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姫君(5)


 ルカとフェリクスが地下倉庫に着くと、ところどころで火が燃え盛り煙が充満していた。そして、何か嗅いだことのない薬草のような臭いが充満していた。先ほど、少年から魔力で空気の流れを変えてもらったが、それでも臭いが鼻をつく。

「フェリクス、あそこ…」

 ルカが見つめる先で少年が誰かと対峙していた。どうもこの煙を避ける装置らしい鎧のような見たこともないマスクで顔全体を覆っており、顔の全貌が見えない。しかし背格好から、フェリクスやルカとたいして変わらないように見えた。


「お前、エミリオか……」


 マスクの青年(とルカとフェリクスは仮定した)は、くぐもった声で少年に問いかける。エミリオというのは少年の名だろうか。

「久方ぶりだな。レオン。一か月ぶりくらいか?君が偽暁月のリーダーをやっているのか」

 少年…エミリオは臆することなく変わらず不遜とも取れる態度と口調で受け応える。

「お前は相変わらず仮装パーティに興じているようだな」

 レオンと呼ばれた男は皮肉げな声音でエミリオに言葉を返すがルカとフェリクスは何の話をしているのかさっぱり見当がつかない。ただ、この男が暁月と勝手に名乗っているリーダーで、エミリオとは知り合いのようだ、というのは分かる。

「悲しいかな、この格好の方が何かと都合がいいものでね」

「お前が居るとはぬかったな。計画は失敗だ。グレインヴァルを殺すのはまたの機会にしよう」

「我々の情報網の強さを君は知っているだろう。悪いが火は消させてもらうよ」


〈アクアリス〉


 エミリオがまた一言だけ呟くだけで豪雨のように水の雫が一瞬だけ地下倉庫に降り注いだ。倉庫の荷を燃やしていた炎はたちまち消え、激しい水蒸気が辺り一面に蔓延した。

「グレインヴァルもエルドランドも禁忌の薬物の生成、所持、売買等々の罪で捕縛させてもらう。君らにこれ以上殺しなどさせるものか」

「ふん、偽善者め」

 そしてレオンなる男はエミリオの横を通り過ぎつかつかと出口に向かう。

「なあ、私たちは対話をするべきだ」

 エミリオはレオンの背中に訴えた。

「対話を放棄したのはそっちだろう。魔力に魅入られた悪魔どもめ」

 レオンは吐き捨てるように言うと、その場から去ろうとした。

「逃すかよ!!」

 フェリクスがレオンを捕まえようと手を伸ばす。しかしレオンは手に持っていた何かをルカとフェリクスに向けて投げつけた。

「危ない!!爆弾だ!!」

 とルカが叫んだと同時に最後の爆音が地下倉庫で響き渡った。


〈ヴァラリス〉


 エミリオが魔法を唱えるとルカとフェリクスそしてエミリオの体が見えない壁に囲まれ、熱も風も衝撃も遮られた。しかしその直後、度重なる爆撃に耐えられず天井が崩れ落ちる。

「天井が!」

 ルカが叫んだ。

「ルカ!」

 思わずフェリクスは近くにいたルカの身を守るように抱き寄せて自分の体に匿った。


 ドドドド…!


 という地響きのような音がした後に、三人の頭上に崩れた天井がガラガラと音を立て落ちてきた。フェリクスはルカを抱いたまま体をまるめ衝撃に備えた。魔法を使う余裕はなかった。


「大丈夫だ、先ほど私が張った防壁が守ってくれている」

「へ?」

 ルカとフェリクスが目を開けると、木材の瓦礫の中に埋められていた。しかし、まるで透明な箱の中にいるように三人を避けて瓦礫は散乱していた。

「シールドの魔法をこんな数分も持続させていられるのか!?お前すごいな!」

 フェリクスは素直に感嘆の声をあげる。ルカはいぶかし気な表情をしていた。

「それよりいつまで抱き合っているんだ。守るなら年少者の私を守って欲しかったぞ」

 エミリオはクスっと笑いながら二人を見た。

「わー!何してんだお前!」

 ルカはいまさらフェリクスの胸の中にいることに気づき突き飛ばす。

「すまん、つい…近くにいたから…」

 へへへと緊張感のない声でフェリクスは笑う。

「どこか痛むとこや違和感はないか?」

 エミリオは二人に問う。二人は首を振った。

「よし。この防壁もいつまでももたない。救助は待っていられない。脱出をするぞ」

 三人は見えない防壁に囲まれて無傷だが、生き埋め状態だ。

「ああ!どうやって脱出するつもりだ?」

 フェリクスはエミリオへの警戒心を解いたのか協力的な姿勢を見せた。

「まあ、この瓦礫を吹き飛ばすしかないんだが…一つ困ったことがある。このシールドを貫通して攻撃魔法が打てないんだ」

「なんだと!?」

「もしこの場から私が吹き飛ばしの魔法を使ったらシールド内で私たちの体は木っ端みじんになるな」

「普通に瓦礫を押し上げられないもんかな」

「君が十人ばかりいたらできるだろうね」

 ルカがぼそっと呟く。

「ここにシールドを残して私だけ外に出るか。私だけならなんとか隙間に入り込めるかもしれない」

「それは危険すぎないか?」

「まぁ、どうにかなるだろ。私なら」

「しかし…」

 フェリクス達が話し合っているのをルカは黙って見つめていた。しかし、ややあって意を決したように


「僕に任せてもらえないか?」


 と言った。

 

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