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姫君(7)

「ああ、彼がフェルナンド家の噂の末子か。私の婿候補に名が上がっていたなあ。魔力もさることながら身体能力に長け見目麗しいと。なるほど確かに美丈夫だ」


 とエミリオは動じる様子もなくルカに返事をする。エミリア姫。それはこのセラフィス王国で先月病死したはずの王の娘だった。金の巻き毛に人形のように美しい顔を持ち、王族でも稀にしか生まれない最高位の魔力を持つとされる赤い瞳の第一王女。エミリア王女を直接見たことがなくとも、その容姿の噂は誰もが知っていた。特に花の学び舎の生徒は王女と夫婦になれる可能性もあったため、知らぬ者はいないだろう。

 しかし、エミリオは確かに少女のように可憐な顔をしているが、男の恰好をしていて、髪も黒く肩で切りそろえている。何より、瞳の色が青い。

「ところで、私がエミリアだと気づいた決定打はなんだ?やはり魔法を披露しすぎたかな」

「だって、あなたの瞳の色は赤いじゃないか…いや、最初は青い目と認識してたんだ。でもいつの間にかあなたの瞳が赤く見えるようになってきて…」

「君、私の幻術が効いていないな」

 エミリアが目を丸くする。エミリアは人と対峙する時自分の目の色が赤目と悟られないよう魔法を使っている。幻術の魔法は難しい。そもそも魔法は維持が難儀なのだ。たいていの者なら惑わせることができるが、長引けば長引くほど不安定になる。

「君こそ赤目に引けを取らない」

 エミリアは感心したように述べた。

「私も一つお返しに君の秘密を暴いてもいいだろうか。君からはとてつもない魔力を感じる。だが、君が最初に私に食らわせた爆炎の魔法。あれからは微量の魔力しか感じなかった。あれも魔法ではなく科学。違うか?」

「…ええ、そうです」

 ルカは観念したように答えた。エミリアには全てバレていると感じていた。

「踏み込んでいいだろうか。答えなくても構わない。君は魔法が使えないのでは?」

「それは……」

 ルカは言い淀んだ時、頭上からフェリクスの声がした。

「おーーい!二人とも!この隙間から脱出できそうだぞ!」


〈力を集め、衝撃で砕け散れ!インペトゥス!〉


 フェリクスが詠唱を行うと、瓦礫が飛び散り隙間は人が通れるほどに広がった。フェリクスがやっと地上に顔を出すと、学園の仲間たちが集まってきた。

「フェリクス!!よかった!生きてたな!」

「ああ、みんなは無事か?」

「全員無事だ。一体何はあったんだ」

「レジスタンスが現れたんだ」

「レジスタンスだと!?そんな者どこにもいなかったぞ」

「色々あって退散したようだ。それより、まだ地下にルカと…えーと、少年が生き埋めになっている救助を手伝ってくれ」

 フェリクスのように瓦礫の壁をよじ登れないルカとエミリアはロープなどを使って救助され、やっと地上に辿り着くことができた。

「体中が痛い…」

 と四つん這いになってぜぇぜぇしているルカと違い、エミリアはピンピンしていた。


「フェリクス!無事でよかった!」


 エルドランド公も駆けよってきた。みな、屋敷の前の庭で固まって待機をしていた。奥方やメイドたちはうなだれており、男たちも落ち着かない様子だ。フィーナは未だ何重にも重ねた布地の上で一人何ごともなかったかのように寝かされていた。それを見て、フェリクスは密かにホッとした。

「その、地下にいたのかね」

 エルドランド公は気まずそうにフェリクスに尋ねる。その様子からやはり後ろめたいことがあるのだと確信し、フェリクスは気が重くなる。

「エルドランド公…地下の…」

 とフェリクスが言いかけたところで、


「貴様、何を勝手な行動をとっている!!」


 という怒号が聞こえた。見ればグレインヴァルがエミリオの首元を掴んで今にも殴りかかろうとしていた。フェリクスは思わずそちらに駆けよる。

「やめろ!!」

 そばにいたルカがエミリオを庇うように間に入った。グレインヴァルの手を無理矢理引き離すと、反動でエミリオは草むらに尻もちをついて倒れた。

「でんっ」

 殿下、とルカが呼びかけそうになるのをエミリオは手のひらで制した。

「邪魔をするな!この使用人、勝手に地下にもぐりこんで!暁月の間者か!?この爆発騒ぎはお前の仕業か!?」

 地下から共に助け出されたエミリオに疑惑がかけられているようだった。

 ルカに助け起こされてエミリオはスッと背筋を伸ばして立った。


「グレインヴァル。貴公の元に使用人として潜り込み、色々調べさせてもらった。ああ、まず質問に答えようか。確かに私は暁月の一人だ。しかし爆発騒ぎは暁月を勝手に名乗るレジスタンスが起こしたものだ」


「なんだと…!?おい、こいつを捕まえろ!暁月だ!!」

 グレインヴァルは叫ぶ。花の学園の生徒たちは驚きながらもエミリオを囲んだ。

「待ってくれ、この方は!」

 とルカはエミリオを守るように立ち塞がった。ルカとエミリオ、そして生徒たちは膠着状態になる。

「ルカ、言うな」

 エミリオは短く告げるとルカの肩を体を押して前に出た。エミリオの声音にはどこか有無を言わずに従いたくなるような不思議な貫禄がある。


「捕まるのは貴公の方だ。違法薬物の生成、所持、売買…隣国ヴェストリアだけでなく本国セラフィスまで持ち込んだ罪、償ってもらうぞ」


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