モーニングルーティン
姫様の朝は早い。
「姫様、朝ですよ。」
「んー、あと五分……」
「姫様、起きてください。朝ですよ。」
「あー、起きてるよ……」
「ふう……ダメね。シャーリー、ウォルターさんを呼んできてくれる?」
「はい、メイド長!ウォルターさんですね!わかりました。」
トコトコトコトコッ!
姫様の朝は早い…………。
…………
「姫様!!朝ですよー!!起きてください!!」
ウォルターと呼ばれた爺さんが朝から吠えている。
「うるせぇ……。」
「?なんですか?聞こえないですよ?それより起きてください!朝ですよ!あーさーでーすーよー!!」
ウォルターはオレ(姫)の教育係らしい。
「うー……オレは姫なんだろ、もっと寝かせろや……」
眠たい目を擦り身体を無理やり起こすとウォルターとシャーリーとあとなんかメイド長的な人がいた。
朝から人に囲まれてるのなんか笑える。
襲撃かよ。
「言葉遣い!昨日は大目にみましたが今日からは厳しくしますよ!せっかく心入れ替えたのならまずは言葉遣いから!そして、もっと国の重要人物として………」
朝からお説教なんか聞いてられるか。
「シャーリー!ついてこい!
このうるせぇジジイから離脱する!!」
「え?!はいっ!!」
「ちょっと!まだ話は………………」
姫様の脚は早いのだ。
――――――
「はぁはぁ……」
寝起きっから全力で走ったので気持ち悪い。
ふぅっ…………
オエェェッ!…………胃液が出た。
「ひいぃ!姫様もしかしてお身体が……!?」
「いや、胃液が逆流しただけだよ。」
シャーリーはポカンとしている。
この国では胃液が逆流するのは珍しいのか?
「はー……吐いたらちょっとスッキリしたわ。メシ食いてぇな。」
「今、吐いたのに?!……えっとすみません!朝食の準備なら済んでますよ!!」
「え?どこにあんの??」
と尋ねるとシャーリーは今来た方角を指差す。
「…………え?」
「姫様の要望通り毎日、朝食は御寝室に運び込まれてます!」
「ジジイの待ってる寝室に?」
「え?……はい……ウォルターさま、待ってますかね?」
「待ってるだろうな…………ちくしょう、外に食いにいくにも金もねぇし……。」
(金はウォルターに管理されてんだよな、言えば出してくれるとか言ってたけど。)
「あっ!!そうだ!私ちょっと厨房に行って何か残ってないか聞いてきますね?」
シャーリーはそういうとすぐにトコトコと走り始めた。
(厨房か……見てみたい!けどその前にトイレ行きたい……)
「シャーリー!待って!その前にトイレ行きたい!」
「え?はい、わかりました!」
そう言ってまたトコトコし始める。
「………待って………トイレの場所教えて!」
「ええ??!」
戻ってきたシャーリーに連れられてバスルームへ行きそれから一緒に厨房へ向かった。
――――――
朝食と昼食の間にひと休憩、とでも言ったところなのか厨房には誰もいなかった。
「うわっ!マジでお城の厨房じゃん!すげー!!」
所狭しと野菜やら果物やらが置いてある。
包丁なんかの調理道具も数え切れないほどだ。
そして、とにかく広い!
「何に使うかわかんねー道具が山ほどあるぞ?!
オラ、ワクワクしてくっぞ!」
楽しくなって辺りを見ているとシャーリーが、
「お城の厨房は初めてですか?」
と聞いてきた。
その真剣な眼差しが刺さる。
(コイツもしかして、オレのことを怪しんでるか……?)
ポンコツっぽいのに実は鋭いなんてのは古典的だが確かによく聞く話だ。
まさか面白さ重視で選んだ侍女が…………
「姫様って……もしかして、」
(やっぱコイツ、オレが入れ替わった偽物だって気がついてる?!)
「嫌いな食べ物とかあります?」
?!!
「嫌いな……食べ物……?」
「はい、私、実はピーマンが苦手で食べられないんですぅ……。」
「いや、まぁオレはなんでも食えるよ。昔は選べる余裕なかったし。」
「えぇ?!姫様なのにそんな時期が……?」
お袋が逮捕されて、保護施設に入れられるまでは本当になんでも食ってた記憶がある。
(つーか、もうシャーリーがなんか怪しんでても気にしないでいいや。)
「こら!お前らここで何を……って姫様?」
(やっべ、戻ってきた!隠れなきゃ!ってオレ今、姫様なんだから隠れなくていいじゃん?)
