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道中


           *


 南部に向かう道中。千騎の竜騎兵は、援護に向かいひた走る。


 その間、アウラ秘書官はヤンと綿密に打ち合わせをするが、話せば話すほど、その天才性に驚かされる。


 加えて。


「ヤン……君が螺旋ノ理(らせんのことわり)を引き継いでいるとは、未だに信じられない」


 ことわりを冠する特級宝珠の大業物は、魔杖工が不明で、いつ、どこで製作されたのもかもわからない……人が造ったものであるかどうかすら。


 中でも、螺旋ノ理(らせんのことわり)は、数々の偉大な魔法使いが引き継いできた最古の魔杖で、その歴史は1、2を争うほど古いと言われる。


「そんなに珍しい魔杖なんですか?」

「ああ。あれは、ただの特級宝珠の大業物ではない。『真なることわり』の魔杖の1つともされているからな」

「ん? なんですか、それ」


 ヤンが不思議そうに尋ねる。


ことわりを冠する魔杖は、制作者がわからないからな。特級宝珠の大業物を、使用者本人が名付けたりする場合も多くある」

「なんか、パチもんを自慢するみたいでカッコ悪いですね」

「そ、そう言ってやるなよ。殺されるぞ」


 基本的には、その威力は破格だ。使用者にそんなことを言った日には、激昂して襲い掛かられかねない。


 ナチュラルに相手を挑発する危険な娘だと、アウラ秘書官は、どこかの誰かさんを思い浮かべる。


「真なることわりの魔杖を見分ける方法ってあるんですか?」

「……あるとも言えるし、ないとも言えるな」

「どう言うことですか?」

「真なることわりを冠する魔杖は、()()()()()使()()()()()()()()。いかに優れた魔法使いであろうと、意図的にそれを扱うことができない」

「それって、すーもですかね?」

「恐らくな」


 報告によると、ヘーゼン=ハイムは、あらゆる魔杖を扱う訓練をしていたと聞く。学生時代から、大陸の常識を覆した修行を行なっていたことについては驚嘆以外の何物でもないが、真なることわりの魔杖を扱うことはできないだろう。


「……」


 もし、それができれば、化け物を超える。


「とは言え、他の大業物でも、真なることわりの魔杖と同等の効果をもたらす物もある。結局は、魔杖工の腕次第ということもある」

「なるほど……」


 軍神ミ・シルの雷神ノ剣(らいじんのけん)蒼穹ノ鎧(そうきゅうの鎧)は、史上最高の魔杖工と謳われるガウディが製作したものだ。その破格的な効果は彼女自身が証明している。


「……っと。話が逸れたな。とにかく、君が持つ螺旋ノ理(らせんのことわり)は、それだけ強力なものだ」


 あまりにも無邪気に尋ねられるので、ついつい話し過ぎてしまった。


「でも、制御できないですよ」


 ヤンはそう言って、グライド将軍の幻影ファントムを発生させる。


「いいですか、グライド将軍! 戦場に着いたら、私の言うことをーー」

「カカカカカッ! 戦じゃ戦ー! 若いもんから順番に殺していくぞ、ワシ!」

「クソ老害過ぎる!?」


 ヤンはガビーンとしながら、慌ててジジイの幻影ファントムを消滅させる。


「これですもの……」

「なるほどわからん!?」


 アウラ秘書官がガビーンとした表情を浮かべる。


「基本的に老害ムーブですから。すーが脅しの道具として私を使用した時も、大分魔力を使ってグライド将軍の意思を抑えこんだんです」

「……その後、もの凄く涼しい顔をしていたが」

「敵に弱みを見せると、つけ込まれますからね」

「……」


 やはり、ヘーゼン=ハイムの弟子なだけある。ところどころに抜け目のなさが垣間見える。


「では、どうする?」

「アウラ秘書官に頑張ってもらうしかないですね」

「……っ」


 あっけらかんと。


 帝国数本の指に入る実力者を、顎で使おうとする小娘。


すーからの話ですけど。もともと、相当な実力者だと聞きましたよ」

「そ、そんなことはない。私など四伯には到底及ばない」

「大将級の実力はあるって聞きました。だったら、その実力を使わないともったいないじゃないですか」

「……っ」


 めちゃくちゃ、顎で使おうとしてくる小娘。


「そりゃ私だって役に立ちたいから頑張りたいですけど、グライド将軍ってサポート向きじゃないんですよね。ラグさんは近距離専門ですし。私が竜騎兵を指揮して、アウラ秘書官に頑張っていただくしかありませんね」

「君は、今、相当に無茶なことを言ってるぞ!?」


 アウラ秘書官は、あまりの無茶振りに驚愕な眼差しを向ける。彼自身、派閥に入ってから戦場には出ていない。なので実戦をするのは、数年ぶりだ。


 それで、いきなり四伯のサポートをしろと言うのだから。


「……まあ、ヘーゼン=ハイムならば私が死ねば一石二丁だろうし、わからないでもないが」


 そして、彼女はヤツの弟子だ。そのように誘導するのもある意味で自然だとも言えるが。


「そんなことないですよ。すーは、敵だろうと、優秀な人は可能性のある限り仲間にしようとしますからね。アウラ秘書官には絶対に死んでほしくないはずです」

「言ってることとやらせようとしてることが矛盾してるのだが!?」


 自然鬼畜ナチュキチ小娘に対し、アウラ秘書官が驚愕の眼差しを向ける。


「大丈夫ですよ。アウラ秘書官は死にません」

「……」


 そのニパーっとした笑顔に、不思議な説得力を感じる。本当に不思議な子だ。螺旋ノ理(らせんのことわり)がなぜ、こんな小娘にとも思ったが、もしかするとそれに値する器なのかもしれない。


 やがて。


 アウラ秘書官は、フッと微笑み呟く。


「じゃ……その言葉を信じるとするかな」

「はい! 安心してください!」




























「最悪、命だけあればなんとかするってすーも言ってましたし」

「……っ」




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