、欠伸をしながら体を伸ばす。

「おい!主人が見ていないからって品のない振る舞いはするな!」

 ルカが驚いてフェリクスを嗜める。行儀の悪い様を見られたらフェリクスだけではなくここにいる全体の評価が下がってしまう。

「はいはい、仰せのままに」

 とぽんぽんとルカの頭を叩いた。

「やめろーっ!」

 フェリクスとルカは10cmほどの身長差があり、ルカの頭はどうにも触りやすい場所にある。

「おお、着いたかね」

 わぁわぁ騒いでいると、正面の玄関扉が開き中年の男が笑顔で出てきた。この屋敷の主人でありここ一帯の領主であるエルドランド公が直々に出てきたのだ。供もつけずに親しげな笑みを浮かべているところを見ると、貴族にしては随分と気さくな性分らしい。

「フェリクス!久方ぶりだ!!しばらく見ないうちに美丈夫っぷりがまた上がったな」

 エルドランド公は真っ先に両手を広げフェリクスの前に立った。

「ご無沙汰しております、エルドランド公」

 フェリクスはスッと跪くと頭を垂れた。慌てて残りの生徒たちもそれに倣った。

「よせよせ、公の場ではないんだ。楽にするといい。滞在中もどうせ何も起こらん。学友と旅行にでも来たと思えばいいさ」

「お心遣い、痛み入ります。ですが任務には万全を期して臨みます。なんなりとお申し付けください」

 フェリクスは先ほどまでふざけていたとは思えないほどの紳士ぶりで、二重人格なのではないかとルカはじとっと横目で見ていた。

「おお、もう酒は飲めるか?後で相手をするがいい」

 と言ってまた奥に引っ込んで行った。

「私で良ければいつでも」

 フェリクスはエルドランド公の背中に向けてにこりと笑った。


「フェリクス、エルドランド公と知り合いだったのか?」

 仲間の生徒が尋ねる。

「親父の古い商談相手でね。昔から叔父のように接してもらっている」

「君は随分と猫を被っているんだな」 

 ルカはボソッと呟いた。しかしフェリクスは特に気に障った様子はなく、

「お前は手の抜き方を知らない奴だなぁ。そんなに肩肘を張っていたら疲れるだろう」

 とバンっとルカの背を叩いた。

「ぐえっ」

 強い力で叩かれルカからカエルのような声が出た。平均よりも小さなルカの体が揺れる。

「そんなことより、みんな早く部屋に行こうぜ」

 フェリクスはルカの事などお構いなしにズンズンと屋敷の中を進んで行った。

「夕飯を楽しみにするといい。ここの土地のワインは王室でも御用達の逸品だぜ」

 などとまた軽快な口調で喋り出す。一同からおお、と色めきたった声がした。

「なぁ、この家には随分綺麗なご令嬢がいるらしいじゃないか」

「ああいるぞ。まだ七歳だけどな」

「まだ子供かよ!!」

「そうでなくとも彼女には俺という心に決めた人がいるからお前らに脈はねぇな」

 生徒たち一行は廊下にこだまするような大声で笑い合っていた。ルカを除いては。

 今回は特に優秀な生徒達十人が選抜されて任務に就いたが、博識で話の上手いフェリクスに皆すっかり惹かれてしまい、屋敷に就く頃には兄貴分のような立ち位置になっていた。リーダーはルカだったのにそんな事全員忘れてしまったようだ。 目立つのが嫌いなルカは良かったと思う気持ちとこれでいいのかという気持ちで複雑な心境になっていた。


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