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 日本みらい話             Happy face

作者: 小中 賢

この話はタイムマシンで未来へ行き、現在へ帰って来た人から聞いたお話です。


 みらいみらいのお話です。

 その頃にも美容整形手術は行われていたそうです。なんでもその頃の技術は現在よりはるかに進歩しており、CTスキャンのような円筒型の整形マシーンに入ると、ものの30分もあれば体のどの部分であろうと手術は終了し、包帯など巻く必要もなく美しくなった姿形で即帰宅できたのだそうです。

 なものですから老若男女を問わず(ただし皮膚が弱いという理由から10歳以下は不可)美容整形手術が行われていたそうです。

「おい爺さん。あたしゃ今から整形受けに行って美魔女になって帰ってくっから、ほれ直しても知らねえぞ」

「へ、お前が整形したところで、鼻くそが目くそになるくれえのことだんべ。金の無駄だからやめとけ」

「今の整形の凄さを知らねえからそんなこと言ってられんだよ。綺麗になったおらの姿さ見て、興奮して夜中にベッドに潜り込んできても蹴っ飛ばしてやっから覚えてろ、このくそ爺イ」

「猛獣の檻に入っていくようなそんな恐ろしいことするわけなかんべ、このくそ婆ア」

 などというような会話があちらこちらで聞かれていたそうです。

 

 しかし、簡単に美容整形が受けられることによる社会的問題も当然のように起こったそうです。

 まず犯罪者が整形して全く別人に変身するというなりすまし問題が当然のように起こるべくして起こったそうです。そこで政府は犯罪者の整形を防ぐため、全国の美容整形医院に整形を受ける前と後の全身の前後左右上下の詳細な映像を撮り、さらにDNAも採取しそれらを厳重に保管することを美容整形医院に義務づける法律を制定したそうです。

 他にも、美容整形を受けた親から産まれた子供の顔が、整形前の自分の嫌な顔を思い出させるという理由から、我が子を愛せずネグレクトになったり、子供を虐待するような親まで現れたりして大変な問題になったそうです。

 さらに、なにしろその美容整形手術代はかなり高額だったため、特にお金のない若者達が手術代欲しさにヤミ金融からお金を借りたり、もっとひどくなると窃盗や売春などの犯罪にまで手を染める者まで現れたそうです。

  SNSでは、

「結局なんでも金次第だね」

「地動説のように何百年も前から常識になっていることを今発見したように言うな、ウザ」

「地動説って金になったの」

「なんのこっちゃ」

「金で買える薄っぺらな美しさを手に入れて喜んでいるような、心のPoorな人間にだけはなりたくないね」

「ガリレオの次はお釈迦様のお出ましですか」

「ガリレオじゃなくてコペルニクスだろ」

「That'right」

「宗教は金になる」

「う~ん美容整形と組んだ宗教を起こせば絶対金になるんじゃない。美しい顔の人はこの世で幸福になるばかりでなく、死んだ後に必ず天国へ召されます。さあ皆さん美容整形を我が宗教団体で受けて絶対幸福を手に入れましょう。美顔万歳!、美顔万歳!」

「まあ金持ち連中には受けるんじゃない」

「そう暇を持てあましたマダム達にね」

「結局、諸悪の根源は日本をこんな貧困劣等国にした国の無駄メシ食いどもだろ」

「日本劣等ってか」

「間違いない、奴らだね問題は。国民の金を寄ってたかって貪り食らう公的ハイエナ」

「その名も政治家」

「都市伝説です。政治家が美容整形を受けようと整形マシーンに入ったところ、あまりにも面の皮が厚すぎて、施術不可とマシーンに拒絶されたそうです。信じるか信じないかはあなた次第」

「信じる」

「信じる」

「信じる」

  ・

  ・

  ・

 などと美容整形問題の風当たりが政治家の方に向きそうになると途端にking of 自己保身sの中のkingである首相をはじめ与党の先生方が次の選挙への悪影響を察し、こりゃなんとかせにゃいかんと慌て始めたそうです。なにしろ奴ら、国民の不幸には何の関心もないくせに、自分の不幸には異常なくらい敏感で、

「近年の急速に技術発展した美容整形手術は、それ故に発生する諸犯罪、その倫理的、経済的問題による国民に及ぼす悪影響を鑑み、今後美容の為の整形手術は、一個人、生涯に一度と規定する。もしこれに違反した場合、初犯は執行猶予、二回目からは実刑。施術目的が犯罪に関わる場合は即実刑に処す。過去に受けた人はその回数に関係なく、今後一回のみ整形を受けることを認める」

 という法律を野党の人権無視だという反対を押し切って、強引に制定したそうです。

 

