表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

575/700

反帝国連合国


           *


 凱国ケルローの拠点ザハロ。その風を、最も早く感じ取ったのは、戦闘中の帝国少将マラサイだった。


 狂剣のマラサイ。この異名は彼が単騎で一個師団を全滅させた時に名づけられた。戦場にしか興味のない生粋の軍人。生まれてから半世紀以上、最前線の戦地を駆け巡る帝国の宿将である。


 ある戦場で、左目に矢が突き刺さった。すると、マラサイは眼球ごと矢を取り出して、それを喰らい、返す矢で射手を絶命させたという逸話すら持つ。


 歴戦の猛将は、幾多の血飛沫を浴びながらも、歩を前へと進める。


「……」


 だが、突如。


「砦へ引くぞ」

「な、何をおっしゃってるんですか? もう少しで重要拠点ザハルを落とせるのに」


 副長のブラッドが、その異変に慌てる。


「おやおや、逃げるのかい?」


 眼前で挑発するのは、凱国ケルローの副団長ダルシア=リゼル。長身で屈強な女戦士であり、双槍型の魔杖『雌雄ノ竜槍(しゆうのりゅうそう)』を構えている。


「ふん。戦風が吹いた。血なまぐさい、ワシ好みのものがの」

「フフ……老いたね。『狂剣のマラサイ』ともあろう御仁が、臆病風に吹かれただけじゃないか」

「気がつかないとでも、思ってるのか?」


 眼帯の猛将は、ギロリと圧倒的な殺意を向ける。だが、ダルシアは平然とした様子で、ニヤけ顔を向ける。


「なんのことだか。逃げた腰抜けの声など聞こえないねぇ」

「……気が変わった。さっさと貴様を殺して、砦へ戻ることとする」


 マラサイは自身の魔杖『獄門ノ剣(ごくもんのつるぎ)』を構え突進した。


           *

           *

           *


 その暴風は、2日後ほど経過し、天空宮殿にまで吹き荒れる。エヴィルダース派閥の執務室に、顔面蒼白の伝令が駆けつけた。


「も、申し上げます! 凱国ケルローが30万の兵で戦地ライエルドを強襲中」


 陣営に動揺が走る。その規模の戦は、年に一度起こるかどうかのものだ。


「ははははっ! バカめ、あの場所にはクソジジイがいる。そう簡単に破れるものか」


 エヴィルダース皇太子が笑い叫ぶ。誰もが彼に同調する中、アウラ秘書官だけが熟考し、つぶやく。


「……ですが、おかしいですな。あの地域は、凱国ケルローの重要拠点ザハロにまで進軍していたはず」

「耄碌して歳なんじゃないか? なあ?」


 その囃し立てに、陣営の面々がドッと笑う。


「……今の戦地ライエルドは補給も万全で、帝国がかなり優勢であったはず。いかに、30万の大軍と言えど懸念は薄い。だが、なぜーー」


 アウラ秘書官がそう言いかけた時。新たな伝令がその声を遮った。


「さ、砂国ルバナの竜騎兵ドラグーン団10万が帝国北部に進軍しております」

「……このような時に。すぐに、四伯のいずれかを支援に向かわせなければ」


 だが、その言葉すらも、伝令が入ってきて次々と遮って行く。


「も、申し上げます! 蒼国ハルバニア軍50万が我が帝国に向かって進軍中」「精国ドルアナ軍45万が帝国西部に進軍しております」「申し上げます! 食国レストラル軍60万が帝国西部に向かっております」「グランジャ祭国軍25万が北上して我が軍を襲っております」「ゼレシア商国軍35万がーー」「琉国ダーキア30万がーー」「ルクセルア渓国40万がーー」


