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異変


           *


 北方のベルモンド要塞で、帝国軍は依然として籠城を続けていた。


 武聖クロードの魔杖は人権ノ理(じんごんのことわり)。驚異的な身体能力を付与し、帝国軍を圧倒的な武力で蹴散らす。


 だが、四伯であるジオラ=ワンダの魔法は、老獪かつ多彩であった。


土偶ノ兵(どぐうのつわもの)

「くっ……またか」


 土で型取られた数百の兵は、武聖クロードの周りを囲み一斉に襲いかかる。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」


 当然、驚異的な拳速で、土兵を簡単に駆逐していくが、その攻撃は途切れることがない。


 一度に数万の土兵を召喚できるジオラ伯だが、小戦力に分け逐次投入することで、武聖クロードが近づく隙を与えない。


 その間、副官ラビアト=ギネスの魔杖、癒海ノ心(いかいのこころ)で負傷した兵を回復する。戦線に戻った兵たちは、再び武神クロードを囲んで攻撃を加えていく。


 更に。


土精ノ怒(どせいのいかり)


 竜騎兵ドラグーン団が進行しようとすると、地面から鋭利な岩石を次々と発生させ妨害する。彼らは、ベルモンド要塞に近づくことさえ許されなかった。


 この戦闘を優勢に進めているのは、明らかに帝国軍の方だった。そして、帝国軍の陣営は、幾分か安堵の雰囲気が出てきていた。


「流石はジオラ伯ですな。反帝国連合軍を寄せつけもしないとは」


 ザオラル大将が、城郭で敵を見下ろしながら言う。


「……ゴホッゴホッ!」

「だ、大丈夫ですか!?」


 隣にいるジオラ伯は、背中を曲げて咳き込み、副官のラビアトが泣きそうな表情で身体を支える。


「はぁ……はぁ……まだ平気じゃ。敵軍は本気じゃないからな」

「本気じゃない? まさか」


 ザオラル大将が、信じられない表情でつぶやく。


「……魔軍総統ギリシアが動いていない。ヤツならば、もっと多彩な戦術でワシらを撹乱してくるはずじゃ。それをしないと言うことは……ゴホッゴホッゴホッゴホッ……ガハッ!」

「ジオラ伯! ジオラ伯! しっかりしてください!」


 大量の血を吐き出し疼くまる老人に、ラビアトは何度も何度も身体をさする。


 そんな中、大量の霧が発生し、痩せ細った白い肌の男が姿を現す。


「クククク……相変わらず、カンのいいジジイだこと」


 その場にいたのは、魔軍総統ギリシアだった。


「貴様……どうやって?」


 ザオラル大将が、自身の魔杖『烈風ノ太刀(れっぷうのたち)』を構える。


「ククク……通って来たのよ。悠々と真っ直ぐにね」

「そんなはずはない」


 ベルモンド要塞は難攻不落の防備が施されている。当然、侵入防止用の魔法も幾重にも施されている。


「無駄じゃ……ヤツの千里ノ霧(せんりのきり)は単独での侵入を防げない」


 魔軍総統ギリシアは、この魔杖を駆使して神出鬼没に出現することができる。


「なるほど……だが、単騎で来るとはいい度胸だ」

「クッ……ククククククク……アハハハハハッ! 本当に脳筋サルね、あなた。私が、この10日あまり……()()()()()()()()()()?」

「……何を言っている!?」

「あなたたちは所詮、英聖アルフレッドに踊らされているのよ」

「ほざけ!」


 ザオラル大将が烈風ノ太刀(れっぷうのたち)で魔軍総統ギリシアを両断するが、すでにその姿は消えていた。


「……いったいヤツは何しに来たんだ」

「ゴホッゴホッ……確認じゃよ」

「確認?」

「ヤツは、神医と呼ばれるほどの魔医じゃ。ワシを診て、あと、どれくらい持つかを測ったのじゃ。そしてーー」


 ジオラ伯がそう言いかけた時、伝令が全速力で走ってくる。


「も、申し上げます! 武国ゼルガニアの軍勢が……ベルモンド要塞の北に出現しました!」

「バカな!?」


 急いで敵軍を眺めると、眼前には敵軍がズラリと並んでいた。そして、その先頭にいる男を遠目から見て、ザオラル大将は震える声でつぶやく。


「……魔戦士長オルレオ=ガリオン」


 遠目でもわかる強烈な威圧感。


 武国ゼルガニアのランダル王の懐刀であり、親衛隊長でもあるNo.2が、なぜ、ここにいる。


「運んだか……やはり、厄介なヤツじゃ」


 ジオラ伯が、真っ青な表情をしてつぶやく。魔杖、千里ノ霧(せんりのきり)は、数百キロ先の距離を運ぶことが可能だ。


 恐らく、魔軍総統ギリシアは数度にわけて大量の霧を発生させ、武国ゼルガニアの大軍をここまで移動させたのだ。


 ラージス伯が扱う魔杖『虚空ノ理(こくうのことわり)』に似ているが、魔軍総統ギリシアの方がより多く、より遠距離に運ぶことができる。


 すなわち、サポート役としては、四伯すらも凌駕する魔法使いである。


「ゴホッゴホッ……ラビアト……ここを出て、帝国から援軍を連れて来なさい」


 ジオラ伯は咳き込みながらも、身体を支える美女に指示をする。


「そんな! 私もここで戦います!」

伝書鳩デシトは魔軍総統ギリシアによって抑えられるだろう。であれば、ここから抜け出せるのは、ヌシしかおらん」

「……」

「心配するな。ワシはまだ死ねん。ヌシが来るまで、持ち堪えて見せる」


 痩せ細った老人は力なく、だが、真っ直ぐな瞳で笑う。


「……わかりました。ご武運を」


 ラビアトは泣きそうな表情で目を瞑り、ジオラ伯の魔杖『大地ノ理(だいちのことわり)』に身を委ねる。


 彼女は即座に土に覆われて姿を消した。この魔杖もまた、単独であれば数百キロ先に相手を移動させることができる。


「ゴホッゴホッ……さて……やるかの」

「……笑っておられるのですか?」


 彼女を転送し終えたジオラ伯の様子を、ザオラル大将が見て尋ねる。


「フフッ……なんでじゃろうな。この窮地に追い込まれた状況でこそ、これ以上ない生を感じるのじゃ」
























「ゴホッゴホッ! さて……四伯の力を見せてやるとするかの」



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