 あるところに春陽ちゃん、はるひと読むのですが皆んなからは、ハッピちゃんと呼ばれている美容整形を何度も繰り返す女子大生がいたそうです。彼女の家は父親が大企業の社長で非常に裕福であり、お小遣いはクレジットカードで遣い放題だったものですから飽きっぽいハッピちゃんは整形した自分の顔にすぐに飽きてしまい、高額な美容整形を何度も繰り返していたのだそうです。

「嫌になっちゃうなあ、あと一回しか整形できないなんて。今の顔も飽きちゃったし最後の整形だけどすぐ受けちゃおうかなあ」

 とハッピちゃん、妹のラッキーちゃんこと楽ちゃんに言ったそうです。

「今したら、もう一生できないんだよ。歳とってからの若返り整形のために取っておいた方がいいんじゃない」

「でもこの顔不満だらけなんだよね。目元をもっとキリッとしたいし、口元もだるいし、全体的に締まりがないんだよ」

「何言ってんの。この前の顔はキツ過ぎるから、すこしホンワカした顔にしたいって今の顔にしたんじゃない」

「そうだっけ忘れちゃった」

「お姉ちゃんは飽きっぽいから、整形したってすぐ飽きちゃうよ。悪いこと言わないから、歳取るまで最後の整形は取っておきな」

「ええ、我慢できない」


 実はそのことをラッキーちゃん以上に心配していたのがハッピちゃんの両親だったそうです。

「最後の整形をしてもハッピのことだからその顔にすぐに飽きて、美容整形医師を買収してもっと整形させてくれってせがみ出すに決まってるよ、なあママ」

「まあ間違いないでしょうね。だからって、そんなことバレでもしたらハッピは前科者になっちゃいますよ。それじゃハッピが可哀想です」

「そうだな、整形の傷は残らなくても心の傷は一生残るからな。ハッピがそういう無茶を言い出さないことを祈るばかりだが……」

「まあ言い出すでしょうね。一生飽きがこない顔に整形出来れば問題ないんでしょうけど、ハッピに限ってはそんな顔ないでしょうね」

「一生飽きがこない顔か、なるほどその通りだよママ。よし有名美容整形医師や心理カウンセラーに相談してみるか」

 と言うことでパパは、ハッピちゃんのために持っているコネクションの全てを使い、世界中の有名美容整形医師や有名心理カウンセラーや有名写真家、さらにはスピリチュアルな形而上学的見地にまで及んで決して飽きの来ない顔を探し求めたのですが、尋ねる人ごとにその意見はまちまちで結局結論は得られなかったそうです。ハッピちゃんのパパとママは途方に暮れたそうです。

 

 そんなパパとママの心配をよそにハッピちゃんは、

「やっぱりすぐに最後の整形する。毎朝鏡でこの顔を見る度にため息が出て、同時に魂まで出ていっちゃいそうなんだもん」

 と言うとインターネットで過去も含めた美人と称される世界中の女性の顔の画像を検索し、街で見かけた美女に声をかけて写真を撮らせてもらいパソコンに取り込んだりして最強の合成美人画像を創ることに寝る間も惜しんで没頭したそうです。

 

 そんなハッピちゃんの様子を見ていたパパとママはなす術もなく、心配のあまり食欲もなくなっていったそうです。日に日に元気がなくなっていく両親の様子を見かねたハッピちゃんの妹のラッキーちゃんは、二人ともお蕎麦が大好きだからお蕎麦なら食べられるだろうと何百年も続くお蕎麦の名店に二人を誘ったそうです。その店ではその頃になってもタッチパネルなど使わず、壁のお品書きを見て店員さんに直接注文する方式を頑なに守っていたそうです。するとお品書きを見ていたラッキーちゃんが急に大声で笑い出したそうです。

「なにあの顔、超可愛いんだけど」

 ラッキーちゃんの視線の先をパパとママがみると、そこにはへの字に曲がった両目、赤い紅を頬にさした満面笑顔の女性、そうですお馴染みのお多福さんのお面が掛かっていたそうです。その顔を見ると暗く沈んでいたパパとママの心もなんとも言えぬ温かい気持ちに包まれたそうです。そしてパパとママは顔を見合わせて、

「これだね」

 と同時に言ったそうです。

 

 とうとうハッピちゃんは自分が考える地上そして史上最高の美人顔の作製に成功したそうです。それを3D画像で立体化し前後左右、上下から見られるように加工したそうです。そしてそれを美容整形外科医院へ持って行き医師に渡し、

