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合意


 半日後、アルケイド要塞へと到着した。また、クミン族のコサクの出迎えがあったが、完全にシマント少佐を敵視している感じだった。


 軍令室へと向かうと、そこには女王のバーシアがいた。そして、またしてもシマント少佐がハグをしようと両手を広げるが、その前にジルバ大佐が彼女にひざまずき、腕を水平にした。


「……っ」

「どうした? この少女に礼の取り方を教わっていないのか?」

「も、もちろん教わっています」


 驚愕な表情を浮かべつつも、シマント少佐はジルバ大佐に耳打ちをする。


「よろしいのですか? 蛮族どもに、大佐格のあなたが礼をとるなんて」

「いいもなにも、彼女は族長であり近隣の小部族をとりまとめる『青の女王』だぞ? すなわち、一小国の王として対応すれば間違いはなかろう」

「な、なるほど」


 答えた瞬間、シマント少佐の笑顔が消え、滝のような汗が出る。やっと、自分の行動がどれだけ異常で分不相応か気づいたらしい。ヤンは心の中でジルバ大佐にお礼を言った。


「まさか、この短期間でお会いできるとは思っていませんでした」

「私もです。相変わらず、お元気そうで」

「しかし、取引に応じてくれて助かりました。アルケイド要塞は、私たちが平地を拡大していく上での重要な要地だ。要求は厳しいが、まとまってホッとしています」

「そちらのシマント少佐に押し切られてしまいました。交渉上手ですね、彼は」

「……」


 滑らかな会話が素晴らしすぎる。大佐格ともなると、非常に理知的だ。何よりも礼を心得ているのが素晴らしい。そして、細やかな応酬の中にも、今回の契約を反故にするなよと言う牽制をし合っている。


 ヘーゼンの人評では『判断力に欠ける』という評価だったが、なかなか、どうして。まあ、シマント少佐がヤバすぎるので、今は一般人でも神々しく錯覚してしまうのかもしれないが。


「さて。話はこれぐらいにしましょう」


 ジルバ大佐は、方筆を取り出して事前に記入してきた契約書を出した。方筆は、契約魔法を使用する魔道具の一種である。用途は様々あるが、今回は、取り交わした文書を帝国とクミン族との間で公式に残すためである。


 これの便利なところは、偽造ができないことにある。署名者本人でなければ、たちまちその身が焼かれるので、公に他国と条約などを結ぶときには必ず使用される。


 起草は、ヤンが行った。公式な文書を書くのは初めてだったが、『添削の死神』と呼ばれるシマント少佐も唸って渋々署名をするほどの出来だった。


 もちろん、帝国語とクミン語の2つが書かれている。内容は帝国語に沿って、クミン語で訳した。そして、最後に『この2つの言語に内容違いが発生した場合は、クミン族はそれを破棄できる』という言葉を残すことになっている。


 これは、起草者の責任で内容の齟齬を意図的に起こさせない仕組みで、本来ならば、条文を文官たちが目を通し、互いに認識の異なった部分がないかのチェックを行う。


 しかし、今回はそれができなかった。なので、シマント少佐、ジルバ大佐が目を通して現場判断ということで署名をした。


 女王バーシアは、帝国語とクミン族の条文を交互に眺めて頷く。まさか、思うが帝国語の読み書きもできるのだろうか。


「これなら、いいだろう」

「……」


 あっ、できるんですね、とヤンは思った。やはり、青の女王と謳われているだけあって、戦闘以外のスペックも異常に高い。今回の領交換は内容としてはシンプルなので簡潔に書いたが、それでも他国の重要文書まで理解できるのは物凄い。


 女王バーシアは、迷わず署名を行なった。この時、この瞬間から領地交換の条約は成った。


 10日後にコリャオテ、ナセフユ、マナヤタ、ゴルディアはクミン族の領土になり、この要塞は帝国のものになる。


「民の退避については、そこまで急がない方いいが、年内にはしてもらいたいな」

「ありがたい。それで、民を説得する時間が取れるというもの」


 ジルバ大佐と女王バーシアの間で、和やかな会話が交わされる。どうやら、互いにいい取引だったようで両者ともに機嫌がいい。


 ヤンはホッと胸をなでおろした。


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