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ヘーゼン=ハイム(10)


 武聖クロードは、なおのこと追撃を緩めない。地に落ちた鳥は、猛獣にとって格好のにえだ。猛然と標的に向かって襲いかかる。


 一方で、ヘーゼンは大地に魔杖を突き刺す。


紫電ノ地(しでんのち)

「ガッ……ガガガガガガガガガッ」


 雷属性の魔法が瞬く間に広がり、武聖クロードと魔戦士長オルリオの動きを止める。


 だが。


「ガッ……ガガガガガガ……グググググググッ……カッカッカッ! 心地よい感じじゃな」

「……っ」


 感電しながらも、豪快に笑いながら動き出す。当然、常人には耐えられるものではないはないだろう。実際、落雷と同様の威力ほどはある強力な魔法だ。


 だが、武聖クロードの規格外の耐久力タフネスならば、造作もないことだ。


「ガッ……ガガガガガガガガガッ」


 一方で、魔戦士長オルリオには効き目があるようで痺れた様子で動かない。


 だが、心配はない。この男も尋常ならざる回復力で、すぐさま行動を始めるだろう。武聖クロードは勝ち誇ったように笑った。


「火力が足りないの……修行不足じゃないか?」

「くっ……」


 人権ノ理(じんごんのことわり)耐久力タフネス暗黒ノ理(あんこくのことわり)の回復力をもってすれば、中途半端なダメージは無力化できる。


 となれば、真時空烈断しんじくうれつだんを食らわせるのが、最善手なのだろうが、そこまでの大技を繰り出す隙を与えはしない。


 ヘーゼン=ハイムの底が見えてきた。


「いい加減、意地を張らずに、ラシードかバーシア女王の手を借りたらどうかの?」

「……」


 ヘーゼンは、沈黙で答え、新たな魔杖を右手におさめる。


「フッ……」


 若い。あれだけの口上を垂れて、今更、後には退けないと言うところか。自身の弱さを認められないのら、精神的に未成熟な証拠だ。


「カッカッカッ! 残りの魔杖はどれだけワシらを楽しませてくれるかの」


 武聖クロードは、高速で突進してヘーゼンを捉える。やることは至極単純だ。目の前の敵に追いつき、ひたすら拳撃を繰り出せば、おのずと勝機は見えてくる。


「また、幻光夜鏡げんこうやきょうか……無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!」


 拳撃でヘーゼンの幻影体ファントムを霧散し、武聖クロードは目を瞑り異常な聴覚で耳を澄ませる。


「……」


 この魔杖は、視覚に頼ってはダメなのだ。実体は消えているので、それに囚われれば後手に回る。


「……」


 音だ…… 幻影体ファントムには、人の呼吸がない。


「……」


 人の呼吸は十人十色だ。すでに、ヘーゼン=ハイムの呼吸は把握している。半径数キロ以内にひとつでも呼吸をすれば、その場所を捉えられるように修行をした。


「……ふっ」


 捉えた。


 武聖クロードは弾かれたように、高速移動をする。その気配に動く様子はない。新たな魔杖がどのようなものであれ、武聖クロードの耐久力タフネスならば耐えられる。


 直前。


 目を開けると、予想通りヘーゼン=ハイムがいた。その表情には、動揺が見られた。新たな魔杖を振り翳そうとしているが、こちらの方が早い。


「もらったあああああああああああああっ!」


 武聖クロードが、必殺拳を見舞う。


 封神演武ほうしんえんぶ


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラぁあああああああ!」


 |弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾ダダダダダダダダダダダ|弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾ダダダダダダダダダダダ|弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾ダダダダダダダダダダダ|弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾ダダダダダダダダダダダ|弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾ダダダダダダダダダダダ|弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾ダダダダダダダダダダダ|弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾ダダダダダダダダダダダ|弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾ダダダダダダダダダダダ|弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾ダダダダダダダダダダダ|弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾ダダダダダダダダダダダ


 人権ノ理(じんけんのことわり)の出力を瞬時に最大値まで持っていく大技は、超高速で無数にある人核に膨大な魔力を注ぎ込むことで、人体機能全てを停止させる。


 死にはしない……だが、もはや一生涯、まともに動けはしないだろう。


「はぁ……はぁ……はぁ……カッカッカッ! 傲慢を吐くには、百年ほど早かったの」


 幾千の拳撃を叩き終え、武聖クロードは高らかに笑う。


 所詮、『最強』などと言う称号は、他人と比べての強さ。俗世の者が、あやかりそうな、かりそめの栄光。自分は違う。ただ、ひたすらに己と戦い、己の強さのみを孤高としてきた。


 至高……それが、武聖クロードの求めるものだ。


 ヘーゼン=ハイム。紛れもなく天才の類だ。だが、あまりにも若い。他人よりも、高く飛ぼうとし、自身の内面の強さを蔑ろにした愚か者だ。


 それで、得られるのは、所詮は偽りの強さでしかない。


 人は、自らを高めてこそ真の強さに至る。


 だが。


「何を……何をやってのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「……っ」


 魔軍総統ギリシアの甲高い叫び声とともに。


 武聖クロードは眼球をガン開きにして慄く。


 目の前にいたのは、ヘーゼン=ハイムではなく。


 グチャグチャにされた、魔戦士長オルリオだった。


「はっ……ごっ……あえっ……ば、バカ……なええええっ!?」


 ありえない。そんなことはありえないのだ。実体のヘーゼン=ハイムは、これのはずだ。分析した能力に偽りがないとすれば、確実に幻影体ファントムではないはずだ。


 いや……それが、なぜ魔戦士長オルリオに取って変わっている。


「ククク……」

「……っ」


 遥か後方から。


 小さな小さな笑い声が聞こえる。


 聞き慣れた声。


 知っている声。


 武聖クロードは、恐る恐る後ろを振り返る。

































「すまないな……化かし合いで負けたことはないんだ」

「……っ」

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