「先生これが最後の整形です。お願いします」

 と医師の目をじっと見つめ、めったに使わない丁寧語で力強く言ったそうです。

「大丈夫ですよ。30分後には超絶美女となったあなたと対面できます」

「はい。ワクワクして胸がはち切れそうです」

 と言って整形マシンの中へ入っていったそうです。


 それから30分後、ハッピちゃんは整形マシーンから出てきたそうです。

「どうですか私の顔」

 ハッピちゃんはドキドキしながら医師に尋ねたそうです。

「とってもお美しいですよ。いつまでも見ていたくなるお顔です。私の経験上ナンバーワンのhappyfaceではないでしょうか」

「まあ嬉しい。そう言って頂けると頑張った甲斐があります。じゃあ鏡見てもいいですか」

「もちろん。どうぞ」

 と言って医師はハッピちゃんに手鏡を渡したそうです。ハッピちゃんは整形マシーンの上で上半身を起こし、そっと手鏡をのぞき込んだそうです。

「うん?」

 ハッピちゃんいったん手鏡を伏せ、そして大きく深呼吸をし再びゆっくりと手鏡をのぞきこんだそうです。するとそこに映っていたのは、な、なんとお多福さんだったそうです。

「ギャー!」

 ハッピちゃんは病院どころか町内全体に聞こえるような大声で叫び、手鏡を放り投げたそうです。

「先生、いったいなんなのこの顔は!」

「いやー、実に良いお顔ですよ。とても気持ちが和みます」

「何言ってんの、あなたを和まそうと思って整形したわけじゃないの! すぐに私が作製した画像通りの顔に整形し直して!」

「それは無理です。いくら技術が進んだとはいえ、一日で二回も手術を受けたんじゃ顔が崩れて元に戻らず、取り返しのつかないことになりますよ」

「この顔だって充分崩れてるよ、どうしてくれるの!」

 ハッピちゃんは明らかに怒っているのですが、医師には微笑んでいるように見え怒鳴り声さえなんとも心地よく聞こえたそうです。

 そこにハッピちゃんのパパとママ、ラッキーちゃん、そしてハッピちゃんのおじいちゃんとおばあちゃんまで現れたそうです。

「ハッピ、その顔はパパとママが先生にお願いしてそうしてもらったんだよ」

 とパパが言ったそうです。

「なんでそんな勝手なことするの。親子でもして良いことと悪いことがあるでしょ、訴えてやる」

 とハッピちゃんは泣きながら怒鳴ったそうです。

「ハッピ、落ち着きなさい。これには理由があるのよ」

 とママが優しく言ったそうです。

「そんこと聞きたくない! 今日じゃなくてもいいから整形し直して」

「それも無理です。法を犯すことになりますから」

 と医師が言ったそうです。

「じゃあ、いったいどうすればいいの。この顔で一生過ごせって言うの、冗談じゃないよ。みんな絶対許さないからね!」

 と言うとハッピちゃんは医院を駆け出し、ほとんど意識のないまま家にたどり着き、自室のベッドにうつ伏せなり大声で泣き始めたそうです。


 ハッピちゃんは泣き疲れていつの間にか眠っていたそうです。そして目を覚ますと外はすっかり暗くなっていたそうです。ハッピちゃんの心も少し眠ったくらいでは晴れず真っ暗だったそうです。ハッピちゃんはトイレへ行こうと思い自分の部屋を出てリビングの前を通りかかったそうです。すると、リビングの中から大きな笑い声が聞こえてきたそうです。ハッピちゃんは人の気持ちも知らないで何笑ってんのと腹が立ち、リビングのドアを思いっきり開けたそうです。するとそこにいたパパとママとラッキーちゃんとおじいちゃんとおばあちゃんがいっせいにハッピちゃんの方を見たそうです。そこには五つのお多福さんが並んでいたそうです。ハッピちゃんは思わず、

「あははは」

 と大声で笑い出したそうです。つられて五人のお多福さんも大声で笑い始めたそうです。そして笑い終わるとパパが静かにハッピちゃんに話しかけたそうです。

「あなたの意志を無視して勝手なことをしたことはお詫びする。でもなあハッピ、どんなにきれいな顔に整形しても自己満足の顔って結局飽きちゃうと思うんだよ。しかし他人を和ますhappyfaceだったら周りの人達が幸せな気分になり笑顔になり、それを見てハッピも幸せな気分になり、結果自分の顔に飽きもこないと思うんだよな。パパもここまで会社を大きく出来たのは自分の利益より、人の幸せな顔を思い浮かべ続けてきた結果なんだよ。分ってくれるかな」

「う~ん、まあなんとなく」

「まあしばらくその顔で過ごしてみなさい。どうしても我慢出来ないっていうなら、パパも覚悟して違法整形も考えてあげるから」

「分った」

 ハッピちゃんは半分渋々ではあったけど、納得したそうです。

「私、この顔好き」

 とラッキーちゃんが言ったそうです。

「あなたは元々お多福顔だったじゃない」

「そう言われるとむかつく」

 そこにいた六人のお多福さんはお互いの顔を見合いながら大笑いしたそうで。


 その後、ハッピちゃんはほとんどいなかった友達が徐々に増え人気者になっていったそうです。そんなものですからハッピちゃんは、美容整形を受けようなどとはちょっとは思うこともあったのですが(人間だもん)、ほとんど思わなくなったそうです。


        めでたし、めでたし。


                                         お終い





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