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ヘーゼン=ハイム(8)


「……なんじゃと?」


 武聖クロードが聞き返すが、ヘーゼンは平然と言い放つ。


「『五聖を討ち取った』と言うハクが必要なんだ。戦功は、わかりやすい方がいいからな」

「……」


 大陸でも四伯と並び称される最強格の五聖に対し、ヘーゼンは圧倒的な上から目線を見せる。


「カッカッカッ! 若いのぉ! ヌシみたいなギラついた新人ルーキーは大歓迎じゃ」

「さすがは、五聖。どこかの矮小な器の持ち主とは、違う」

「きっ……きいいいいいいっ! な、な、な、ななななんですってーーーーー!?」


 キンキン声で、魔軍総統ギリシアが地団駄を踏み叫び散らす。しかし、その存在を完全にないものとして、黒髪の青年は、精悍な老人を真っ直ぐに見下ろす。


「武聖クロード。恐らくあなたは、五聖の中で最弱だ。不殺ころさずの誓いなど、くだらぬことに囚われているのがその証拠だ」

「……」

「生と死を果敢に取り合う戦場において、不殺ころさずなどは慢心以外の何物でもない。逆に言えば、ギリギリの修羅場をくぐっていない証拠だ」

「そこまで、追い詰められたことがないからの」

「それも、おかしな話じゃないか? 四伯に他の五聖……12大国のトップ級でもいい。命を賭けて戦う相手はいただろう?」

「……」

「その矛盾の鍵は不殺ころさずだ。互角の相手と死闘になれば、己の信念が突き崩されてしまうかもしれない。だから、余裕を持って勝てる相手とだけ戦い続けた」

「……」

「常にギリギリの戦いに晒され、研鑽してきた彼らとは違う」


 他の五聖は、千の死闘を潜ってきてそう呼ばれらに至った。だが、武聖クロードは違う。その高潔な生き方。そして、真なることなりに選ばれ、周囲が納得できる、説明できるほどの強さを示すことで、五聖と呼ばれるに至った。


 勝ち取った称号と、ただ与えられた称号……その差は大きいとヘーゼンは分析する。


 だが、そんな言葉を武聖クロードは一笑に伏す。


「カッカッカッ! 野獣のようにギラついた男じゃの。思想の問題じゃ。己の強さを実感するため、悪戯に喧嘩を吹っかける気はない」

「ククッ……あなたは、自身の中にある大いなる矛盾に気づいていない。いや、気づかないフリをしているのか」

「……」

「『己の強さを磨くことにしか興味がない』と言っておきながら、自身と同等の者たちに挑もうともしない。1つ聞く……あなたは何がしたいんだ?」

「強さの定義は1つではない。あらゆる者に、それぞれ異なった強さがある。ワシの追い求める強さと、ヌシの追い求める強さが違う。ただ、それだけのことじゃ」

「あなたなら、そう逃げるだろうね。では、僕はあなたの『強さ』を否定する。その中途半端で、都合のよい、曖昧な強さを」

「……では、ワシも1つ聞く。ヌシの求める強さはなんじゃ?」

「僕の求めるものは1つ。最強だ」


 ヘーゼンは不敵に言い放つ。


「目の前に立ち塞がる者を全て蹴散らし、道を阻む者を踏み潰していく。強さとは、己の道をいかに真っ直ぐに突き進めるか。それだけだ」

「……傲慢じゃの」

「それを言う資格は、弱者にはない。あなたは、僕の前に立ち塞がる、取るに足らない石ころだ。早く偽りの五聖の座を譲り渡し、後任に託せ」

「カッカッカッ! では、証明してもらおうかの? ヌシの強さというものを」

「……」


 揺らぎがない。ヘーゼンは、心の中で舌打ちをする。戦いは、精神こころの削り合いだ。いかに、敵の本質を見抜き潰すか。その心の弱き部分を突くのが、戦闘において大きな揺らぎを作る。


 だが、武聖クロードには、さざなみほどの動揺も感じられない。


「……」


 ヘーゼンは、チラリとラシードの方を見る。なおも、撤退の一手で、北のベルモンド要塞へ入っていく。彼は優秀な戦士だ。バーシア女王が思っている以上に危険な状態だと判断したのだろう。


 彼女には今死なれては困る。


「仕方がないな」


 ヘーゼンは小さくため息をつき、脳内をフル回転させる。


「ククク……俺もいることを忘れていないか?」


 一方で、武国ゼルガニアの魔戦士長オルリオが不気味な笑みを浮かべる。


「……忘れてはいないさ」


 ヘーゼンは、なおも不敵な表情を崩さない。そして、もう一方の戦士を凝視し観察する。


「面白い戦い方をしていたな。蛮族の犬女よりも、褐色の剣士よりも俺好みだ」

「そうか」

黒翼こくよく


 魔戦士長オルリオがつぶやくと、背中から漆黒の翼が生えて悠々と飛翔する。そして、飛翔するヘーゼンの前に、現れる。


「暗黒ノあんこくのことわり……便利な魔杖だな」

「貴様のような器用貧乏は大陸には幾らでもいる。だが、真なることわりを持つ者は《《選ばれし者》》。所詮、選ばれし者でない貴様は、俺には勝てない」

「つまらない男だな」

「……あ?」


 魔戦士長オルリオが聞き返す。


「魔杖に選ばれる? 自身が何を為したか……人が誇る時はそれしかない。宝クジに当たった幸運なだけの男が、ドヤ顔で自慢してくるのには吐き気すら覚えるね」


 ヘーゼンは嘲ったように嗤う。


「……ふざけるなよ、貴様。真なることわりの魔杖に選ばれなかったが故のヒガミは、見るに耐えんな」

「運命に翻弄されるしかない能無しの言葉には、重みをまったく感じないな。そうやって、犬根性剥き出しで、恥ずかしくないのかい?」

「ふざけるな! 俺は選ばれし者だ!」


 思わず激昂する魔戦士長オルリオにヘーゼンは笑う。


「《《選ばれるなんて、恥ずかしくないのか》》? 絶対たる者を超えてこそ、そこに高みがあるとは思わないのか?」

「……っ」

「バーシア女王を蛮族の犬呼ばわりしていたが、君こそ根っからの……いや、生まれながらの犬畜生だな」

「んだとこの野郎おおおおおおおおおおおおお!?」


 漆黒の戦士は、狂ったように叫ぶ。


「魔戦士長オルリオ……落ち着け。ヤツの術中にハマっておるぞ」

「うるさいうるさい! 俺に……俺に命令するなあああああああああああああああああああああっ」

「……はぁ」

「ククッ……真なることわりの魔杖の犬が、ランダル王の手下が、命令を拒絶するなんて滑稽だな。どうせなら、尻尾をブンブン振ってワンと喜んで舌を出していた方が、まだ可愛げがある」

「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」


 ハマった。ヘーゼンは心の中でほくそ笑む。武聖クロードの方は、大きくは突き崩せなかった。一方で、暗黒ノ理(あんこくにことわり)は、恐らく、精神的に不安定な影響を及ぼす魔杖なのだろう。


 戦術は固まった。
































「来い……2人まとめて相手をしてやる」

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