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幻聴


 ジルバ大佐もシマント少佐も耳を疑った。浴びせられた言葉が、あまりにも清々しく非礼であったからだ。


 そして、続けざまにヘーゼンは彼らに非礼を浴びせる。


「私はね、あなたたちには死んでもらいたいなーって、思ってたんですよ」


 !?


「な、な、な……」

「いや、だって無能な上官とか要らないじゃないですか。そして、ケネック中佐の派閥も一掃されるので、実質的にここに残る上官はロレンツォ大尉だけでしょう? ()()()()、めちゃくちゃ都合がいいんですよね」


 ニッコリと。


 ヘーゼンは満面の笑みを浮かべる。


「き、貴様正気か? そんなことを言って、タダで済むと思ってるのか?」

「なんかさ……高くないですか?」

「な、何がだ?」

が」

「……っ」


 ヘーゼンは立ち上がってジルバ大佐を見据える。


「言っときますけど、あなたが……いえ、あなたの家族が生き延びるためには、僕が交渉に行かなければ始まらない訳だ」

「そ、それは」

「確か、ジルバ大佐のとこは、娘が今度結婚するんですよね?」

「……」

「殺されますよ」

「……やめろ」

「あと、大佐の妻も、家督を継ぐ長男も。今度孫が生まれますよね。全員殺されます」

「やめろと言っているんだ!?」


 思わずジルバ大佐は、拳を壁に叩きつける。


「やめろ? 今、それは僕に言ったのか?」


 ヘーゼンはジルバ大佐を睨んで、額がつくほどに顔を近づける。


「おい。黙ってないで、答えろ。僕はこれから起こり得る事実を言ったんだ。お前のせいで、みんなが殺される。お前が無能なせいで。それでも、まだお前は、そんな居丈高な態度を取るんだな?」

「……ひっ」


 ジルバ大佐の表情がみるみるうちに情けなくなっていく。心が折れた瞬間を見届けた後、ヘーゼンは綺麗すぎる笑顔を浮かべる。


「別に好きにすればいいさ。僕はお前らなんて死ねばいいと思ってるし、お前たちのせいで家族が死ぬのなんて、どうだっていい」

「た、頼む。家族に罪はない」

「そうだよ。お前のせいで、殺されるんだ。お前の妻も、長男も、娘も、孫も、みーんな、お前のせいで」

「……っ、お願いします! なんとか……なんとかしてください!」


 ジルバ大佐は額を擦りつけて謝る。


 しばらく。


 ヘーゼンは黙ってその頭を眺めていたが、やがて、彼の白髪を掴んで強引に顔を上げさせる。


「……お前は、同じ手口で僕を極刑に貶めようとしてたよな?」

「も、申し訳ない。それも、取り消す。取り消すから、どうか……どうか……」


 か細く、消え入りそうな声で、ジルバ大佐はささやく。


「へ、ヘーゼン少尉! この通りだ、すべて私が悪いんだ。ジルバ大佐に責任はない」

「お前は馬の糞でも食らっておけ。話は、それからだ」

「……っ」


 ヘーゼンは隣で土下座するシマント少佐を一瞥もしない。もはや、完全にアウト・オブ・眼中状態。


「まあ、しかし。僕も別に快楽殺人者ではないから、僕が交渉に当たってもいいと言うメリットがあれば提示してくれ」

「ほ、本当か!? では、シマント少佐の代わりに、少佐格への昇進というのはどうだ?」

「ひっ……ジルバ大佐!?」


 シマント少佐は信じられないという表情を浮かべる。ヘーゼンはそんなことなど歯牙にも欠けず、うーんと無邪気に悩む。


「……しかしな。少尉からの4等級昇進など聞いたこともない。中央が素直にそれを認めるかな」

「そ、そんなことは心配するな。私は、このたびの戦功で、少将へと格上げされる予定だ。絶対に、君を昇進させてみせる」

「やめた」


 !?


「な、なんでだ?」


 ジルバ大佐が尋ねると、ヘーゼンは再び彼の白髪を強く掴んで、顔を近づける。


「誰の戦功だ? お前は、ただやむにやまれず、他に選択肢もないから、そうせざるを得なかっただけだろ? そんなヤツが少将に格上げ? 気に入らないな」

「ひっ……」

「それに、お前の口約束など、なんの信憑性があると言うのだ? 事が済んだら、知らぬ存ぜぬで通す予定だろう?」

「そ、そんな事はありません」

「辞退しろ」

「……えっ?」


 ジルバ大佐はまたしても耳を疑った。もはや、切り落としたいほど、幻聴のようなことしか聞こえない。


「少将格上げの内示が来たら、辞退する旨の一筆を書いて契約魔法を結べ」

「そ、そんな」

「嫌ならいい。僕も死に行く者に構う暇はないから、さっさと出て行ってくれないか?」

「し、します! 辞退します!」

「……嫌そうだな?」

「よ……喜んで辞退させて頂きます! ああ、嬉しい」


 死ぬほど涙目な顔を浮かべて、ジルバ大佐は喜んだ。



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