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           *


 へーゼン=ハイムは、大地の音を聞きながら、ヤンの表情かおをジッと見つめていた。普段は、寄り付きもしないで、むしろ、逃げ出していくくらいの少女が、ワザワザ近づいてきたのだ。


 やはり、この子はカンがいい。


 本能的に異変を感じ取ったのだろう。それは、膨大な情報を集積し・超高速計算の末に辿り着いたへーゼンの結果と同じであった。


 そして。


 微かな蹄音を、寝転んでいた背中に感じた。瞬時に反応したへーゼンは、音の数で規模を感じ取り。


 ニヤリと笑みを浮かべた。


 そして、その蹄音はヤンの耳にも聞こえるようになり。


 やがて、テナ学院中に響くものとなった。


 現れたのは、雄々しい巨体の数々だった。馬よりも倍ほどの速度で、鋭い牙と尖った口を持つ生き物だった。


 ヘーゼンが待ち望んでいたものが目の前にあった。


「待たせたな」


 竜騎に乗った褐色の剣士ラシードは、不敵な笑みを浮かべた。後方には、竜騎8千を連れてきている。


「予想以上の数で感謝の言葉が見当たらない」


 黒髪の青年は、手放しの感謝を述べる。


「本当は5千だったが、野生で勝手についてきた」

「……意味がわからないが、そうなのだろうな」


 恐らく、竜騎に育てられた異端児のラシードだからだろう。竜騎は群れで暮らす種族なので、同族間の意思疎通が馬よりも優れていると聞く。


 そんな中。


 丸々と太った男が、最後方から叫ぶ。


「もーっ! 相変わらず、ワガママというか。自由というか。もー、俺、砂国ルビナに帰れないじゃないか」


 バルファーレ=ローダス。砂国ルビナの元竜騎兵(ドラグーン)団副団長である。彼は、真っ黒のレンズの眼鏡をクイッと上げてブチブチと不満を言う。


 わ、わかるなぁ……とヤンは自分のことのように同情をする。


「でも、ラシードさん。帝国にも知られずに、どうやってここまで来たんですか?」


 これだけの数の竜騎が帝国領に入れば、瞬く間に大騒ぎだ。まして、反帝国連合との戦が勃発している中で、『砂国ルビナが攻めこんで来た』と思われても不思議ではない。


「そりゃ、あいつの方が詳しいな。俺は指示に従っただけだから」


 ラシードは、竜騎の試乗をしているへーゼンの方を指差す。


すー……どうやって暗躍してたんですか?」

「バーシア女王に輸送を頼んだ」

「……なるほど」


 へーゼンが提供した質のいい魔杖のお陰で、クミン族は北方の異民族を手中に納めたと聞く。確かに彼らなら、誰にも気づかれることなく、ここまで来られるのかもしれない。


「……でも、竜騎に険しい山道が越えられるんですか?」


 竜騎は平地での走行を専門とする。多少の山々ならば問題はないが、険し過ぎる獣道の歩行はできないだろう。


 だが、ヘーゼンは平然とした様子で答える。


「バーシア女王に人員を割いてもらい、竜騎がゆっくりと通れるまでに舗装させた。一方で、ナンダルにも協力してもらって、帝国側からも道を整備させた」

「……」


 簡単に言っているが、とんでもないことだ。帝国にその存在を気取らせないために、莫大な時間と費用を使っている。


 ヘーゼンは竜騎捌きに苦闘しながらも、黒髪少女に指示をする。


「ヤン。ラスベルに『時が来た』と伝えろ」

「……はい」

「特別クラスの生徒たちを5人選んで連れてきなさい。生き残れる5人をだ」

「わかりました」


 少女は迷わずに、頷いて走る。もう、あまり言葉は必要なかった。あの子は、肌でそれを感じ取っている。


 ここからは、最短で行く。


 ヘーゼンは竜騎に乗りながら、ラシードの方を向く。


「今から、マドンの下へ8千の竜騎を運んでくれ。早速、下級貴族たちを乗せて実戦で試す」

「大丈夫か? 乗れはするだろうが、かなり暴れるぜ?」

「相手は上級貴族たちの軍団だ。彼らならば、むしろちょうどいい」


 マドンを始めとする下級貴族たちは、この戦でひたすら実戦を鍛えた。馬術の練度も高いはずなので、すぐに慣れるはずだ。


「やれやれ。ひと休みもさせてもらえないとは」


 ラシードは飛び起きて、竜騎に跨がる。


「助かる。後で、存分にいい酒を飲ませてやる」


 ヘーゼンは竜騎を淀みなく走らせながら答える。だんだんと、コツが掴めてきた。乗っている感覚は、かなり馬に似ている。速度と手綱を扱う膂力にさえ慣れれば、むしろ、竜騎の方が扱いやすい。


 これならば、帝国の兵であっても乗りこなせるはずだ。








 






















「行くぞ。1週間以内に、ゼルクサン領とラオス領を制圧する」

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