シェフ的な奴らが帰ってきた。
その手には紙袋が抱えられているのでおそらく休憩ではなく買い物だったのだろう。
「姫様、朝食に何か問題でもありましたでしょうか……?」
「あ?いや、別に何もないよ。」
(つーか食えてねぇ……申し訳ない。)
シェフ長的な雰囲気の男が恐る恐る聞いてきた。
そうか、何か不備があって怒りに来たと勘違いしてるのか……。
姫様ともなるとちょっと動くだけで周りへの影響がデカいんだな……。
「そうですか?なら良かったです。……でしたら、いったいどのような事情でこんな場所まで……?」
「いやー……のっぴきならない、やんごとなき事情で朝食があんま食えなくてさ、なんか余ってねぇかなって探しに来たんだよ。」
「え?!姫様が自ら……??」
若そうなシェフたちがざわめき立つ。
もう慣れたけどホントこの姫様の印象って……。
いや、姫様は普通、厨房に食いもん探しに来ないのか?
オレの姫様に関する知識が無さすぎる。
「こら、お前らさっさと仕事しろ!」
シェフ長に若者たちが怒られ仕事に戻るのを目の前あったリンゴを齧りながらなんとなく見つめる。
紙袋からいくつか食材を出していくシェフたちをみて疑問が浮かんだので聞いてみた。
「それってさ、下の町で買ってくるの?」
「え?はい。城下町で一通り揃いますよ。」
城下町か、昨日は警備員たちに追われてじっくり見てる余裕なかったからな。
どうせ城にいてもウォルターに見つかったらめんどくさそうだし行ってみるか!!
「よし!シャーリー、城下町行ってみっか!!」
「ええ?!!姫様それは危ないですよ!」
シャーリーは嫌がっているが一度決めたら善は急げだ。
いくつかの果物を勝手に持って城下町に向かうことにする。
「お気をつけて。」
なんてシェフたちが言ってるけど城下町に気をつけるようなことなんかあるのか?
昨日の感じだと別に特段治安が悪いような印象は受けなかったが。
厨房を出て少ししてから気づいた。
「で?城下町ってどうやっていくんだ?」
厨房と自室の位置関係すらよく分かってなかった自分にはそもそも、この城からの出方がよくわからない。
つまり自宅で迷子なのだ。
「シャーリー、城下町まで案内して!」
「えー?城下町の案内ですか?私もあんまり詳しくないですよ……。」
「いや違うよ城下町までの案内だよ。」
「???………………はい。」
シャーリーは訝しげな表情を浮かべるが渋々前を歩き出した。
コイツを侍女にして正解だった。
昨日の仕事のサボり方でなんとなくわかっていたがシャーリーはあまり物事を考えずとりあえずで受け入れるタイプだ。
悩まないとか決断が早いとかじゃなく考えること自体をめんどくさがってしまうのだ。
この手の奴はきちんと見ておかないと地獄の窯まで気づかずに落ちていくことがある。その手の奴は地元で何人もみた。
見守りたくも、手を貸したくも、少し意地悪もしたくなる。
そんな小動物的な魅力がシャーリーにはある。
だがそれ以上に
「無理にお嬢様のフリしなくても疑われないのはありがたい。」
思わず口をついた。
……多分、聞こえているのにシャーリーは特に気にしてないようだ。
――――地下牢――――
「何よコレ!こんなモノ人間の食べるモノじゃないわ!!」
「うるさい!黙って食えこの犯罪者!!」
衛兵が怒鳴りつける。
「嫌よ気持ち悪い!!こんなもの食べるくらいなら私ここで飢えてやるわ!!」
「あーそうか好きにしろ!気持ち悪いやつめ!」
「アンタ!顔覚えたからね!私が元に戻ったら最初にクビにしてやるんだから!一族郎党この国から追い出してやる!」
「はっ!笑えるよ。お前になんの権限があるんだか。」
「キィーーーッッッ!!!」
ゴンッ!!!
「ひぃっ!!ごめんなさい、騒がしくして、ごめんなさい!!」
…………ぱくっ……………ずずぅ………
「もうやだ、何なのよコレ……うぇっ……不味い……。」
ありがとうございます。
読んで頂きありがとうございます!
本当にありがとうございます!!
なろうに投稿を始めて二週間が経ちました。
最初は勢いで書いて一週間ほどしてから文学部を出た友人のアドバイスや動画などで多少の勉強をしました。
すると今までの一週間とは違い「書けない」がわかるようになりました。
面白く「書けない」
適切に「書けない」
わかりやすく「書けない」
端的に「書けない」
たぶん、だから面白いんですね。
だから面白いと思ってもらえたら幸いです。
読んで頂きありがとうございます。