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論功行賞



 その頃、天空宮殿の執務室では、論功行賞について激論が繰り広げられていた。慣例では、戦後の数日間で決定されるのだが、1週間が経過しても一向に収まる気配がない。


 と言うより、エヴィルダース皇太子、そして、天空宮殿の大臣級の面々が表立って反対を表明しているのだ。


「何度でも言いますが、当然、第一功は、へーゼン=ハイムです」


 帰国したアウラ秘書官は、戦よりもゲンナリした表情を浮かべて断言する。


「ならん! ならんならんならんならん! ならんならんならんならんならんならんならんならんならんならんならんならん!」 


 途端に、エヴィルダース皇太子の怒鳴り声が響く。そして、彼の周囲に取り巻く大臣たちも、全員が一様に頷く。


「……」


 アウラ秘書官は、心の中でため息をつく。派閥の如何に問わず、論功行賞は公平に行われなければいけない。それを示すことが成熟国家たる帝国の威信に繋がるのに。


 そして、それを先頭に立って示さないといけない立場の皇太子が、憎悪に囚われて駄々ばかり捏ねている始末だ。


「当然、第一功は軍神ミ・シルだ! ヤツは、最後に美味しい所を持って行ったに過ぎない」

「それでは、12大国や、帝国国民に示しが尽きません」

「……っ」


 南、北、東、西への竜騎兵の派遣。窮地に置かれた北方の救援。武国ゼルガニアの魔戦士長オルリオを退け、五聖クロードの討伐し、最終的に北の反帝国連合軍を全面撤退に追いやった。


 いや……もっと、広い視野で見れば。西では、弟子のラスベルが、武国ゼルガニアのナンダル王を追い込んだ。


 東では、彼の護衛士であるカク・ズが大将軍ギリョウ=シツカミを打ち破った。


 南では、弟子のヤンが海賊ザナクレスの大船団を追い払い、南軍そのものを撤退させた。


 これが第一功でなければ、大陸史に恥を刻むようなものだ。


「何よりも、ノクタール国のジオス王がへーゼン=ハイムを帝国と同列の盟友と呼び、クミン族のバーシア女王もまた彼を友と呼びました。彼らと今後良好な関係を継続していくためにも、表だった栄誉を与えない訳にはいきません」

「うぐっ……ぐぐっ……」


 12大国の王と多くの異民族を束ねる女王の参戦が、あの男との友情であるものと公式に示している。それを蔑ろにし、表立ってヘーゼン=ハイムを冷遇すれば、反帝国連合国に付けいる隙を与えかねない。


「……」


 そう言いながら、アウラ秘書官は頭が痛くなってくる。もはや、へーゼン=ハイムは、四伯にも匹敵するほどの影響力を持ち始めている。自身の派閥以外で、そんな存在がいるのは、はっきり言って邪魔でしかない。


「ふざけるな! は認めないぞ! 帝国の総指揮官として、断固としてミ・シル伯の第1功を支持する」


「エヴィルダース皇太子の言う通りですな。真っ先に戦場に赴いた四伯が後塵を拝するなど」「武国ゼルガニアの軍百万の軍勢を抑えたのは、紛れもなく軍神の業」「ランダル王と英聖アルフレッドの2人を同時に相手にするなどミ・シル伯以外に誰ができようか?」「これまでの功績を含めても彼女以外には考えられない」


「……」


 次々と大臣級が、エヴィルダース皇太子の言葉に賛同を示す。天空宮殿にドップリと染まった彼らは、本当に何とかなると思っているのだ。皇太子の言葉こそが、至上であり、それを覆すことなど、とんでもないと考えている。


「……」


 もし、ヘーゼン=ハイムを第1功に据えなければ、それが、大陸にどう受け入れられ、帝国がどのように見られるかなど、考えもしていない。


 心の中でため息をつき、アウラ秘書官は話を続ける。


「ならば皇帝陛下には、なんと報告しますか?」

「うぐっ」


 エヴィルダース皇太子は、ぐぬぬ……と口をつぐむ。皇帝レイバースは公平な方だ。論功行賞の第1功にヘーゼン=ハイムの名がなければ、『なぜだ?』と問われるのは必然。


 その答えは、アウラ秘書官にだって、持ち合わせてはいない。


「し、四伯だって、ヘーゼン=ハイムに後塵を拝されては気持ちの面でも納得がいくまい。これは、あくまで帝国内のバランスを考えた措置だ。《《陛下にもそのように報告をすればよい》》」

「……」


 要するに、エヴィルダース皇太子の都合のいいように報告をすればいいと考えているのだろう。確かに、大臣級全員がこちらについている状態であれば、そのように考えても不思議ではない。


 だが、あまりにも、浅はかが過ぎる。

 

「では、ヴォルト=ドネア様はどのようにされますか?」

「あっ……ぐっ……」


 他ならぬ皇帝派の筆頭が、へーゼン=ハイム激推しの状態なのだ。今頃、まるで自分の息子であるかのように自慢しているに違いない。


 エヴィルダース皇太子に全面的に公務を任せているといえど、ここまで報告内容が違えば、温厚な皇帝といえど烈火の如く怒るだろう。


 アウラ秘書官は、エヴィルダース皇太子の後ろに控えている面々を見る。


「大臣級の方々も、それでよろしいのですか? 私はヘーゼン=ハイムの第1功を主張しましたが、あなた方はミ・シル伯を第1功に支持をする、でよろしいですね?」

「「「「……」」」」

「……」


 決まりの悪そうに黙る彼らに、『政治的なセンスも覚悟もないな』と心の中で吐き捨てながら軽蔑する。


 ミ・シル伯は、エヴィルダース皇太子派閥の筆頭。それならば、大きく功が見劣りしないデリクテール皇子派閥のラージス伯が反発するのは目に見えている。


「……」


 アウラ秘書官は、黙って腕を組み座っているデリクテール皇子を見る。この論功行賞の議論に、彼は一言も口を挟んでいない。ガンガンに自身の主張をするエヴィルダース皇太子とは対照的だ。


「と、とにかく! は納得していない。勝手にケリをつけるのは、断固として許さんからな」

「はぁ……」


 第1功が決まらねば、他の功が決まらない。今後、反帝国連合国との対立は長く続くだろう。やるべき事は山ほどある。なのに、これでは何も進まない。


 アウラ秘書官が大きく、深くため息をついた時。


「お、お待ちください……今は大事な会議で――」































「失礼します」

「「「「「……っ」」」」


 ヘーゼン=ハイムが入ってきた。

 

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