「も、申しあげます! 武国ゼルガニアのランダル王が……100万の軍勢を引き連れ、我が軍に向かって進軍中!」


「「「「「「「……」」」」」」」」


 陣営の全員が言葉を失った。


「なっ……そっ……がっ……あぐっ……どう言うことだーーーーーーーーーー!」


 エヴィルダース皇太子が、取り乱し、伝令の胸ぐらを掴み叫ぶ。だが、伝令たちも取り乱しているようで、誰もが理解不能な表情を浮かべている。


「……反帝国連合」


 一筋の汗をかいたアウラ秘書官が、なんとか声を絞り出す。


「な、なんだそれは?」

「かつて、クゼアニア国の王ビュバリオが、帝国の猛攻を抑えるためにイリス連合国を形成しました。今、まさしくそれが行われてます」

「バカな! これほどの規模の繋がりが容易にできるはずがない」

「……」


 発起人は想像がつく。大軍師アルスレッド=ラルドー。ヤツならば、これほど大きなを描いても不思議ではない。


「レイラク。すぐに、四伯を呼べ。総大将をミ・シルとして即討伐隊を出陣させる」

「は、はい!」


 アウラ秘書官はすぐに、副官に指示をする。幸いにも四伯は今、天空宮殿内にいる。すぐに中央から人材を散らさなければ、帝国は領土の大半を失う。


 時間がない。


「出陣させると言っても、どこへ向かわす気だ!」


 エヴィルダース皇太子が、取り乱しながら叫ぶ。


「それは、これから考えます。グラッセ筆頭秘書官。すぐに、デリクテール皇子、ヴォルト・ドネア殿と謁見する準備を」

「……わかった」

「な、何を言ってる!? 敵対派閥と会するなどーー」

「そんなことを言っている場合ではなくなりました。すぐにでも、総力をもって動かなければ、帝国は領土の大半を失います」


 滅亡の憂き目にまでは遭わないはずだ。帝国の人口は多く土地も広い。一方で、12大国は1つの国ではない。侵略の途中で、各国間の連携が機能不全に陥る可能性は高い。


 だが……陥らなかったら。


「……」


 考える時間が足りない。


 時間が、1分1秒でも惜しい。


「シボレ第3秘書官。全ての領主に対して、可能かつ最大の兵力を準備するよう通知しろ」

「了解しました!」


 アウラ秘書官が順次指示をする一方で、陣営の面々も、すぐさま、動く。


「お、おい! それは、ヘーゼン=ハイムもか!?」

「当然です」


 キッパリと答える。いや、むしろ、この有事において、頼りになるのはあの男だろう。


 だが、エヴィルダース皇太子はブンブンと首を振る。


「そ、それは認めない! あの男に功を取らせるのは危険だと言ったのは、そなたではないか!」

「今はそんなことを言っている暇はーー」


 反論しようとした時、筆頭秘書官のグラッセが肩に手を置く。


「アウラ秘書官。今、ヘーゼン=ハイムは内戦で軍を動かせない状況だ。エヴィルダース皇太子の仰る通り、大して役には立たないのでは?」

「あの男は、1人でも数十万の大軍に勝ります。余力を温存して勝てるほど甘くはない」

「ですから。内戦を終わらせてから、向かわせるのです。この戦は長くなる。第2陣でも、十分に間に合うはずだ」

「グラッセ筆頭秘書官の言う通りだ! 現段階でヘーゼン=ハイムへの派遣要請は許さん」


 エヴィルダース皇太子は頑として言い放つ。


「……っ」


 アウラ秘書官は血が滴れるほど、強く拳を握った。


 こんにちは花音小坂です! こんなシリアスな場面で申し訳ありませんが、宣伝をさせてください!


 本日、2巻が発売されました! 勝負の時でございます! 今回は、もう1人の怪物モズコール=ベニスが放たれます! 世間様の反応がどのようになるのか、今からワクワクしてます!


 ぜひぜひ連休初日、2日目のストレスを書籍2巻で発散いただければ、これ幸いでございます!


 この物語は完結まで出版できたらなと本当に強く願ってますので、モズコールと一緒に作者も応援頂けるとすごくありがたく思ってます! 


 また、特典の情報を下記にてまとめますので、書籍購入の参考にして

いただければと思います。


【特典情報】

メロンブックス様→SSリーフレット『エマへの手紙』


リンクはこちら↓

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2453146


BOOK☆WALKER様(電子書籍)→オリジナルSS『ヤンのお仕事』


リンクはこちら↓

https://bookwalker.jp/de001a714f-40d3-4b1d-bd56-451c7963a289/


また、フォロワー様に向けたオリジナルSS特典『エマのお買い物』が8月19日18時から配信予定です!


そしてそして、立て続けに8月26日にはコミック1巻も発売されますので、

併せてご購入いただければ幸いです。


 今後とも何卒よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
皇帝無視して皇太子が決める権限あるのかこの国は?変な回。
[一言] 合従軍!
[一言] 周辺国全部から攻められてるのに対策も検討もなく恐らく最善手である強駒を動かす考慮すらしないとか馬鹿すぎてクサ(ง ˘ω˘ ;)วクサ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